表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/73

第52話 瘴気清掃

 筒状の形にした瘴気を操って、俺はギルバートの瘴気を吸い上げ続ける

 俺の背後から、共鳴スキルの発動で兵士たちの声が途切れ途切れに届いてくる。


「勇者レンが虫たちを駆逐していく!」

「やったぞ!」

「勇者様、ありがとう!」


 王都の兵士たちの声援が、戦意を鼓舞し、俺の疲労を和らげていく。

 瘴気をコントロールする集中力も、声援のおかげか、なんとか維持できていた。

 彼らの期待に応えなければならない、という重みが肩にのしかかる。

 久しぶりに味わう心地よい勇者感覚だ。


 掃除道具と化した俺は、筒状に制御した瘴気からギルバートの瘴気と魔力を吸い上げ続ける。

 巨大なカマキリは、リナのダンススキルに操られ、もはや戦闘能力を失っている。

 周囲の魔王軍の虫たちは、瘴気を失い、次々と倒れていく。


 リナは興奮した声で叫んだ。


「レンが掃除機になってる!」


 その時、歓声が響き渡った。


「王女様だ!」

「アイリス様が来られた!」

「勇者レンを応援に来てくれた!」


 城門の上のテラスに、第三王女アイリスの姿が見えた。

 彼女は剣を掲げ、二人の近衛騎士に護られ、懸命に兵士たちを鼓舞していた。

 その姿はまさに希望の光として人々の心を照らしていた。


「皆、奮起せよ! 勇者レン様が魔王軍を撃退してくださっています! 我々は、勇者様を援護し、王国を守り抜きましょう!」


 アイリスの凛とした声が、兵士たちの士気を高めている。

 彼女の姿を見た兵士たちは、再び勇気を振り絞り、魔王軍に立ち向かっていった。


「ありがとう、アイリス様」


 疲労でかすれた声になりつつも、俺は、アイリスの姿に心からの感謝を込めて告げた。

 彼女の鼓舞は、俺の疲れた心に活力を与え、瘴気のコントロールを続けるための力を与えてくれる。

 城壁の上から見下ろす彼女の姿は、まるで希望の女神のようだった。


 アイリスの声は、王都の空に響き渡り、兵士たちの士気を高めていく。

 その声は、まるで神託のように、人々の心に響き渡った。


「この現場の声を王都中に届けるよ!」


 リナは得意げな笑みを浮かべながら共鳴スキルを発動させた。

 彼女の周囲に淡い光が広がり、街全体の音声を増幅していく。その光景は舞台の幕が落とされて開く瞬間に見えた。

 ミミズが冷静な声で解説を加える。


『リナの共鳴スキルは、範囲と精度が飛躍的に向上しました。王都中の人々の耳に、アイリス王女と兵士たちの言葉が、鮮明に届いているはずです』


 確かに、王都の喧騒が、静かに、しかし確実に、俺たちの耳に届き始めた。

 歓声、叫び声、そして、祈りの言葉。

 王都の人々は、俺たちの戦いを見守り、応援してくれているのだ。


「王女様、万歳!」

「レン様、万歳!」

「王国万歳!」


 兵士たちの声援は、熱を帯びてきているように思えた。

 アイリスはさらに熱狂的な言葉を叫び始めた。


「勇者レン様は、我々を救いに来た神! 彼の御業は、光輝く奇跡! 勇者レン様は、この王国、そして世界を救う救世主!」


 その言葉を聞いた瞬間、俺は背筋に悪寒が走った。。

 神? 救世主?

 それは、あまりにも大げさだ。

 俺は、ただ自分が魔王軍を倒せることを証明できれば十分だ。


「瘴気の洗脳効果か……?」


 そうつぶやくと、アイリスは狂喜の喚声を上げた。


「勇者レン様! 我らの救世主! どうか、我らにさらなる御加護を!」


 彼女の口調は、もはや、冷静沈着な王女とは言い難い。

 俺は恐怖を感じ始めた。


「アイリス様、落ち着いてください」


 俺は必死に冷静さを保ち、アイリスに呼びかけた。

 

「レン様! ああ、私の耳に神の声が! 神よ! 世界を浄化し、新たな秩序を築き上げてください! 我々は、神の御業を、この手で実現いたします!」


 アイリスの言葉に、兵士たちは狂ったように歓声を上げ始めた。


「勇者様! 勇者様!」

「レン様こそがすべてです!」

「神の使徒、レン様!」

「神の御子、レン様!」

「我々はあなたのしもべ!」


 それでも、まずはギルバートを処理するしかない。

 俺はこの狂騒を、ただ見守ることしかできなかった。


『宿主、瘴気の吸着は順調に進んでいます。ギルバートの生命の源である瘴気も、あと少しで完全に吸い尽くせるでしょう』

 ミミズの声が、脳内に響き渡る。


 ギルバートの体は、瘴気を吸い上げられ、徐々に動きを鈍らせていく。

 巨大な鎌は、空中で不気味な円を描き、やがて、地面に激突した。

 ギルバートは、完全に機能を停止し、巨大な虫の死骸と化した。


「アイリスちゃんじゃなかった。王宮に行ってくる! アイリスちゃんを守るよ!」

 王宮? アイリスを守る?

 リナは謎の宣言をして去って行った。


 そして俺は眉間に皺をよせながら詠唱した。


「鎮まれ! わが猛り狂う闇の瘴気よ! 鎮まれ!」


 やっと終わった。


「巨大カマキリを倒したぞ!」

「勇者神が悪を駆逐した!」


 兵士たちの歓声が、王都の空に響き渡った。 兵士たちの歓声が、王都の空に響き渡った。


「虫どもが逃げていく!」


 虫たちはギルバートが倒れると、方向転換して、四方八方に退散しはじめた。


 勝利を確信した兵士たちは、魔王軍に総攻撃を仕掛け、圧倒的な力で押し返していった。

 魔王軍の勢いは、完全に衰え、崩壊の一途を辿っていた。


「勇者レン様による世界征服を始めましょう!」


 その言葉に王都中から歓声が聞こえた。


「世界は救世主、勇者レン様のもの!」

「勇者レン様! 我々は、あなたの足元にひれ伏します!」

「勇者レン様! あなたこそ、神の化身!」

「世界を勇者レン様へささげよ!」


 ギルバートを倒したので、やっと動ける。


「アイリス様、落ち着いてください!」


 俺はアイリスに近寄った。


 誰だ?


 遠目で見ていたため気がつかなかった。よく見るとちがう。


 声は明らかにアイリスだったのだが、アイリスではない。


 ルドリア領で見たことのあるあの少女。ただし服装は白衣ではなく王族のものだった。


『宿主。すみません、気がつかなかったです。ルリアの隠蔽スキルにしてやられたです』


 アイリスではない。

 王女と同じ化粧をしている少女は、ものすごい魔力で空中に魔法陣を形成し、魔法が発動した。

 次々と転送の魔法陣を空中に形成し、兵士たちの姿を消していった。


 そして、彼女は目を大きく開けた。

 右目から眼球がポロリと落ちて、その目は両側の耳元まで裂けるほど大きく開き、中から黒いゲジゲジ虫が顔を出した。

 ぞっとして、ここまでの達成感が急速に萎えてゆく。


「……ご想定の通り、私よ。ルリアよ。口から出てくるのには、飽き飽きされてるのでしょう?」


 ルリアの声は、甘く、しかし、底知れぬ静けさを漂わせていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ