第12話 領主への警告
「領主のギルバート・フォン・ルドリア閣下に話がある」
どうしてゾンビを連れているのかと門番の兵士が聞いてくる。
「魔王に倒された仲間たちの遺骸だ。故郷に弔うために連れてきたんだ。ギルバート卿に面会できないか?」
ギルバートにお願い。二度言った
それを聞いて兵士の一人が城へ連絡に向かった。
しばらく待たされている間、兵士たちは旅人から金銭や宝飾品を徴収していた。
連絡係が戻ってきて、俺たちはルドリアの城内に通されることになった。
「少々臭いますので、とりあえず城前広場へご案内しますがよろしいですか?」
「はい、それでいいです」
確かにゾンビを連れて城に入るわけにはいかない。
城門を超えると貴族街と繁華街があり、豪華な酒場や遊郭、賭博場がある様子だった。
だが案内されたのは城前広場だった。
広場の隅には棺桶が積み上がり、中央には首切り台が置いてあった。公開処刑場も兼ねているらしい。まだ新しい血痕が断頭台だけではなく周囲を染めていた。鉄錆と生臭い血の匂いが混ざり合って鼻につく。頻繁に利用されているのは間違いない。
一瞬不穏な雰囲気を感じたが、領主のギルバート卿が高潔そうな笑みを浮かべて出迎えてくれた。
「ご苦労であったな、勇者レン殿。そちらのゾンビは? 勇者アレクにそっくりだが」
彼は豪華な衣装を身につけ、指には巨大な宝石が光っている。その笑みはどこか胡散臭く、相手を試すような目をしていた。
「魔王に全員敗れました」
ギルバート卿は鼻で笑った。
「ふふ。勇者諸君が御覧の有様ということか。ほう、それだけの証拠があるなら事実は疑いの余地がないな」
彼にとって、死体は単なる証拠物に過ぎないらしい。
「ゾンビ臭くてかなわん。骸の処分はどうするつもりだ?」
ギルバート卿には勇者パーティーが魔王に倒されたこと、死者を故郷で葬送するために連れてきたことを、丁寧に説明した。
ミミズに念話で「死体に戻してくれないか」と伝えて、ミミズは『了解です』と答えると、ゾンビはどっさりと地面に倒れ動きを止めた。
「勇者の遺体を棺に納めておき、ご遺族への連絡も当方で処理しよう」
ギルバートが顎で合図をすると、周囲にいた白い鎧を纏った聖騎士たちが集まってきた。
「では、城内へ案内します」
城内の応接室は、精緻な彫刻が施された石柱や、色鮮やかなタペストリーで飾られており、貴族たちの上品な雰囲気が漂っていた。香油の甘い香りが漂い、足元には柔らかい絨毯が敷かれている。
「レン殿、魔王討伐隊の一員として、魔王軍の情報について詳しく聞かせてほしい」
「魔王の瘴気の力は想像を絶するほど強大です。一人では戦いになりません。詳しく、となると、俺にもよくわからない」
「そして王国への襲撃を企んでいると」
「はい。それを伝えに来ました。魔王はロンバというものに執着しています。それを渡せればひとまず侵略してこないかと…」
魔王は俺に「ロンバを取り戻すのだな」と聞き「王国を救いたいのだな」と言った。
つまりロンバを渡せば魔王は王国を襲ってこない。
王国は救われる。一番良い結果だ。
「わっはっはっは」
ふいにギルバートは哄笑した。
「お前は魔王の伝令役だということを隠さないな」
ギルバートは慎重そうに見えた姿勢を崩しソファーに大きく寄りかかった。
「お前だけ死なずに死体と帰ってきた。どの状況もお前が魔王の奴隷だということを示しているぞ。魔王城の掃除屋?」
それは仕方なく、と言っても無駄か。
しかしなんで知っているのだろう。話していないよな。
「すべてルリア様のおっしゃった通りだ。と言えばわかるかな?」
どういうこと?
『ギルバートはルリアのしもべになっているようです』とミミズの声。
「魔王城で埃を払いながら、ご機嫌取りか?」
「それは魔王に命じられて」
「魔王が掃除なんか命じるか」
ギルバート卿は、にっこりと笑った。
魔王が掃除を命じるはずがない、というその認識だけは間違っている。
「近衛兵! こやつを処分せよ」