現代勇者は必要ない
勇者はお払い箱ですか?
勇者とは、魔王を倒すために生まれた職業である。
その力は強く。
剣を振れば山を割り、魔法を放てば国すらも滅ぼす、一挙手一投足が破壊を振りまく1人の戦略兵器を指す言葉でもある。
その戦略兵器と呼ばれる勇者の職業に成った少女は見上げるほどの城門を背後にため息をしながら頭を抱える。
「お役ごめんっていきなり言われてどうすれば良いのよ」
通り過ぎた馬車を眺め、短い草の生えた土手に寝転んだ少女は王城の中で会話した宰相の言葉を思い出す。
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「解雇ですか?」
滑りとした艶を持つ黒い机の上のケーキを食べながら無表情で少女は向かいにいる片眼鏡の男性に聞き返した。
「本当にすまない。わたしも尽力したんだが言って聞かせても耳を傾けてくれなくてね。『実績のない奴に払う金は無い』の一点張りでね」
カップを傾けお茶を飲む男性は口を離してから苦笑いをして少女を見返す。
「実績って、今までも近くの集落や遺跡の魔物退治なんかの雑用みたいなことはやってきたでしょ?」
「その雑用みたいなことが気に入らないらしい」
ケーキの上に乗った苺をフォークに掬いながら睨み返すがお茶の替えをカップに注いでいる男性はどこ吹く風だ。
「『それぐらいの事は一般の兵なら誰でもできるんだから勇者如きは必要ないだろう。』とは王の言だ。」
「それぐらいもできないから勇者に頼んでたの忘れてない?」
「先代の陛下は勇者に恩があっての雇用だからな。今代の陛下は勇者との接点が薄く、しかも親バカときた」
「あーアレは仕方がないと思うんだけどね」
この世界での職業は神託によって方向性を定めることが可能だ。
剣を扱うなら騎士や剣士、魔法を扱うなら魔術師や魔法使いなどがある。
方向性を定めると言ってもなれないわけではなく補正が乗りやすい程度だ。
しかし勇者だけは違う。
今世になれるのはただ1人、全職業に補正があり正に神に愛された職業とも言える。
「ヴァレス王太子には失礼かもだけどそれって嫉妬よね?
魔剣士の職業ならかなりの当たりだと思うんだけど」
「仕方があるまい。職業の選定は神にしか定められん。それを踏まえてどういう風に生きていくしかできんからな」
湯気で曇った片眼鏡を外し、なんでもないような顔をしながら拭き始めた男性を見つめるがその姿に隙は見れない。
「そうね。元暗殺者のくせに宰相の位にまで登り詰めた貴方だから言える事ね。リャンラー師匠?」
「裏の裏まで読めるお前が居れば城の中は安全だ。と先代に言われて頼まれては断れんよ。現勇者の君には縁がなかったと言えるかな?イシュカ」
フフフと苺を口に含みながら笑う勇者と
クックックッと拭き終えた片眼鏡をかけながら笑う宰相であった。
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