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初恋の行方②

エレナちゃん視点の胸きゅん回です!



(ど…どこだ…ここは……?)


無我夢中で走っていた私は気づけば城さえも飛び出し、街に降りてきてしまっていた。

ハムスターの目線から見る家はどれも巨大な化物のようにも見える。ぶるぶると体が震えた。


夕方になり人通りも減ってきてはいるが、この小さな身体では気づかずに踏まれてしまう。私は植木鉢の背後に身を隠した。

くるくると辺りを見渡す。何か見たことのある建物でもあればと思ったのだが、何もない。第一ハムスターの目線では全くもって建物の全体像が見えないし……


エリオットの声は城の中にいるうちに聞こえなくなっていたし、きっと早いうちにまいてしまった。きっと誰かは私のことを探してくれるだろうけど、誰も逃げたハムスターがこんなところまで来ているなんて思わないだろう。


(でも、別にいいかな……)


痙攣のような胸の苦しさこそ消えたが、小川が堰き止められているみたいに、胸につっかえたものは取れそうもなかった。


王子の声ばかり聞こえるようになって、ユアンの声が聞こえなくなっていたのに。ユアンの幸せを願えるほどには昇華したと思っていたのに。優しいユアンが身分を顧みずに想いを伝えるほどカトリーヌさんのことを愛していたことも、大好きだったユアンの存在が頭から消えかかっていた自分のことも、それなのに城を飛び出すほどにこの悲しみを抑えられないことも、全部が複雑に絡みあって、重石のように体にのしかかっている。


ユアンはいつからカトリーヌさんのことが好きだったのだろう。ユアンは滅多に城下町のほうには行かなかったし。

思い当たる節はある。一度だけ、私が流行りの病にかかって寝込み、呪いの治療ができなかった日に、カトリーヌさんが街に来てくれたことがあったのだ。

確か、5年ほど前のこと。自分の部屋の窓から、カトリーヌさんの姿を見ることができて、嬉しかったのを覚えている。

今思うとあの頃のカトリーヌさんは、今の私と同じ19歳くらいのはず。信じられないくらい、美人だったし、大人っぽかったし、ゆったりとした仕草に気品が漂っていたな……


15歳のユアンは、そんなカトリーヌさんに恋をしたのだろう。おてんばな14歳の女の子なんて、さぞ子供っぽく思えたのだろう。

ユアンがあまり好きだと伝えてくれなくなったのは、てっきり大人になって照れ臭くなってしまったからだと思っていた。でも違った。あの日からユアンは、私のことを見ていなかったのだ……


せき止められていたものがブワッと溢れているのを感じた。心臓に穴があくような痛みが広がっていく。


大好きだった。優しい声、笑顔、手の温かさ、さらさらの黒髪、高くない背丈、安心する後ろ姿。


小さくうずくまって、痛みを奥に奥にと押し込む。隠すようにまるくなる。


苦しい、苦しい、苦しい……



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「…ル……エル……、エル!」

頭の中に、少し慌てた様子の、あの低く響く声がした。


瞑っていた目を開けると、心配そうな顔で覗き込む、ライナルト王子の姿があった。

(王子、王子……!!)


思わず王子の手の中に駆け込む。王子は何も言わずに私を受け止め、ぎゅっと抱き寄せてくれた。


(ねぇ、なんでここがわかったの??)


王子がぴくっと体を動かす。

「暴れて隠れてしまうエルを、私が何回見つけたと思ってるんだ」


優しく答える王子に、さっき王子の体が驚いたような反応をした理由がわかった。


(私の言葉……わかるの??)


王子が私の顔を見ながら、うん、うん、と頷く。

王子の深海のような瞳から、涙が溢れていた。髪もひどく乱れている。必死に探してくれたのだろう。


つっかえるような痛みが、少し鈍くなった。


(王子、私、すごく悲しいことがあったの)


王子が、黙って頷いてくれる。好きなだけ話していい、そう言っているみたい。


私は王子にユアンのことを話した。幼い頃の思い出、変わらない想い、散ってしまった私の初恋。

王子はずっと私の背中を撫でてくれていた。


(上品なカトリーヌさんに恋をしていることを知って、なんでユアンに言われていたみたいに女の子らしくなれなかったんだろうって……)


また心臓がチクチクする。女の子らしくしていたら、私のことを見てくれたかな。また好きになってくれたかな……

目の奥もじわじわと痛い。


「エル」


王子が優しく私の名前を呼ぶ。引き寄せられるように王子の顔を見つめた。今日も王子の瞳は、すごく綺麗だ。


「私は、すぐに手の中から飛び出してしまう、落ち着きのないエルが好きだ」


王子の言葉に、心臓が跳ねる。


「すぐに噛み付くくらい、荒っぽいエルが好きだ」


荒っぽいって、何よ。ちょっと突っ込みたくなりながらも、少しずつしこりのようなものが解けていくので黙って王子を見つめた。


「自分を変えようなんて、思わないでくれ」


王子のまっすぐな視線から、目を背けられなくなっていた。


「私は、ありのままのエルのことを愛しているよ」




その日王子は、私を布団の中に入れてくれた。

蘇ってくる痛みに息ができなくなりそうになるたびに、優しく背中を撫でてくれた。

次はライナルト王子視点です〜

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