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悪役王子、追放される

 ……そうか、いよいよか。


 ついに、ここまでたどり着くことができた。


 弟に玉座の間に呼び出された俺は、とあることを確信する。


「アルス兄さん! 貴方の王族の身分を剥奪し、辺境の地ナイゼルに追放します! 厳しい土地で、その生涯を過ごすのです!」


「……ああ、わかった」


 俺は笑みがこぼれないように、唇を噛みしめる。

 ようやく、苦労が実って願いが叶うのだから。


「……ですが、兄さんにも情状酌量の余地はあります。いくら王位継承権争いをしたとはいえ、そのほとんどは邪神のせいです。兄さんも犠牲者であり、協力して倒して死者も最小限にとどめて……」


「いけません、国王陛下」


「ソユーズ宰相……しかし」


「それでは、他の者に示しがつきません。いくらアルス王子に理由があろうとも国を混乱に陥れたのは事実なのですから。最悪の場合、死刑もありえたのです」


 良いぞソユーズ、ジークにもっと言ってやれ。

 こいつは甘いところがあるから、本気で俺を許しかねない。

 それでは……《《エンディングを迎えることができない》》。

 

「それは許しません。それに、それには皆が納得したでしょう。何より、そんなことをしたらアルス兄さんを慕っている連中が暴れてしまいます」


「ならば、せめて追放をしてください」


「……わかりました。 先ほどの言葉通り、兄さんは荷物をまとめてナイゼルに行ってください」


「わかった……ジークよ、世話をかけたな」


「っ……! アルス兄さん……お元気で」


「ジーク、俺のたった一人の弟よ……俺が言えた義理ではないが、この国を頼んだぞ」


 もう、俺の身内はジークとたった一人の妹以外にはいない。


 俺は悲しそうな表情をしながら、玉座の間から出ていく。


 しかし、ある意味で俺の心は晴れやかだった。


 これで、《《俺の悪役転生は幕を閉じたのだから》》。

 

 ◇


 その表情を維持したまま、自分の部屋へと戻り……。


「……よし、これで外に音は漏れないな」


 この部屋は風の結界により、音が遮断された状態になっている。

 なので、勢いよくベッドの上に飛び込む!


「ふははっ! ようやくだっ!」


 ここまでたどり着くまで大変だった!

 元アラサーの日本人である俺が転生したのは、アリストア戦記というゲーム世界だったからだ。

 しかも、その物語の悪役……漆黒の髪に闇魔法を駆使する、アルス-アスカロンという存在に。

 剣と炎魔法に適正があり、才能がないのに自分より人望がある弟を憎んでしまう悪役だ。

 そこを邪神に精神を支配され、王国を混乱に陥れる王太子という設定だ。


「いやー、最初はビビった。十五歳で記憶を取り戻した時には、もう邪神に取り憑かれて破滅が決まってる王子だもんなぁ」


 本来なら弟であるジークによって、討たれる運命にあった。

 ただし、有難いことに悪役にも救済ルートが存在した。

 兄弟が手を取り合って、共に邪神を倒すというルートが。

 十五歳の時に両親が亡くなり、王位を継いだ瞬間に前世の記憶が蘇った。

 その後、俺はうまく立ち回りつつ、そのルートに入ることができたってわけだ。


「ふふふ、ようやく身を結んだぞ。これで、王位を継ぐこともない。先に邪神を倒して、ふつうに王位を継ぐことも考えたが……それだとめんどくさい。俺は王位なんかに興味はないし。何より、それでストーリーが違って国が滅ぶようなイレギュラーがあったら怖いし」


 ルートは三つあり、一つが邪神ごと悪役を殺す通常ルート。

 もう一つは、悪役が勝ってしまうバットエンド。

 最後が邪神を体から追い出して共に倒すルートだ。


「邪神に精神を支配されないように且つ、それを抑え込むのは苦労したが……ふっ、元の世界で孤児で社畜で婚約者を寝取られた俺を精神支配しようとは甘いわ……グフッ!」


 い、いかん! 自分で言ってダメージを受けすぎた!

 だが、邪神も入る相手を間違えたな。

 俺以外だったら、危ないところだっただろう。

 何より、記憶を取り戻したのが良かった。

 ルートを知っていたし、前世の俺の意識が邪神に支配されたアレクに入り込む余地ができた。

 そこから逆に支配して、弟にわざと負けるように振る舞った。


「ふぅ……とりあえず、これで俺の役目は終わったはず。あとはエンディングなので、弟が国を平和に治めてくれるし。俺は追放されるけど……転生して二十年、ようやく自由を手に入れた……ククク……ふははっ! ここからは念願のスローライフを送るのだっ!」


 前世も今世も苦労ばかり! 良い加減、俺だってダラダラしたい!


 上手く立ち回って民には迷惑がかからないようにやったし、不正や犯罪を働く貴族達は排除した。


 かなり頑張ったしそれくらいは許されも良いはず!


 そう決めた俺は、ベットから起き上がり荷物整理を始めるのだった。



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