表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/73

第36話 ラミナス・ドラゴン

 洞窟内に、再び地響きのような唸りが轟き渡る。

 二頭のラミナス・ドラゴンが、俺を挟みうちにしてきた。

 光り輝く鱗、鋭利な爪、そして、底知れぬ怒りを宿した瞳。


「レン!」


 リナのあせりに満ちた念話が、脳裏に響き渡る。


「あっちかな! いや、こっちかな……?」


 俺に聞かれても困る。

 彼女は迷子になっているという。

 チート魔法の援護は期待できない。


『宿主。ラミナ鉱を摂取し、瘴気を増幅させるのです』


 俺は再びラミナ鉱に手を伸ばした。青白く輝く石を口に運ぶ。


 ザラザラとした舌触りと、微かな甘みが口の中に広がる。ラミナ鉱の魔力が、俺の体内に流れ込んでいく。

 まるで枯れた大地に水を注ぐかのように、渇ききった魔力が満たされていく。魔力は瘴気へと昇華していく。


 その瞬間、体中に熱が奔流のように駆け巡る。皮膚が焼け付くような感覚。そして、全身を覆っていた瘴気が、さらに濃密になり、その色が深みを増した。


「ぐ……」

 呻き声が、俺の口から漏れる。瘴気の増幅は、肉体への負担を増大させる。

 しかし、同時に、感覚は高まり、力がみなぎってくる。


『瘴気のレベルが上昇しました。宿主の身体能力はさらに向上しています。』

 ミミズの冷静な声が、頭の中に響く。


 二頭のラミナス・ドラゴンが、再び攻撃の姿勢をとった。

 口に光が集まりだしている。

 あらゆるものを焼き尽くすと言われるドラゴンブレスだ。


 しかし、今、俺の身体を覆う瘴気は、彼らの攻撃を完全に遮断するほどの防御力を備えていた。

 ドラゴンの咆哮と共に放たれた炎のブレスは、瘴気の壁に触れるとまるで枯れ葉に水がしみこむように吸収され、消滅した。


「グゴゴ?」


 ラミナス・ドラゴンたちは、信じられないといった表情で、俺を見つめた。


 彼らの攻撃が効かない。


 瘴気は、まるで俺の意志のように動き、敵の攻撃を予測し、事前に防御する。

 さらに、瘴気は彼らの鱗に触れると、腐食させる効果を発揮し、鱗を徐々に溶かしていく。


「まさか、瘴気がこれほどだとは……」


 俺は驚愕の事実に気づいた。

 瘴気は、ラミナス・ドラゴンの強靭な鱗さえも腐食する力を持つ。


「これなら……」


 渾身の力を込めて瘴気がまとわりついた銅剣を振り下ろした。

 今までの戦いとは比べ物にならないほどの力で、剣はドラゴンの鱗に深く食い込み、肉を切り裂いた。


「グオオオオ!」


 ドラゴンの咆哮が、洞窟全体に響き渡る。


 俺は、怒涛の攻撃を繰り出した。


 瘴気を纏い、強化された身体で、ドラゴンの弱点を的確に攻撃する。

 銅剣は、まるでバターに刺した熱いナイフのように、ドラゴンの肉を切り裂いていく。


 しかし、ドラゴンの数は二頭。

 攻撃の手を緩めれば、再び攻撃を仕掛けてくる。


『宿主、とにかく魔力を充填するのです。ラミナ鉱を食べに食べて、さらに瘴気のレベルを上げるのです』


 ミミズの声が、俺に促す。


 俺はラミナ鉱をわしづかみにし何度も口に含んだ。


 再び、体中に熱が奔流のように駆け巡る。

 瘴気がさらに濃密になり、その色が深みを増していく。

 そして、肉体への負担も増大する。


 瘴気を消すためにここに来たのに。

 瘴気を強化するばかり。


「だが、もうこのまま行くしかない……」


 このまま瘴気を強化し続けると、制御できなくなるのではないかという不安を無理やり頭から振り払った。


 ミミズの声に煽られ、俺は再びラミナ鉱を口に運んだ。


 ラミナ鉱を摂取するたびに、瘴気は増幅し、その力は増していく。


 同時に、俺の身体にも、異変が起こり始めた。


 皮膚の下で、血管が浮き上がり、体温が異常に上昇していく。


 意識が朦朧とし、幻覚を見るような感覚に襲われる。


 それでも俺はラミナ鉱を食べ続けた。


 俺の姿はもはや人間とは言い難いほど変わり果てていそうだ。


 全身を覆う瘴気は、紫色の炎のように揺らめき、まるで別の生き物に取り憑かれたかのような異様な雰囲気を漂わせている。


 その姿を見たラミナス・ドラゴンたちは、一瞬、動きを止めた。


 まるで、目の前にいるものが、もはや人間ではないと認識したかのように。


「ぐお?」


 一頭のラミナス・ドラゴンが、威嚇するように唸り声を上げた。


 だが、その唸り声は、先ほどほど力強くない。


 俺の放つ瘴気に、恐怖を感じているようにも見えた。


 俺は、ゆっくりと歩き出した。


 足元には、散らばるラミナ鉱の残骸が、青白い光を放っている。


 俺の体から放たれる瘴気は、ラミナス・ドラゴンの周囲に、目に見えない壁を形成し、その動きを制限し始めた。


「……来るぞ」


 俺は低く声を上げた。


 そして銅剣を構えた。


 安物の剣身は薄暗い洞窟の中で瘴気をまとい、紫色に光を反射している。


 その剣には俺の決意が込められていた。


 ラミナス・ドラゴンの一頭が先制攻撃を仕掛けてきた。

 それは、鋭い爪を剥き出しにした、強烈な一撃だった。


 しかしその攻撃は俺の体に触れる寸前に、瘴気のバリアに阻まれた。

 バリアは爪の一撃を受け止め、力を吸収し、無効化した。


『宿主の瘴気はさらに進化しました。ラミナス・ドラゴンの攻撃を完全に無効化できるレベルに達しています』


 ミミズが興奮気味に告げる。


 俺はその隙を逃さず、ラミナス・ドラゴンに飛びかかった。


 剣を振り上げ、渾身の瘴気を込めて、その首を狙う。


 その瞬間、ラミナス・ドラゴンの体が激しく震えた。


 瘴気で何倍もの大きさになった剣はその硬い鱗を貫き、深々と首を切り裂いた。


 鮮血が洞窟内に飛び散る。


 ラミナス・ドラゴンは、苦悶の表情を浮かべ、その巨体を地面に叩きつけた。


 激しい衝撃で地面が揺れ、洞窟全体が悲鳴を上げる。


 そして、その首の傷は早くも黒く変色し、胴体へ向けて腐りはじめていた。


『瘴気はあらゆるものを腐敗させることもできます。万能なのです』


 ラミナス・ドラゴンは、しばらく痙攣した後、静かに息絶えた。

 残されたのは、黒く腐敗した巨大な死体だけだった。


『宿主の最強魔王へといたる道、また一歩野望に近づきましたね』


 ミミズの変な期待は聞き流す。そんな野望なんてない。


 それより、まだ一体残っている。

 油断できない。俺は剣先を構え、警戒を強めた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ