表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
67/73

第67話 ロンバの神託

 下水道の階段を上り、地上へと足を踏み入れた瞬間、目に飛び込んできたのは異様な聖都の光景だった。


 神殿から溢れ出す光が街を照らし、信者たちは狂信的な表情で祈りを捧げている。

 聖歌隊の歌声は、まるで洗脳のように街全体に響き渡り、人々の心を支配しているかのようだった。


 俺の身体を包み込んでいたロンバは、取り込む瘴気が完全になくなったことで衰え始めていた。

 ヒルの身体は抜け殻のように、ぽつりぽつりと俺の身体から剥がれ落ち、次第に数を減らしていく。


『ロンバがこれほどの瘴気を吸収することはめったにないことなのです。ロンバがルリアよりも賢いうちに何か聞いておくことはないですか、宿主』


 ミミズの声が、俺の意識を現実に引き戻した。

 ロンバは魔王城で長年、魔王の相談相手、そして掃除屋として共に過ごしてきた。

 魔王に関する情報を握っているかもしれない。魔王を倒す方法を知っているかもしれない。


『古代では、ロンバは「神託」と呼ばれていました』


 俺は残されたロンバに問いかけた。


「魔王を倒すには?」


 その瞬間、ロンバは激しく震え始めた。その震えは、まるで苦悶の叫び声のようにも聞こえた。

 そして、ロンバは絞り出すような声で、信じられない言葉を口にした。


「魔王を倒すには、リナさんの……テイムを解除……」


「……何?」


 俺は思わず聞き返してしまった。


 リナのテイム解除? 一体どういうことだろうか。


「テイム解除……?」


 ヒルの群れは、さらに激しく震え始めた。


「テイムは二体まで……現在魔王の一匹とリナさんが該当します……リナさんのテイムを解除し……」


「へ?」


 驚きで息が詰まる。テイムしているのはミミズとリナの二人。それが、なぜ魔王の一匹とリナになるのだろうか。


 ミミズは少し困ったような声で答えた。


『その名前はいいです……ミミズと呼んでください』


 そんなやり取りをしているうちに、ロンバは円盤状のコロニーへと姿を変えた。


「綺麗にするよ……」


 ロンバは、ただその言葉を繰り返すだけになった。言葉を繰り返しながら、コロニーは地面を這い回り、石畳の汚れを落とし始めた。


「……」


 ロンバは魔王に関する貴重な情報を握っていたはずだった。しかし、今や、ただの掃除道具へと変わってしまった。


『宿主、ロンバの神託は軽く見過ごせないです』


 ミミズの声が、俺の意識を引き戻した。

 ロンバは魔王を倒すための重要なヒントを与えてくれたらしい。

 リナのテイム解除……。その言葉が、俺の心を重くする。


 俺にとってリナは、かけがえのない存在だ。彼女は俺の心を癒し勇気づけてくれる大切な仲間だ。

 もし、リナのテイムを解除したら、どうなるのだろう。彼女は俺に協力してくれなくなるのだろうか。


 しかし、魔王に打ち勝つためには、必要なことだと言う。

 瘴気を失った上、リナのテイムを解除することが、本当に正しい選択なのだろうか。


 ミミズは、俺の心の声に応えるかのように、静かに口を開いた。


『宿主を強くしたいという思いが増しています。宿主のテイム力は明らかに以前より強くなっています』


「テイム力……」


『そうです。リナさんとの絆が、宿主の力を引き出しているのです。テイムを解除することで、その絆が断ち切られ、宿主は、より強大な力を得ることができる……かもしれません』


 リナのテイムを解除したら、リナが協力してくれなくなるかもしれない。しかし、それと同時に、俺自身もより強くなるかもしれないということか。


「……」


 俺は、しばらくの間、悩み続けた。

 しかし頭の中で、様々な考えが渦巻き、混乱してしまう。


 魔王に打ち勝つことと、リナのテイムを解除することがなかなか結び付かない。


 決断しなければならない。


 ……。


 だが、結局、決められなかった。


 リナに相談しよう。彼女自身に聞いてみるのが、一番良いだろう。そうしよう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ