ハムスターになってしまったんですが!?
1話はハムスターになってしまった主人公の女の子エレナちゃん目線です!!
……なんで、よりにもよってハムスターなんだ。
目を覚ました瞬間、私はまんまるな体とふわふわの毛に包まれていた。
昔、街の子供が飼っていたのを見たことがある。自分がなんの姿をしているのか、容易に見当がつく。
(なんでこんな姿に……)
私は人間だった。間違いなく、ほんの数時間前まで。
19歳という若さにして、街一番とも称される”聖女”。
どんな怪我でも呪いでも手を添えればすぐに癒されると噂され、街ではは神の御手の呼ばれた私の両手(?)が今やこんなにぷにっぷの肉球にになってしまっているなんて、悪い冗談としか思えない。た。一体どういうことなのか。
私は鳥籠のようなものに入れられており、逃げ出すことも周囲を探ることもできない。
脳内は混乱を極めていた。
「目覚めたのか?」
低く響く声に、私は飛び上がりそうになった。というか、飛び上がった。小さな私の体が、ケージの中でころんと転がる。
声のした方を恐る恐る見ると、星屑を散らした深海のような瞳が私を見据えていた。氷のような冷たさがあるのに、私への視線はどこか優しい。なんて美しいんだろう、青年の瞳に、思わず見惚れてしまう。
街に置かれていたどの彫刻よりも綺麗な顔立ちに、カーテンの隙間から漏れる月光に艶やかに揺れる黒髪。
「どこか痛むところはないか?」
今まで会ったことはなかったが、私はその青年が誰なのかすぐにわかった。
ゼタシア王国第一王子、ライナルト殿下ーー特定の言葉で表現するのを躊躇いたくなるような美しい瞳を持つ青年であると、城下町から離れた私の街でも女性たちがこぞって話題にしていた。吸い込まれてしまいそうな瞳に見つめられ、私の心臓は跳ねる。心臓と一緒に体全部が跳ねているような気さえした。
転がったまんまぼーっと自分の方を見つめているハムスターの姿が面白かったのか、王子はフッと微笑んだ。甘い微笑みにまた気を失ってしまいそうな気さえしたが、一つ気になった。
(噂と全然違う……。)
少なくとも私のいた街で彼は、氷の貴公子と呼ばれていた。感情を表に出さず、笑う姿を見たものはいない。おまけに、何度も婚約を破談にしたという、超がつくほどの女嫌い……。
そんな冷徹な貴公子が、まるで小さな宝物を見るような目で私を見つめていた。まぁ、今の私は女には見えていないんだろうけど。
「お前は森の中に倒れていたんだ。もう少し遅ければ、鳥か獣のなりそうだった。」
ふむ、拾われたのか。
……目覚める前に鳥に食べられていた可能性もあったのか。やはりハムスターは転生ガチャ大失敗である。
「名をつけないとな。」
(名前?エレナ、私、ちゃんとした名前があるの!)
言いたくて必死に口を開いても、出てくるのはキキッ、キキッという鳴き声だけ。
せっかく人間の記憶があるのに、これでは意思疎通なんて夢のまた夢だ。
「お前は美しい毛並みをしているな。収穫祭の小麦畑のような綺麗な黄金色だな。……もっとじっくり眺めてから名前を決めよう」
そう言うと、王子は鳥籠の扉に手をかけ、そっと開けた。大きな手が伸びる。長く美しい指が、まっすぐ私の方に向かってくる。
(ちょっ、待っ……!)
大きな手がさらに大きく見え、整えられた爪の先が私のふわふわの毛にそっと触れた。その瞬間、生物としての本能なのかなんなのか、私の体は刺激が走ったようにビクッと跳ね、心臓が大きく揺れた。
王子の手が、ビクッと動いたのがわかった。無意識のうちに、私はその美しい指に噛みついていた。
ライナルトの指に、じんわりと赤い血が滲むのが見える。しまった、やってしまった。
王子の手に噛みつくなんて。これ、罪とかじゃないよね?死刑とかないよね?
私は慌てて後ずさり、ケージの端で小さくうずくまった。処分される。絶対処分される。
だってこの人、あのライナルト王子だよ?女嫌いだし、冷酷だって聞いたのに……。
視界がだんだんと滲んで、暗くなっていく。小動物の体には、血とかショックとか、刺激が強すぎたのかもしれない。……あぁ、さよなら私の人生……。
暗くなっていく視界の隅で、灰色にも青色にも金色にも見える、王子の瞳だけが輝いて見えた。
我が家のハムスターがあんまり可愛いので王子の溺愛描写は私の姿そのものです。
でもイケメンがやった方萌えますよね…私はイメージしないでください。