悪女と呼ばれた公爵令嬢、婚約破棄されたので辺境で好き勝手します
王城の広間に、私を糾弾する声が響き渡る。
「公爵令嬢アリシア・フォン・ローゼンシュタイン! 貴様の悪行はもはや看過できぬ!」
王太子ユリウス・フォン・ルベリオンが、怒りに満ちた声で私を指さした。
「貴様は嫉妬に駆られ、伯爵令嬢クラリッサを陥れようとした。よって、婚約は破棄し、貴族の身分を剥奪し、辺境へと追放する!」
広間に集う貴族たちが、一斉に私を蔑む視線で見つめる。
だが、私はそれを冷静に受け止めていた。
(なるほど……この茶番、ようやく終わるのね)
私が王太子の婚約者だったことをよく思わない者たちが、私を陥れるために仕組んだ陰謀だ。証拠もなく、ただ感情的に私を断罪する王太子は愚かとしか言いようがない。
「……わかりました」
私は静かに言い、王太子を真っ直ぐに見つめる。
「ですが、ユリウス殿下。今後、必ず後悔なさるでしょう」
「何っ……!?」
私の言葉に王太子はわずかに動揺するが、私はそれ以上何も言わずに踵を返した。
(さて、辺境で好きに生きるとしましょうか)
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「ははは! お前がアリシア嬢か! 思ったより元気そうだな!」
私を迎えたのは、辺境伯ガルハルト・フォン・アイゼンハルト。豪快な笑い声をあげる、屈強な武人だ。
「辺境の暮らしは貴族には厳しいぞ?」
「心配いりません。むしろ、私にとっては自由そのものです」
王都の貴族社会で気を張る生活より、何倍も気楽だ。
だが、私はすぐにこの地で自分の居場所を作ることになる。
(前世の知識を活かせば、この辺境でもやれることはたくさんあるわね)
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私は前世の知識を活かし、薬草学や魔道具の研究を始めた。
辺境は王都と違い、医療も魔術も未発達。だからこそ、私の技術がすぐに役に立った。
「アリシア様! この薬、驚くほど効きました!」
「魔道具の灯りが夜でも消えないなんて……まるで魔法のようだ!」
次第に、人々は私を「辺境の魔女」と呼ぶようになった。
(まあ、悪女よりはいいわね)
自由な生活を満喫するうちに、思いもよらぬ出会いが訪れる。
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ある日、辺境の森で私は一人の男と出会った。
「ここは……?」
銀の髪に紅の瞳を持つ、美しい男。
だが、彼は重傷を負い、意識を失っていた。
(放っておくわけにはいかないわね)
私は彼を屋敷に運び、治療することにした。
目を覚ました彼は、鋭い眼差しを向けてくる。
「貴様、俺が何者か分かっているのか?」
「さあ? でも、貴方を見捨てる理由もないわ」
彼は敵国・ガルヴァニアの皇子、レオナード・フォン・ガルヴァニアだった。
やがて、彼との出会いが、私の運命を大きく変えていく――。
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レオナードは、敵国であるこの地に潜入していた。
「俺は帝国の内乱から逃れてきたのだ」
彼の祖国では、皇位継承争いが起こっていた。
「ならば、ここで静かに暮らせば?」
「そういうわけにもいかん。……だが、お前のそばは居心地がいい」
気がつけば、彼と私は互いに惹かれ合っていた。
だが、そんな穏やかな日々は長くは続かなかった。
「アリシア様! ルベリオン王国からの使者が!」
かつて私を追放した王太子が、助けを求めに来たのだ。
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「アリシア……やはりお前は俺の隣にふさわしい」
王太子ユリウスは後悔していた。
クラリッサは偽聖女で、彼の国を混乱させた張本人だったのだ。
「どうか、戻ってきてくれ」
だが、私は冷たい笑みを浮かべる。
「お断りしますわ」
「なっ……!?」
「私は辺境で好きに生きると決めました。それに――」
私はレオナードの手を取り、彼の紅い瞳を見つめる。
「私は、彼と共に生きると決めましたもの」
ユリウスの顔が絶望に染まるのを見ながら、私は新たな未来へと踏み出した。
⸻
それから数年後――。
レオナードは帝国の内乱を制し、新たな皇帝となった。
私は彼の皇后となり、「辺境の魔女」ではなく「帝国の賢后」と呼ばれるようになった。
「お前と出会えて、俺は本当に幸運だった」
「私もよ、レオ」
私は彼の手を握りしめながら、微笑む。
もう、偽りの王都で縛られることはない。
私は自らの意思で生き、そして愛する人と共に歩むのだから――。
短編小説連続投稿中!希望があれば長編化する予定です!




