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ライナルトの煩悶

ライナルト王子視点です!




初めてエルの声が聞こえた。

弱々しくて、苦しそうな声だった。


エルには想い人がいた。それも、10年以上想いを寄せていた人らしい。そして、その人はエルではない人を見ていた。


エルは眠る間すら震えていた。


正直、辛かった。

エルが人間の女の子であっても受け入れようと思っていた。その事実を知っても、残念には思わず、むしろ嬉しかった。

どうして彼女がハムスターになってしまったのかは分からないが、一種の呪いなら、元の姿に戻れるかもしれない。そしたら、本当に婚約者として、彼女と一緒にいられるかもしれない。そう思ったからだ。


しかし、想い人がいるという事実は想定外だ。人間の女の子であると感じていたのに、なぜ想い人がいないと仮定してしまっていたのだろう。私のように何か理由がなければ、恋愛などよくあること。身近にエリオットのようにずっと恋をしているものを見ていたというのに。(エリオットは隠しているみたいだったが)


意思疎通のできないエルを私は、勝手に都合よく見てしまっていたのではないか?


(まるで、権力を得るために私を手に入れようとした女たちみたいだな)


辛いのはエルのはずなのに、なぜか自分の胸も深く傷んでいた。エルに嫌な思いをさせてしまっていたかもしれない。

想い人にも、友人にも会えず、孤独だっただろう。それなのに私は、自分の想いばかりで……


(しかし、エルが、私に相談をしてくれてよかった)

弱っていたからかもしれない。たまたま私がいたからかもしれない。

でもあったばかりの時は心を開かず私の手を噛んでばかりだったエルが、深い傷を隠さずに話してくれた。


エルは深い谷の底のような気分であろう時なのに、自分の都合で良かったなど思っている自分は本当に救いようがないなとは思う。




エルはまだ眠っている。昨日あんなに遠くまで走って、疲れたのだろう。

私に何ができるだろうか。


エルは、ユアンという男と話したいだろうか。

その男の求婚はエリオットから聞いたことだと言っていたし、実際かどうか、本人かどうかもわからないのではないだろうか。何かの勘違いかもしれない。

自分の状況だと思ってみる。エルが他の人に告白したと聞いたら、私はどうしたいか。


エルと話したいと思うだろう。本人に確認したい。真実を知るのは怖いだろうが、知らないまま不安で過ごす方が苦しい。

まずは、ユアンに会わせよう。もちろん、エルの気持ちを聞いてから。私はもう、彼女の言葉がわかるのだから。


そして、彼女が人間に戻る方法があるなら、全力でそれを手伝おう。

エルが人間に戻ったら、そのユアンという男と結婚する可能性もある。ユアンとやらはカトリーヌとやはり身分の差があると思うし、人間に戻ったエルと久しぶりに出会ったら恋が芽生えるかもしれない。

そう思うと少し重い気分になる。あの綺麗な女の子が永遠に別の男のものになる。


(いや、元々自分のものではない。ずっと心はユアンという男のものだったのだから)


胸の中、心臓のあたりで、ズキズキとも言い難い、すっぽり穴が空いたような、そんな心地がする。

これが切ない、という感情なのか。これまでの人生で感じたことのない痛みだ。


これはきっと、エルの幸せと共に肥大する痛みなのだろう。

それでもいい。私はエルに、笑っていてほしい。

次回はエルちゃん視点です。お楽しみに〜

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