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第10話 蝶のリナ

 青い蝶は俺の上を飛び回っている。

 テイムしたつもりだが、ミミズにしてもリナにしても何か違う。

 使役しているのではなく対等というか。からかわれているというか。


『宿主が彼女を連れていくか決めるですよ』


「役に立ちます! 使えます! 前世は人間でした!」


「よくわからない」

 テンションの高さだけはわかる。


「優柔不断ね。リーダーさん、早く決めてくださらない?」


 ルリアが急かしている。日光を避けたいので、こちらをテレポートさせたら彼女は魔王城の自分の例の部屋へ戻る予定だそうだ。


「頭おかしいところはあるけれど悪い娘じゃないわ」

 ルリアによれば、リナはどうやら魔王城の瘴気と魔力の影響なのか精神にいささか不調をきたしているらしい。


 俺はどちらかというと人見知りの方だ。

 あまり知らない人が急に仲間になったらストレスが増えるような気がする。

 いや、知らない人ではなく魔物だった。というか、テイムして使役しているはずなのだが。


「来てくれとも、来るなとも、言いづらいな」


 正直俺が生き延びられれば、どちらでもいい。


「ちょっと見ててください!」


 リナはひらひら舞うのをやめて、空中で静止した。

 よく見ると蝶の胴体部分が、全体に鱗粉が付いているものの、人間の形をしていることがわかった。


「ステータスオープン! ほら!」


 ほら、と言われても。


「私のステータス、バグってるでしょ。 どう?」


 どう、と言われてもわからない。


「え? 見えない」


 リナは明らかに残念そうな声になった。


「そうかー、そっちかー」


 話が通じなそうなので置いていったほうがいいのだろうか。


「ちょっと待った。私は鑑定もできます! 能力がわかると便利ですよ!」


 するとリナは


「鑑定!」と言って、


「レンって言うの? きゃあ」


 という言葉を発してから、急に無口になった。


 あんなに騒がしかったのに。


 どうしたのだろう。


『宿主の能力がおかしいそうですよ。リナも気づきましたね。宿主の潜在能力に気づけるのは魔王幹部くらいなものです』


 魔王城の虫の中でもとびきり賢いと自称するミミズはそれがわかって、まっさきに俺に寄生したとのことらしい。

 悪くない気分だ。過去の栄光をすこしだけ取り戻した気がしないでもない。


「魔物使い、テイムスキルSSSって、すごすぎる。バグってない?」


 俺についての能力判定は間違っていなかった。

 リナは勇者選抜協会の能力を持っているのか。

 まあ、すごすぎるというのは認めてもいい。


「テイムについては、ゴブリンやスライムくらいならすぐテイムできるけど、そんなにすごいと感じたことはないけどね」


 謙遜しつつ、俺は気分を良くしていた。

 俺はどちらかというと上から目線の良い気分を楽しむ方だ。


 ミミズはそんな俺に爆弾的な言葉を発した。


『宿主、テイムスキルは強力ですが、同時に制限もあります。テイムスキルは2匹までですよ。我ら魔王幹部でもテイムできるのに』


 爆弾的と言えるのは次の点だ。

 まず、ミミズやリナが「魔王幹部」だということ。魔王軍の幹部と言えば、勇者パーティーでも何人か命を落とすことを覚悟しなければならない相手だ。


「魔王軍の幹部?」


 しかしリナはあわてて言う。


「いえいえ、そんなことないです。初めに出てくる魔王軍の幹部と言えば、雑魚雑魚だけど、私はそんなことないですからね」


 あと、俺のテイムは2匹までということ。ゴブ夫とスラ子……。

 いままでのことから納得が行くところもある。


『魔王様への従属は上書き不可能です。魔王幹部にはテイムといっても念話に近いです』


 ゴブ夫とスラ子で2匹か。そうだったのかという気持ちだ。

 いまはミミズとリナの……2匹、ということになる。

 だが後悔はしない。俺は充実した魔物使い体験を送ってきた。

 

『でもすごいことです。もう一度言います。SSSだから我ら魔王幹部もテイムできるのです』


「リナも、その死体も同時にテレポートしますからね」

 ルリアはしびれを切らしたのか、転送魔法準備を始めた。

 もうリナの同行は確定らしい。

 宙に形成されていく魔法陣。見たことがないような複雑な模様をしている。


 そこらを元勇者の死体がうろついている。


「冒険者Bの死体、冒険者Cの死体」


 リナは「凶魔の奇跡」アレクの上と「神界の右腕」ナナの上を飛びながらつぶやいた。


「また、転生前を思い出したよ。冒険者になってダンジョン行くのが大事ね」


 リナはまたこんなことも言っていた。


「そのためにも早く人間に、美少女にならなきゃ。転生者としてやらないといけないことだらけね」


「人間界からなんて珍しいことよ」

 と話しながらもルリアは、魔法陣を組みあがったようだった。

 低い音が聞こえ始め、周囲から灰色の風が魔法陣へ吹き込み始めた。


「レン。王国に到着したら、ギルバート・フォン・ルドリア辺境伯に会ってみると良いでしょう。彼はルドリアの情勢に詳しく、あなたの役に立つ情報を持っているかもしれません」

「ギルバート卿ですか。どのような人物でしょうか?」

「彼は王国で信頼されている人物です。ただ…少しばかり野心家で、暴君だと言われることもあるようね。でも、警戒しなくてもよろしくてよ」

「警戒しなくても?」

「彼は過去に、ある暗殺事件で失脚しかけたこともあって、多少なりとも手段を選ばないところもあります。…まあ、あくまで噂話ですわ」


 風のようだが庭園の木々にも動いた様子はない。

 魔力が魔法陣へと集まってきていた。魔力が渦を巻きながら魔法陣が拡大するにつれて、周囲の空気が歪み、光が屈折して見える。

 轟音は雷鳴へと変わっていった。

 全身を熱い魔力が包み込み、身体が溶けていくような感覚が襲う。

 視界は虹色に溶解し、周囲の景色が万華鏡のように崩れていく。

 稲妻の耳をつんざく轟音と、遠くから聞こえてくる様々な声。全身がねじれ、引き伸ばされ、圧迫される。

 ルリアは右手をパチンと鳴らした。


 そして、一瞬の静寂。


 俺たちは冷たく湿った石畳に叩きつけられた。

 周囲は崩れかけた石柱や苔むした壁に囲まれ、静寂が漂っている。

 空はどんよりと曇り、領都の郊外を陰鬱な雰囲気が包み込んでいた。


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