【番外編】ドキドキお風呂事件!?
番外編です。エレナちゃん視点です!!
今日は大仕事をした。
呪いの応急処置を終えて、殿下の部屋に戻った私はもうくたくたで、殿下の掌の中で丸くなっていた。
「今日はよく頑張ったな、エル」
その低くて落ち着いた声に、眠気がぶり返してきて――うとうとしていたその時。
……ザァッ、と水の音。
(……えっ?)
ぼんやり目を開けると、そこは殿下の浴室だった。白い蒸気が立ちのぼり、大きな浴槽にお湯が張られている。
殿下はもう上着を脱ぎ、シャツだけになっていた。
「お前も汗と汚れで疲れているだろう。今日はよく働いたからな……一緒にきれいにしよう」
そう言い、王子は湯を張った桶に私を入れようとする。
(えっ!?まっ……待ったあああああ!!)
張られた水に入れられる。そう思った瞬間身体が勝手に抵抗し始めた。
私は大慌てでキキキッと鳴き、手の中で全力でもがいた。
でも殿下は微笑むばかりで、私の必死の抵抗を「嫌がっている仕草が可愛い」と勘違いしている。
「怖がらなくていい。俺が一緒にいてやる」
そう言いながら、殿下は私を湯面の近くまで持っていく。
(ひいいいい!死んじゃう!ほんとに死んじゃう!!)
私はもう全力で暴れた。足をバタバタ、ヒゲもぶんぶん振り乱して抵抗する。
すると――
「殿下ぁぁぁぁぁぁっ!!」
慌ただしい足音とともに、エリオットが飛び込んできた。
「何をしてるんですか!?」
「……? エルをきれいにしてやろうと」
「殿下!!ハムスターはお風呂に入れちゃだめなんです!!体温調節ができなくて、簡単に弱ってしまうんですよ!」
ビシィッと叱られ、ライナルト殿下が珍しく目を丸くする。
「……そうなのか?」
「そうです!こんな小さな体ですから、ほんの少し濡れただけでも危険なんです!」
私は「そうそう!!」とばかりにキッと鳴いてうなずいた。
「エル、申し訳ない。…わっ……!」
しゅんとして気が抜けた殿下の手からツルッと私が滑り落ちた。
ほんの少しだけれど、床に飛び降りた拍子に水しぶきがかかって、毛がじんわり濡れてしまう。
「エル!!」
いつもの冷静さなんてどこへやら、殿下が顔を青ざめさせてしゃがみ込む。
「殿下!何をしてるんですか!」
慌てふためくエリオットよりも早く、殿下は、大きな手で私をそっと掬い上げると、胸元にぎゅっと抱きしめた。
「大丈夫か!? ……震えてる……っ」
胸に押しつけられた私は、ぐしょり濡れたシャツの感触に思わず固まる。
布越しに伝わる王子の心臓の鼓動は早く、濡れた肌は熱い。慌てふためく声が、遠くに聞こえるほど、私の体はドキドキしていた。
いつもの冷たい仮面の殿下が、こんな必死な顔をするなんて……。
「ごめんな、エル……大丈夫か…?」
その低く震える声に、胸の奥がじんわり熱くなる。
……こんなに心配してくれてる。
たかがハムスター一匹なのに、本気で。
(……ほんと、困った人だなぁ……)
私は弱々しくキュッと鳴き、殿下の指に小さく頬を擦りつけた。
その瞬間、殿下の硬い表情がふっと緩み、息を吐くように囁いた。
「……よかった……」
濡れたシャツで王子の筋肉が透けて見えて、目に毒すぎる。王子の手に優しくもふもふされ、いつもなら眠くなるのに、なんだかドキドキして眠れなかった。
次回は
Ep13 婚約者としての重圧
です!お楽しみに〜