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第68話 虫の楽園

 リナに念話で連絡を取ると、

「いまバトルで忙しいから。あとでね!」と返された。

「わかった」

 俺は短く答えた。リナは遠くエメリア王国にいる。今できることは、彼女の集中を邪魔しないことくらいだ。



 リナを待っている間、少しでも時間をつぶそうと、地上に出てみることにした。

 階段を上りきると、目に飛び込んできたのは、息を呑むほど美しい風景だった。


 白亜の建物が太陽の光を浴びて輝き、まるで絵画から抜け出した天使の住む世界のように優雅で洗練されていた。

 広場には色とりどりの花が咲き乱れ、その香りに包まれると、心が安らぐようだった。

 聖歌隊の歌声が街全体を包み込んでいる。


 しかし、その美しさの裏に、何か不穏なものが潜んでいるような気がした。

 信者たちの表情は、どこか狂信的な色合いを帯びており、歌声もまた耳障りなほど陶酔感に満ちていた。


 歩いていると、この聖ネクロ神聖皇国にありながらエメリア王国の執事服を身に着けた場違いな男がこちらを見てハッと眉を上げ、近づいてきた。


 男は、王国的に完璧な礼儀作法で俺に会釈し、「殿下がお待ちです」と案内してきた。


 戸惑いながらも男に促され、宮殿の中へと足を踏み入れた。

 豪華絢爛な装飾が施された長い廊下を歩き、やがて広々とした応接室へとたどり着いた。


 応接室の中央には、玉座に座ったエメリア王国第二王子レオナルドがいた。

 王国を継承するために神聖皇国に亡命したというのがロンバの話だったな。


 レオナルドは、以前の残酷な空気はなく、穏やかな表情をしている。

 まるで、慈愛に満ちた高貴な紳士のようだった。


 レオナルドは、にこやかに微笑みながら俺に語りかけた。


「レンさん、ようこそ。お待ちしておりました」


「……」


 俺は警戒しながらレオナルドを見つめた。

 彼の真意を測りかね、口を開くことをためらう。


 レオナルドは、その疑問を察したかのように、静かに口を開いた。


「実は、私、魔王城の虫です」


 俺は息を呑んだ。虫であることよりも、それを隠そうとしない彼の態度に驚いた。


「ルリア様の眷属です。亡命途上の本物レオナルドを殺して、この姿を乗っ取ったのです」


 レオナルドは、隠すことなく話した。

 彼が魔王城の虫であり、ルリアの眷属であることを。

 その言葉は、まるで世間話でも話すかのように軽々しく紡がれた。


 戦闘になるかと身構えたが、レオナルドは落ち着いた口調で言った。


「あなたを殺すような命令は受けておりません。レンさんが来たとお知らせしましたので、まもなくルリア様がいらっしゃいます。ルリア様があなたを処断してくださるでしょう」


 処断……。


 俺はレオナルドの言葉に困惑した。

 彼は一体、何を考えているのだろうか。


 レオナルドは、俺の困惑を察したかのように、優しく微笑んだ。


「ルリア様の計画のすばらしさについて語り合いましょう」


 俺は、レオナルドの言葉に戸惑いながらも、応じることにした。


「……話は、聞く」


 レオナルドは椅子に深く腰掛け、ゆっくりと語り始めた。


「ルリア様の偉大な計画の目的は、隠す内容ではありません。聖ネクロ神聖皇国のトップはすでに魔王城の虫です。ルリア様の偉大な計画は、人族の支配層を殺して、人間型を身にまとった虫に変えていくのです」


 レオナルドは、その言葉に心酔しているかのように、熱っぽく語り続けた。


「神聖皇国と王国と魔王国、同じ魔王城の虫同士、われわれは当然いがみ合いませんし、殺し合いはなくなり、互いを理解し、尊重し、協力し合う世界になります」


 レオナルドは、その瞳に光を宿らせ、静かに語り続けた。


「われわれ国家トップを担う虫同士でも善良な国際協調を行い、もちろん戦争を起こしません。永久に自由と平等と平和が続くことでしょう」


 魔王城の虫による人間の支配。それは、平和を装った支配でもあった。


「そんなことはさせない」


 俺は、静かに口を開いた。

 レオナルドは、驚いた表情で俺を見つめた。


「なぜでしょう。世界平和に反対されるなんて」


「理由なんてない。人間を殺すな」


 レオナルドは、少し困ったような表情を見せた。

 そして苦笑いを浮かべながら言った。


「ルリア様が来るまでお待ちください」


 俺は、レオナルドに促され、応接室の奥の椅子に座った。

 静寂が応接室を支配する。誰もが息を殺し、ルリアの登場を待つ。

 緊張感が、張り詰めた糸のように空間を覆っていた



 突然、脳内にリナの声が響き渡った。


「倒した! サプライズニュース。エメリア国王も虫だったよ!」


 信じられない知らせに目を見開いていると、リナが念話で状況を説明してきた。


 国王は人間型だということに、透視スキルで気づいたらしい。


 エメリア国王まで虫だった。ルリアの計画による浸食は、想像以上に深刻なようだ。


「王宮は大丈夫なのか?」


 俺の問いかけに、リナは少し考えてから答えた。


「リナが守るから大丈夫だよ。近衛騎士もいるし、アイリスちゃんがやつらを取り締まる部隊を編成してどうたらこうたらだし……」


 アイリス王女の迅速な対応と、リナの活躍に安堵しつつ、ミミズの言葉が頭をよぎる。


『ロンバの神託に従ってみましょう』


 リナのテイム解除……。

 瘴気を失った上に、リナと念話できなくなるのは、なかなか覚悟が必要だ。


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