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第8話 魔王との対話

 広間の掃除を終え、少しばかり神経をすり減らしながらも、意を決して俺は広間の奥にある魔王の間へと足を踏み入れた。

 部屋は普段と変わらないが、いつもよりも濃い紫色の瘴気が部屋の中央に集まり、魔王の姿を形成しはじめた。


<<我を怖れよ>>


 漂ってくる瘴気に触れたとたん、びくっと身体が硬直して、「はいっ」と小さく答えることしかできなかった。

 頭の中は真っ白だ。


<<何か用か>>


「……」


『宿主、恐れ入りますが、王国襲撃の件で、と発言して』


「恐れ入りますが、王国襲撃の件で」


 ミミズの指示で掃除しているように、ミミズに従うのが俺にとって快適な方法となってしまっている。


『襲撃の理由を』


<<お前の言葉はないのか>>


『宿主、ばれてる』


「襲撃の理由を。ばれてる、……じゃないです」


 魔王は口を強く結び眉間に皺を寄せ、爆発しそうな顔になった。

 紫色の瘴気がまるで生き物のように揺らめき、部屋の空気を重くする。


 突然、ハッハッハ、と魔王は大口を開けて笑った。初めて見た笑みだ。

 笑いをこらえていたのだろうか。


<<王国襲撃については……。ふむ、お前に頼みたいことがある>>


 頼み?


<<王国襲撃を、お前も手伝うがよい>>


 手伝う?


<<人族滅亡の手助けをせよ>>


 それ。俺も人族なんだけど。


『魔王様。王国襲撃の目的を知れば、よりお役に立てるかと』


 ミミズがついに魔王に話しかけた。


『王国襲撃の目的は何でしょうか』


 少し緊張しているのだろう、声がいつもより高く聞こえる。


<<ロンバだ>>


 魔王は短く答えた。その声は広間に響き渡り、重々しい鐘の音のようだった。


『彼女を救出するために、王国を襲撃するのでしょうか?』


 魔王はゆっくりと頷いた。紫色の瞳が一瞬だけ輝きを増した。


<<それだけではない。そもそも王国の自治領ルドリアは我が統治を確立した最初の拠点である。奪われた古代の魔術遺産もまた、我が魔王国にとってかけがえのない存在だ。彼女を確保し、王国を灰燼に帰さねばならぬ>>


 領都の魔道研究所に魔王が愛するロンバがとらわれているとのこと。

 領都襲撃の目的のひとつは古代の魔術遺産を救出すること。

 それらはミミズから聞いていた。

 だが、ロンバが何なのかよくわからない。彼女というから魔族なのか、遺産というから道具なのか。


『魔王様。わが宿主は王国の滅亡を好みません。代替案の提示をお許しいただけないでしょうか』


 ミミズの言葉に、魔王は少しだけ眉をひそめた。


<<述べよ>>


『宿主、宿主。王国に警告をお伝えに行きます。と発言』


 魔王は俺の目をじろりと見た。

 その瞳は、深淵のように暗く、闇からすべてを見透かしているようだった。

 頭が真っ白になった俺は、余計なことを口走ってしまったかもしれない。

 覚悟を決めて、自信を取り戻さなければならない、と考えていた気がする。


「王国に行って取り戻してきます」


 魔王はにやりと笑った。


「それまでは襲撃を待ってください。お願いします!」


<<間違いないか? それほどまでに王国を救いたいのだな>>


「はい?」


<<我が娘ロンバの救出。お前が何とかできるというのだな>>


 すこしちがう気もする。


 魔王は、ゆっくりと手を伸ばし、紫色の瘴気を操った。


『宿主、解説しますです。魔王様が結界を割ろうとなさっています』


 広間の入口の方からパリンという音がした。結界があった場所あたりだ。

 結界が割れたのか。

 逃げていいということなのだろうか。そうではなさそうだ。

 瘴気は凶悪な捕食生物のようにうねり、俺の顔を舐めるように近づいてくる。


<<ならば、その力を示せ>>


 魔王はそう言いながら紫色の瘴気へと溶け込んでいった。

 魔王がいなくなったのを見計らって、ミミズは俺の意識に語りかけてきた。


『魔王様は丸投げするのもお好きなようです』


 そして、ミミズは嬉しそうに言った。


『結界が通れるようになりましたよ』


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