原田夏菜の場合その5
大変面倒くさい事に宿題を忘れてきたので私は一度自分の教室に戻った。
ぶっちゃけ明日早く来てやればいいと思ったけどワタシが「宿題は家でやるものだよ」とうるさいからしょうがなく、非常にしょうがなく取りに帰ったというわけ。
「これでいいでしょ。」
うん、よろしい。
ワタシは満足そうに言う?
こんな紙切れ一枚の為に校舎の端から端まで階段登り降りをして無駄な体力を使った気分だよ。
私は宿題のプリントをジュエルとは違い乱雑にくしゃくしゃなることなんてお構いなくカバンに突っ込み教室を出る。
時間は17時45分、18時の完全下校ギリギリで校舎にはもうほとんど生徒はいない。
そういう私も早くここから出ないと先生に見つかり早く帰れと口酸っぱく言われるのがオチなのでさっさと帰ることにしようそうしよう。
夏菜が宿題なんて忘れなきゃもっと早く帰れたのにね。
「ジュエルなんて探さなきゃもっと早く帰れたけどね。」
ジュエルを探すのはコレクターの義務だからしょうがないよ。どんな時でも犬の散歩をしなきゃいけない義務を負う飼い主と同じだよ。
「ジュエルは犬かよ。」
自由気ままに現れては翻弄させるって意味では犬と同じかもしれないね。でも犬は待てと言えば待つけどジュエルは待て言うと他のコレクターに取られて逃走する。それは飼い主の職務怠慢だ。
そういう点で言えば家でやる宿題を忘れ翌日学校でやろうとしている夏菜は学生としての職務怠慢をしてることになるね。
「たまには気を抜くことで業務がうまくいくことだってあるのだよ。」
抜きすぎるのも禁物だよ、気が抜けたコーラはただの甘ったるい砂糖水と同じように気が抜きすぎると自分に甘々な人間の出来上がりだ。
炭酸がないコーラなんて誰も求めていないんだから。
「つまりワタシは私に大人しく宿題をやれって言いたいんでしょ?」
夏菜が怒られると夏菜の中にいるワタシも怒られてるみたいになるからね。それは困る。
「ほらやっぱりでたほん…。」
階段を降りる途中私は足を止める。なぜならよく知ってるロングヘアーの大人しそうな女の子が廊下を通り過ぎるのを私の視界にしっかりと入ってきたからだ。
その子は私に気づかないまますぐに姿を消した。私は私はビックリして声も出さずにそのまま見送ってしまった。
夏菜…どうしたの?
「今冬子がいたようなぁ…って。」
別にいてもいいんじゃないの?冬子もここ生徒なんだし。
「でも冬子は用事があるって先帰ったはずなのにじゃあなんでまだ学校にいるのかなってさ。」
その用事が学校でやることじゃないの。なにも用事がわざわざ帰ってから私服に着替えてすることが全部ではあるまいし。
それにいくら幼馴染って言っても他人のプライベートを何でも模索するのはよくないよ。
どうせ明日聞いてみようとか思ってるんでしょ?
「なっ、どうして分かったの?」
曲がりなりにも夏菜の中に住んでるんだから少し一緒にいればそのくらい嫌でも分かるさ。
「私は嫌でも分かって欲しくないけどね。」
人間1つや2つ他人に知られたくないこと隠したいことだってあるのさ。夏菜だってコレクターじゃない冬子にも自分がコレクターだって隠してるじでしょ?
「まあそうだけど。」
なんでだろう、このワタシって奴、私より人間できてる気がするぞ…。
だから今のは見なかったことにする忘れる、そうすれば普通に今まで通りの仲良しこよしな幼馴染のままでいれるんだから。
分かったね。
ワタシの言葉を頭では納得しているんだけど何故か釈然としない。
確かに隠し事があっても別にいい、私もしてるから。
でもでもこれはなんか違う気がするんだよね。何とは言えないけど冬子は私に言わなきゃいけないことを隠してる。
そしてワタシはその事を察していて私に隠している。
そんな気がする。
ほら夏菜、さっさとササッと帰るよ。
「うん。」
こんなモヤモヤを心に感じながら私のコレクターとしての初めての職務が終わった。