第26話 最初の戦い
意識が戻ると、俺は魔王討伐隊第1陣勇者メンバーの一人として、目の前にそびえ立つ魔王を睨みつけていた。燃え盛る炎、立ち込める紫色の瘴気、そして、仲間たちの緊張した表情。
すべてが、あの最悪な光景と寸分違わない。
最初からこうしておけばよかったとは、何度も思い返している。
「古代の蟲よ。我が契約に応じ、汝の力を分け与えよ! テイム!」
俺は「テイム」スキルを使った。
『その詠唱文句は聞かなかったことにします』
魔王の鼻の先からミミズが飛び出し、俺の身体に寄生した。
『宿主、これは夢です。ですが、防御します』
頭の中でミミズの声が響いた。
次の瞬間、俺の身体から黒い触手が噴き出し、意思を持つかのようにうねり始めた。触手はみるみる太さを増し、あっという間に俺の身長を超える巨大な剣へと変貌した。
「な、なんだこれは……!」
驚愕する仲間たちの視線の先に、俺が構える巨大剣が鈍い光を放っている。
魔王が動き出した。
濃い紫色の瘴気が渦を巻き、鋭い爪が閃く。
だが、俺は怯まなかった。
『宿主、防御態勢』
ミミズの触手は鞭のようにしなり、魔王の攻撃を正確に弾き返した。
巨大剣は魔王の爪を受け止め、激しい火花を散らす。金属がぶつかり合う音と、瘴気による爆発音が響き渡った。
「ナイス! レン!」
「助かった、レン!」
仲間たちは俺の活躍に歓声を上げた。
よかった。彼らはまだ無事で死んでいない。
勇者たちは再び魔王に攻撃を仕掛けた。
魔法、剣、弓矢。ありとあらゆる攻撃が魔王に叩きつけられるが、そのどれもが霧散するように消え去っていく。
魔王は嘲笑うように笑い、圧倒的な力を見せつけた。
「全く何も通用しない……」
「もうダメだ……」
仲間たちの士気は、みるみるうちに低下していく。
あきらめムードが、戦場を覆い始めていた。
その時、ミミズの声が、興奮気味に響いた。
『宿主、これは夢ですが。……こんなチャンスはありません!』
『魔王様から監視道具として創造されて幾百年、魂を得て八十年、ついにこのときが。もしかして魔王様を倒せるかも?』
「監視道具……?」
驚きを隠せない俺に、ミミズが説明を加えた。
『ロンバが掃除道具なのと同じように、魔王城の虫は道具か食料のどちらかです』
その言葉の後に間髪を入れず、
『いまです!』
ミミズは触手を鋭く研ぎ澄まし、魔王に斬りかかった。
漆黒の触手は光の速さで魔王の肉体を切り裂き、紫色の血飛沫をあげる。その一撃は、魔王の硬い鱗をも容易く貫いた。
『もっと力を!』
『いい! いい!』
『魔王様を倒せる? 倒せるかも! 夢みたいです!』
ミミズは興奮しすぎている。夢の中とはいえ、このままでは殻から抜け出せなくなってしまうのではないかという不安がよぎる。
『わはははは』
「ミミズ!落ち着け!」
俺の叫び声も、ミミズの興奮を抑えることはできなかった。
そして、ついにその瞬間が訪れた。
魔王が、崩れ落ちたのだ。
巨体が地面に激突し、あたりに衝撃波が走る。
砂塵が舞い上がり、視界を遮る。
「魔王を倒したのか……?」
「ブラボー!」
仲間たちは歓喜に沸き返った。信じられない表情で、俺と魔王の亡骸を見つめている。
「もうレンを掃除屋なんて呼べない。ゴミ扱いしてごめんな」
リーダーのアレンは、いままで馬鹿にしていたことを詫びた。顔には申し訳なさと、そして少しの感嘆の色が浮かんでいる。
「もう『どこ見てんのよ』なんて言わないわ、絶対」
副リーダーのナナは胸を張った。その瞳は誇らしげに輝いている。
「ありがとう、レン!」
「レンが魔王を倒した!」
みんな口々に俺を褒め称え、喜びを分かち合った。
温かい言葉が、俺の心に染み渡っていく。
俺の頬を涙が伝わっていくのを感じた。
仲間たちの笑顔を見ることは何よりも嬉しいことだ。




