初恋の行方③
エレナちゃん目線です!
穏やかな風に、どこか懐かしい香り。
私が住んでいた街。
ライナルトの手の上の高さから見るのは新鮮だったし、もうすでに人がガヤガヤと集まっているけれど、最後に見た時と何も変わらない街がそこにはあった。
ライナルトが提案をしてくれてから、正直ここに来るかどうか本当に悩んだ。
真相を知りたい。ユアンは本当にカトリーヌ様のことが好きなのか。それならば、もう自分にチャンスはないのか。
「初めて来ました。ここがオルべリの街。エレナさんの出身地なんですね」
エリオットが辺りをキョロキョロとも渡している。
「穏やかで良いところだな。エル、私もエリオットも土地勘がない。案内してもらっても良いか?」
ライナルトの言葉に、私はもちろん!というかのようにキキッと鳴く。
(ユアンのことも気になるけど、まずはアーシャに会いたい!)
友達の家に行きたいというと二人は快くアーシャの家のほうに向かってくれた。
アーシャはミーハーだから、ライナルト殿下が現れたとなればすぐに見に来るはず。でもいなかった。ということは…!
(家の雑貨屋を手伝ってるんだ!!)
エリオットが店のドアを開け、王子が店に足を踏み入れる。その途端息を飲むような奇声を発しながらひっくり返るガタイの良い店員さん……アーシャのお父さんだ。
「おやおや」
エリオットが目を丸くする。お、お気の毒に……
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「ふむふむ、ユアンに会いに来たってわけかぁ。で、そのハムスターがエレナなの?なんだか信じられないんですけど」
アーシャ、相変わらずのメンタルの強さ。次期国王と一流の貴族を前に堂々たる態度。エリオットが再び目を丸くしている。
ここの家、やたら気の強いアーシャとお母さんに、やたら気の弱いお父さんで、面白いんだよなぁ……
「エレナ、お父さんとお母さんには会いに行ったの?」
そう言うと、じっと私の顔を疑うように見てくるアーシャ。
(え?アーシャ、いきなり何を言い出すんだろう。私にはお父さんお母さんも物心ついた時からいなかったし。一人暮らしを親切なこの街の人に育ててもらったんですけど…?)
じーっと私の顔を見続けていたアーシャが突然、あっはっはと大声で笑い始める。
「鎌をかけてみただけよ。それにそのボーッとした顔、間違いなくエレナだわ」
そう言うと私の頭をぐちゃぐちゃと撫で始めるアーシャ。ハムスターなのに面影が!?
「風の噂でエレナは急に城で働くことになったと聞いていたんだけどね。まさかこーんな可愛い姿になっているとは」
うりゃうりゃと私のほっぺをいじるアーシャにムッとするライナルト王子。
「あ、あのアーシャさん、ユアンさんの居場所の方はご存知だったりしませんか?」
なぜか貴族に敬語を使わせているアーシャ。
街に入ってからユアンを見かけなかったし、ここにくるまでに通ったユアンの実家の店にもいるようには見えなかったからだ。
「ユアンね、最近ずっと昼間からバーに入り浸っているらしいのよ。ほら、広場のところの。私も見に行ったことはないんだけど、今日もそこにいるんじゃないかしら」
バーと聞いて驚く。ユアンはすごく真面目だったし、お酒を飲むイメージなんてなかった。
「エル、行ってみるか?」
ライナルトの言葉に頷く。
真実を知って、傷つくかもしれない。これまでの10年が水泡のように感じるかもしれない。それでも、今なら少し勇気を出せる。私の手を包む温もりに、不安で閉ざされそうな心は溶かされていった。
次は初恋の行方④です。
お楽しみに〜