表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/26

第13話 聖騎士

 プレートアーマーを身に纏った聖騎士たちに取り囲まれた。

 彼らの白く塗られた鎧は、陽光を浴びて眩しく輝いている。


「王国の敵め!」

 聖騎士の一人が、研ぎ澄まされた剣を俺たちに突きつけた。

 鉄兜の隙間から覗くその目には、怒りと憎悪が入り混じった表情が浮かんでいる。

 剣先から、微かに冷気が漂ってくる。

 知っている剣だ。「神界の右腕」ナナはこの剣であらゆるものを凍り付かせた。

 聖剣の冷気で蝶のリナはひとたまりもないだろう。


「リナは隠れていたほうがいいかも」


「大丈夫です! 転生者としては、あるあるですよ!」とリナはフォローした。

 彼女の言葉は、考えて話しているのか、ただの口癖なのか、もはや判断がつかない。


「隠蔽スキルで姿を隠しているから大丈夫。気づいてないでしょ」


 そうなのか。


『宿主、白いゴミが集まってきました。焼却しますか』

 ミミズは少し楽しそうに言った。

 

「仲間が死んで、そんな状態で帰ってくるなど笑止千万」


 待ってくれ。誤解を解きたい。


「こいつは第1陣の勇者だったから、気をつけろ」

 と、隣の騎士が止めるが、振りほどこうとしている。


 リナは、

「鑑定! 何と、歌唱スキルAです! 美声です!」

 といきなり関係のないことをしている。


 制止を振り切って、聖騎士は相手を凍らせる冷気属性の聖剣を振り回してきた。


 その瞬間、むずむずする感覚が全身に広がった。

 ミミズの強化。細かい触手が無数に生えていてこちらの身体内部に張り巡らされている感じだ。

 筋肉が隆起し、骨が強化され、皮膚が鉄のように硬質化する。しかし身体は信じられないほど軽かった。


 俺はかがんで攻撃を避け、甲冑の胸部を腕で押し返した。

 ミミズの強化がなければ、かがんで攻撃を避けることすら、腕で押し返すことすら不可能だっただろう。


 そのミミズの力の恐ろしさを俺はわかっていなかった。


『宿主、ゴミじゃなかったです。高級食材でした。エビです。殻の中身は食料なのです』


 ドカンと重い轟音がして、甲冑が割れた。


「う、あああああ」

 聖騎士は歌唱スキルにふさわしいテノールの美声で叫んだ。

 そして倒れこみ、ぴくぴくと痙攣している。

 大丈夫だよな。死んでいないよな、と俺は思う。


 一斉に聖騎士たちが盾を構えて取り囲んだ。


『さあ、宿主。蹂躙しましょう。皆殺しです』


 ミミズはやっぱりわかっていない。

 俺は魔王の味方ではない。ただ生き延びるために頑張っているだけだ。

 人族を蹂躙したいと思ったことなど一度もない。


「いや、降参する」と、俺は言った。

 俺が怖れていたのは騎士団に取り囲まれ身の危険を感じたことではない。

 このままでは信用してもらえない。それは避けたかった。


『宿主……』

 ミミズの残念そうな声が頭に響く。


 聖騎士は慎重に見張りながら、俺に手枷を付けた。

 分厚い鋼でできた手枷だ。これで手を動かせない。

 動かせないよね。


『宿主。力を入れればいつでも割れます』


「やっつけて、私やっちゃいましたかー、って言おうよ」とリナは意味不明のうえに上機嫌だ。


 それまで隠れていたのだろう。こちらが拘束されたのを見計らってギルバート卿が現れた。


にせ勇者が」とギルバートは毒づいた。

「魔王に宣言したそうだな。お前にはこの王国を救う資格があるのか? もっと上手い冗談を言え」


 どうやらギルバートはいろいろ知っているらしい。

 とにかく王国の味方であることは認識してほしかった。

 魔王サイドの冗談扱いされることも本意ではない。


「冗談ではない。本気だ。王国を救いたい。魔王軍に立ち向かうなら、手伝う」


「笑止。お前に虫ほどの知能もついているのか疑問だ。魔王城の便所虫だということは知っているがな」


 ギルバートはもう俺を見ていなかった。


「ルリア様はこのことを把握されていらっしゃるのかな」

 とつぶやき、視線を聖騎士たちに向かって言った。

「ふん、領民のクズどもが集まっている。パレードの道を通って封印地下牢へ連れていけ」


 領民が集まっている?


 視線を道の方へ向けると、そこには驚くべき光景が広がっていた。道は群衆で埋め尽くされ、数百、いや、数千の領民たちが、こちらを睨みつけている。彼らの目は怒りに燃え、口からは怒号が飛び交っていた。


「魔王の手先を吊るせ!」

「裏切り者!」


 彼らはまるで戦争が始まるかのように手には石や棒、瓶などが握られ狂気を帯びた表情で俺たちを取り囲んでいる。

 道の両側には兵士たちが配置され、俺たちを閉じ込めるように壁を築いている。逃げ道は完全に封鎖されていた。


 群衆に聞こえるように、聖騎士は宣言をした。


「領都に魔王軍を引き入れて、多大なる被害をもたらした大罪人、元勇者レン! 連行する!」


 聖騎士に引っ張られながら城を出ると人でごった返していた。


「魔王が怖くて逃げてきた臆病者!」

「勇者アレクを返せ!」

「死刑にしろ!」


 石を投げつけてくる。だが強化した身体は文字通り鋼になっているようだ。

 当たった石は金属のような音がして跳ね返った。


『宿主。素晴らしい展開です。最高の結果です』


 何が?

 すでにがつんがつん石の音がうるさいし。

 大勢の方々から憎悪されているようだし。


『封印地下牢は領内で最も管理の厳しい場所です。結界で囲まれてます』


 それのどこが素晴らしい? 結界と聞いていやな気分を思い出した。

 素晴らしいどころか、やばいのでは。


『ロンバもそこにいます』


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ