第71話 スキル共有
その時、ルリアはふと顔を上げ、俺に問いかけた。
「レン様、ご自身でも転送魔法が使えるのではありませんか?」
ルリアの言葉を聞いて、俺は目を閉じた。
言われてみると、意識の奥底にぼんやりと転送魔法のイメージが存在する。
転送魔法……使えそうだ。魔法もまたスキルだったのか。
ゆっくりと魔王城のイメージを脳内に描き出す。黒曜石でできた城壁、埃っぽい廊下、そして、玉座が置かれた謁見ルーム。
そのイメージが、俺の意識を強く捉え始めた。
そして、同時に、テイム解除したはずのリナのスキルも頭に浮かび上がってきた。
甘い香りのするクッキーや、ケーキやチョコ……、あの馬鹿げた魔法が、まるで現実のように鮮明に蘇る。
スキル共有は、テイムした魔物のスキルを使える。
しかし、テイム解除したリナのチートスキルはもう使えないはずだと思っていた。
なのに、なぜか使える気がする。
試してみるか……。
俺はお菓子召喚魔法を唱えた。
「お菓子を召喚!」
その瞬間、空から大量のお菓子やが降り注いできた。
部屋の隅には、甘い香りが漂い、ゲロゼリーのねっとりとした感触が、俺の身体を包み込む。
『スキル共有……、それだけでも恐るべき能力なのですが、テイム解除してもスキルを使えるとは、さらに恐るべき能力です、宿主』
脳内にミミズの声が響き渡った。
その興奮気味な口調は、普段の冷静さを忘れさせていた。
「えっ? ……」
俺は驚きで息を呑んだ。
テイム解除したリナのチートスキルが、今も俺の力として使えるなんて。
まるで、奇跡のような出来事だった。
「……なるほど」
俺は深く頷いた。
リナのチートスキルに加えて、ルリアの転送魔法。リナのテイム解除は、魔王討伐のために必要だったのだ。
『宿主はいくらでも魔法やスキルを覚えることができるのです。テイムするたびに』
スキル共有は、俺に新たな力を与えてくれた。
「魔王様を倒すには、転送魔法を一回試してみたほうがよくなくて?」
ルリアの言葉に俺は頷いた。
俺は深呼吸をして、魔王城をイメージして、転送魔法を初めて使ってみることにした。
魔王城を脳裏に鮮明に焼き付け、転送魔法を試みる。
今まで、ルリアの魔法陣に乗せてもらうか、魔鏡を使うしかなかった。
魔力制御が甘ければ、どこへ飛んでいくかわからない。
全身に魔力を集め、魔王城をイメージする。
埃っぽい廊下、黒曜石の床、そして魔王の謁見ルーム。
詳細なイメージを脳内に描き込み、覚悟を決めて魔法陣を展開させた。
眩い光に包まれ、視界が歪む。
一瞬の浮遊感の後、俺は硬い床に叩きつけられた。
見慣れた魔王城の謁見ルーム。しかし、以前とは様子が違っていた。
埃が堆積し、黒曜石の床は薄汚れている。
その中に魔王はいた。
魔王の玉座に腰掛けている巨大な魔王は、以前より威圧感を増しているように感じられた。
「……」
魔王は、俺の姿を見つけると、重々しい声で唸り声を上げた。
<<レンよ、死ねと命令したはずだぞ>>
その声は、まるで雷鳴のように低く、重々しい。
俺は、覚悟を決めて魔王を見据えた。
<<こやつが何故わが命令に背くのか……、ロンバに聞かねばならんな>>
魔王は、玉座からゆっくりと立ち上がり、俺に近づいてきた。
その巨体は、謁見ルーム全体を圧迫するようにそびえ立っている。
まるで、巨大な山が迫ってくるかのような威圧感に、息が詰まる。
俺は、魔王に詰め寄り、自分を奮い立たせるためにも怒りを込めて叫んだ。
「魔王! お前を掃除する!」
ぶっ倒してゴミ箱に入れてやる。




