原田夏菜の場合その4
あったね
「うん、あった。」
ジュエルを探してはじめて約10分、ダラダラとワタシと脳内会話しながら歩いていくうちに胸ポケットのレインボージュエルの輝きが強くなりそれにつられるように入ったパソコン室ある机の上にフリージュエルがポツンと置いてあった。
私は周りを見て誰もいないことを確認するとジュエルを手に取る。
どうしたの、そんななんともいえない表情しちゃってさ。
窓越しに写る私はジュエルが見つかって喜んでいるわけでもなくまんまと乗せられたなって神妙顔をしているのでもなくただただ無表情だった。
「だってこんなあっさり見つかるなんて、なんか拍子抜けというか。」
じゃあ何かい?夏菜はジュエルを見つけるまでに過酷な道なき道を進み、途中行方を阻む者達と命を賭けた壮絶な闘いをご所望なのかい?
「そんなこと死んでもごめんだな。」
ならすぐ見つかって良かったじゃん。ほら祭りは祭りが始まるまでの準備のほうが楽しいって言うじゃん。祭りは過ぎ去りそこにあるのは夢の後、濃いめよりあっさりのほうが健康的にいいのさ。
「私はあっさりの塩ラーメンより濃い目の豚骨ラーメンのほうが好きだけどこれに関してはあっさりしてて良かったよ。」
でも最後まで油断は禁物だよ、ラーメンを食べるとサイドメニューやデザート食べたくなるからね。
「せいぜい食べ過ぎないように気をつけるよ。」
私は手に入れたフリージュエルと胸ポケットに入れてあるレインボージュエルをカバンに入れるとしっかりファスナーを締め取りこぼしがないか念入りに確認しパソコン室の敷居を跨ぎ出ようとした瞬間
ドン!
っとなにかに当たる音と感触がした。でも正面には廊下と壁があるだけ左右を見渡しても当たるの人も物もない。
さてさていったいぜんたいどういうことでしょう?
夏菜、下、下を見て!
困ってる私にワタシが渡し船を出す。言われた通り下を見るとそこには胸よりよりも小さな金髪をした少女が頭を抑えながら私を睨みつけていた。
「あっ、ごめん。全然気づかなかった。大丈夫?」
「大丈夫なわけないでしょ、なんでカバンを前にだして歩いてるのよ!ここはお嬢様学校じゃないんだから!」
などと金髪の少女は早速理不尽ないちゃもんをつけてきた。
なるほどねぇ、こうゆう風にヤクザに絡まれるのかぁと変な教養を学んだ気がする、うんうん。
早速デザートに当たっちゃったね。
これはデザートじゃないよワタシ、頼んでのないデザートが届いてお詫びに激辛餃子までついてきたやつだよこれは。
つまりは物凄いありがた迷惑。
私は心の中でそうワタシに言い聞かせる。
「その青色のリボン、あなた中1だよね?」
「そうよ、歳下だからあんたより小さいから当たったのはしょうがないって言いたいんでしょ!私分かってるんだからね!」
うわー、面倒くさー。
こういう場合何を言ったとこで結局は難癖つけられるんだよなぁ…。
私だって伊達に14年生きているんだからそのくらいは分かる。
でも先輩としては舐められるのはちとしゃくだ。
じゃあワタシがなんとかしてあげようか?うまくこの場から巻けって命令してさ。私も早くここから出たいんだよね。
「いや、ここは私がどうにかするよ。あんたに命令されたらお互いどうなるか分からないし。」
「なに一人でブツブツ話してるのよ?頭おかしいんじゃないの?」
少女は思わず口に出してワタシと会話していた私に若干ドン引きしながら言った。
まあ、他人からすればそう見えるよね。しょうがないしょうがない。
「人間たまにはひとり言の1つや2つする時だってあるでしょ?」
「ひとり言は一人でするからひとり言であって他人がいる前でするひとり言はひとり言じゃないわよ、ただの他人事よ。」
「他人事はまた別の意味だと思うけど…。」
「少なくともあかの他人のあんたと喋ってるこの状況は他人事と言えるんじゃないの?」
「赤の他人は互いに知らない人の事でこうやって話してる時点で私とあなたは赤の他人ではないんだよ後輩くん。」
「誰があんたと赤の他人って言ったのよ?私が言ったのは赤じゃなくて垢、垢の他人よ。つまり汚い。」
彼女は指を指して言う。
「汚いってどこがよ。」
「そんな顔から汗ダラダラのは新陳代謝がいい証拠。余程皮膚の生まれ変わりが激しいのね、だから垢の他人。」
「残念だけど私は暑いのが心底苦手なだけ、新陳代謝がいいわけがありませーん。」
「あっそ。」
…。
「ところでさ確かに当たったのは私のせいだけど一応私のほうが先輩なんだからせめて敬語は使ったほうがいいんじゃないのかな後輩くん?」
「はぁ?なんで今初めてあったばっかに敬語使わなきゃならないの?
敬語は目上の尊敬する人に使うもの、あんたに尊敬するところがどこにあるのよ?
たたが1年早く生まれて背が大き…、また小さいって馬鹿にしたわねぇ!!」
うわー、めんどくせぇー!
「分かった分かった分かったから、ステイステイステイ。」
私は犬を宥めるように怒鳴り散らす彼女を落ち着かせる。
きっとワタシにはこうなることを予期していて早く立ち去りたいって言ってたのだろう。
確かに流石に私も早く帰りたい、勝ち負けって無駄なプライドを張ってる場合じゃない。プライドよりも自分の保身が大切になる時だってある!
「もう、全部私のせいでいいから、ねっ?だから今回は許して。」
そう私は心にもない平謝りをする。
「分かればいいのよ。」
分かったんだー。
「それでパソコン室に用が会ったんでしょ。ほら入っていいよ。」
「また上から目線ね、高いのは歳と背だけしてくれないかしら。別にいいわよ、もうここにくる必要は無くなったから。」
そう言うと彼女は私に細くて少し握れば折れそうな小さくてか弱い背中を見せる。
「えっ、でも…。」
「いいって言ってるからいいのよ!私がパソコンやるように見える!?じゃ!二度と会うことはないけまた会った時はよろしく頼みますね先輩。」
そんな捨て台詞を吐き捨てながら去っていく小さな彼女の背中の汗でブラウスから透けて見えるピンクのブラジャーを見て私は思わず呟く。
「なんだよ、それならあんたは垢の小人じゃん。」