第5話 魔王討伐隊第2陣勇者メンバー
「レン様ですか? なぜここに?」
「第1陣は全滅、……だと聞いてますが」
「まさか、掃除屋レンが生きていたとは」
我々は勇者アレク率いる魔王討伐隊第1陣として王国を代表する精鋭たちだった。
魔王討伐隊には第2陣もあって、彼らはそちらのメンバーのようだ。
どうやら、魔王に討たれたと思っていたらしい。
「ああ、みんな」
俺は思わず苦笑がこぼれた。その笑みはだんだん安堵感に変わっていく。
装備の欠落を見て、若い女性騎士が「レン様、お怪我はありませんか?」と尋ねてくる。
「いや、大した怪我じゃない。ちょっとした……掃除をしていただけだ」
仲間たちの顔を見れたのはうれしい。
しかし、彼らの視線がどこかぎこちない。警戒の色が隠せない。
「……」
彼らは俺の怪我を心配しているのではなく、何らかの疑問を持っているようだった。
俺を警戒するように見つめていた。
「……で、それで逃げてきたのか?」リーダーが、訝しげな視線とともに、剣を握りしめる手に力を込めた。
「俺は、掃除。いや、魔王にはかなわなかった」
「掃除屋…? いったい何を言ってるんだ?」
「ああ、魔王に服従して掃除してるってことだ。魔王には君たち第2陣だけでは勝てないと思う」
「まさか、魔王に寝返っていたりして?」
「お前が終わっていることは理解した。次は俺たちが魔王を倒すよ」
彼らのリーダーと目される男は自信満々に言った。
「もちろん! 我々選ばれし勇者に不可能なことはない!」
リーダーの掛け声に、他の勇者たちも気合いを入れて応えた。
「おお!」
「行くぞ!」
気合が入っているが俺たちもそうだった。
第1陣が陥った結果を思うと、その熱意にはただただ心配になる。
「そうだけど、王国の見立てはあまかった。計画にあったどの攻撃も使えない」
俺がそう呟くと、リーダーの顔が険しくなる。少しむっとしたように言った。
「掃除屋は逃げてきたのか? それとも、裏切ったのかな」
明らかに勇者メンバー第2陣の連中は身構えだした。
「装備が汚れていない。怪我ひとつ見当たらない」
「待ってほしい。説明に時間がかかる。魔王の瘴気がくせもので…」
俺が言葉を続ける前に、リーダーは剣を抜き、俺をにらみつける。
「掃除屋! 邪魔だ!」
剣先は俺の首を狙っている。
他の勇者たちも、一斉に俺に武器を向け始めた。
リーダーは振りかぶるふりをしたフェイントから剣を突き立ててきた。
『宿主の身体を強化するから大丈夫なのですよ』
次の瞬間、俺は軽い痛みに襲われた。その痛みとともに、身体に穿孔された感覚が走った。
リーダーは剣をまるで雑巾をしぼるようにくるくる回してもいる。それとも剣自体が回っているのか。
身体は何ともなかった。ミミズのような節がある細い触手が剣に巻き付いている。
やがて剣と一緒にリーダーの身体が宙に浮かんで回りだした。
真剣な顔になったリーダーは剣を離して後ろへ飛びのいた。
「強い! 気をつけろ!」
「わかっている。第1陣は化け物ぞろいだ。みんな連携!」
たしかに魔王討伐隊第1陣メンバーは、規格外の力を持つ者ばかりだった。……俺以外は。
そして、みんな死んだ。
身体に剣や槍や弓矢が突き刺さってくるのをすべて触手がはじき返した。
「どうなっている?」
「SSSランクだ。気をつけろ!」
「なんという力! 魔法を! はやく!」
火魔法や風魔法が襲いかかった。わずかに熱さと切られる感覚はあった。だが身体は何ともなかった。
ミミズはいったいこの俺の身体に何をしたのだろう。
守護膜が張られているかのように、あらゆる攻撃を無効化している。
「スリープ!」
第2陣メンバーのエンチャント魔法使いが詠唱した。
まわりがゆがみはじめた。
眠気が襲い、意識が遠のいていく。
遠くからかすかに、誰かの妖艶さのある笑い声が聞こえたような気がした。
『宿主、すまない。身体は守れるけど、精神は宿主自身で守らなければならないです』
スリープは精神に作用して眠らせる魔法だ。
意識が遠のいていった。
どうやら、またもや倒されることになったようだ。