第69話 スキル鑑定
応接室の中は、張り詰めた静寂に包まれていた。俺とレオナルドは、互いの目をじっと見つめ合っている。
ルリアの登場を待つ間、時間はまるで止まったかのようにゆっくりと流れていた。
『なるほど。テイムは二体まで……』
そんな時、脳内にミミズの声が響き渡った。
『宿主。よく考えてみましたが、リナのテイム解除は、魔王討伐のために必要です』
俺は、再びその言葉に心を揺さぶられた。
リナのテイム解除……。
いままでリナのおかげで危機を解決してきた。
テイム解除して大丈夫なのだろうか。
しかし、ミミズは冷静にテイム解除を迷う俺への説得を始めた。
『リナは、エメリア王国を救いたいという宿主の意向にしたがって行動しているのかもしれません。テイムによって協力したにすぎない可能性もあるのです』
俺は、ハッとした。
リナが、自分の意思で俺に協力しているわけではない可能性について、俺は考えていなかった。
テイムによって、彼女の行動を縛り付けているとしたら、それは良くないことなのかもしれない。
「……」
俺は少し落ち込みながら深く考え込んだ。
リナは、いつも俺のために尽くしてくれた。
彼女の笑いは、俺の心を癒し、勇気づけてくれた。
しかしもし、リナのテイムを解除したら、彼女は、もう俺に協力してくれなくなるかもしれない。
「まあいい、いままで十分にリナは協力してくれた」
俺は、静かにつぶいた。
これからは、リナを強制せず、自分で打開していかなければならない。
リナの力を借りるのではなく、自分の力で、王国を救わなければならない。
覚悟が決まった。
俺は、リナに念話で連絡を取ることにした。
心の中で、リナの名前を呼ぶ。
「リナ……」
すぐに、リナの声が脳内に響き渡った。
「なに? ステータスオープン!」
「これからテイムを解除する。しばらく話せなくなる」
俺の言葉に、リナは少し驚いた様子で答えた。
「えっ、リナのこと嫌いになったの?」
「いや、魔王を倒すために必要らしいんだ」
リナは、少しも考えず、あっさりと答えた。
「オッケー、わかった!」
「……」
その早すぎる承諾に、俺は一瞬戸惑った。
まあ、リナだから仕方ないのだろう。
彼女はいつも俺への協力を厭わないのだから。
「いままでありがとうな。さよなら……」
俺は、別れの言葉を告げようとしたが、リナはそれを遮った。
「ちょっと待って。最近してなかったけど、鑑定スキルするね」
「そんなことができるのか?」
「共鳴スキルはいつでもだれでもターゲットにできるスキルだよ」
リナは、得意げな口調で答えた。
「めったにないことだし、鑑定スキルを頼む」
「ふつう一日何回もすることだけどね」
俺は呆れながらも、リナの申し出を受け入れた。
彼女の鑑定スキルの結果は、俺にとって、貴重な情報となるかもしれない。
テイムスキルが強くなったとミミズも言っていたし。
「……むむ」
リナが集中しはじめた。
目の前に淡い光のオーラが浮かび上がり、俺の身体を包み込む。
「よし、いくよ!」
その瞬間、俺の脳内に、大量の情報が流れ込んできた。
それは、まるで土砂降りのように激しい勢いで押し寄せてきて目の前に浮かんだ。
魔物使い レン
スキル テイム ランクSSS
サブスキル1 念話
サブスキル2 スキル共有
以前勇者試験のときに見せられた通りの無駄に強そうなランクが読める。
ちょっと待て、スキル共有? いままでなかったスキルだ。
俺は、驚きで息を呑んだ。
スキル共有……。
なんなんだろう。
「まさか……」
ミミズが、興奮気味に声を上げた。
『宿主、これは驚きです。伝説の「スキル共有」の存在は知っていましたが、宿主が手に入れるとは……。テイムした魔物のスキルを自分のスキルとして使えるのです』
スキル共有は、テイムした魔物のスキルを使用可能になるというスキルだという。
テイムしたら、その魔物のスキルを自分のスキルのように使えるのだ。
もしかしてそれは凄まじいことなのではないだろうか。リナのチートスキルがすべて使えることになる。
俺は驚きと興奮で震えながら、スキル共有についてミミズに尋ねた。
「スキル共有を覚えていたことに気づかなかった。なぜ気づかなかったのだろう」
ミミズは、少し考えてから答えた。
『スキルを使う時には何かスイッチのような感覚があるはずです。お菓子を召喚しようなどと愚かなことを思わなかったから、スイッチの感覚がなく、気がつかなかったのではないでしょうか』
なるほど。
お菓子を召喚しようと思わなければ、そのお菓子召喚魔法スキルのスイッチは入らないのか。
確かに、そんな考えを起こしたことは、今まで一度もなかった。
試しに、お菓子召喚魔法を唱えてみることにした。
俺は、心の中で、お菓子のイメージを思い浮かべ、魔法力を込める。
その瞬間、空から、色とりどりのキャンディやチョコレートが降り注いできた。
それは、まるでおとぎの国にいるかのような光景だった。
リナのスキルが使える。これがスキル共有か。……まあ、テイム解除したら使えなくなるのだろうが。
床のクッキーを手で触れてリナが自慢していたアイテムボックススキルを発動してみた。
「クッキー:1」
頭にイメージが浮かび、アイテムボックス:「クッキー:1」との表示が出る。
「レン! アイテムボックスにクッキー入れた? ずるい! 取り出せないんだけど!」
「床に落ちたクッキーだよ」
「それでもいい!」
リナは蝶で手がないためアイテムボックスが使えないと言っていたな。
ボックス内は共有か。でも、そこそこ便利そうだ。
さらに有用なのはダンススキルだ。相手を行動不能にするスキルと言える。
『テイム解除を躊躇しないことです。ルリアはダンスしながらでも、魔法陣を作成できるでしょう』
まあ、ミミズの言う通りなのだろう。
考えるのに疲れて、ふと横を見ると、クッキーやゲロゼリーは降り注いだときレオナルドの頭に、巨大なケーキが直撃していた。
クリームが顔中を覆い尽くしていても、彼はにこやかな表情を浮かべている。
「……」
俺は反応に迷いながらレオナルドを見つめた。
彼の頭にケーキがかかっている光景は、王都の劇場でやっていた喜劇のベタなワンシーンのようだった。
「ルリア様が来るまでお待ちください」
レオナルドは、クリームで真っ白になった顔で、静かに言った。
応接室の中は、静寂に包まれていた。
誰もが息を殺し、お菓子にまみれながら、ルリアの登場を待つのだった。




