原田夏菜の新学期その2
「先生、どういうことですか?」
普段授業では指されるまで絶対に喋らないし手も挙げないことでクラスでは有名な私が手を挙げて先生に尋ねた。
そんな滅多に起こらない光景にクラスメイトが珍獣を眺めるように視線をこっち向ける。
「どういうことなのかはこっちが聞きたいわよ。昨日いきなりご両親から学校にやってきて転校しますって。私もビックリしましたよ。
寧ろ私が後で原田さんと高田さんに事情を聞こうと思っていたくらいで…。貴方達幼馴染なんでしょ?なんか聞いてない?」
私は冬子の顔を見る。
「なんか聞いてる?」
「ううん〜、私も今知ったばっかでちょっと混乱してる。」
普段笑顔を絶やさない冬子も突然のことでこの時ばかりは笑顔が消えていた。
「すいません、私達も今知ってなにがなんだか…。」
「そうですか…そうだよね、ずっと一緒にいた幼馴染が何も言わずにいなくなっちゃったんだもんね。
ごめんなさい、寂しい思いさせてしまって。」
先生はそう申し訳なく言った。別に先生はただ事実を伝えただけなのにそんな謝罪をさせることになってしまってこっちほど申し訳ない気持ちになる。
「先生〜、一ついいですか〜。」
重苦しい空気が教室に漂ってるその時隣の席の冬子がさっきの私のように手を挙げる。
冬子は私以上に挙手をしないことで有名だからこの時はどよめきがクラスメイトの間で広がった。
「えっと、なんですか高田さん?」
冬子は立ち上がると静かに口を開く
「さっき春香ちゃんのご両親が来たって言いましたけどそれはどっちですか〜?」
「それは…、どういうことですか…?」
先生が不思議そうに冬子に聞いてくる。
「どういうことってそのままの意味ですよ〜、春香ちゃんが転校するって言ってきたのはそれはお父さんですか〜?お母さんですか〜?」
「それは…ご両親お二人です…、大切なことなので揃って来たのでしょう…。」
先生のその答えを聞いて私と冬子は思わず互いの方を見ると揃ってうなずく。
そして私は立ち上がるのカバンに机の上にある筆箱やらなんやらのおもむろにガサツにしまう。
「ちょっと原田さん?なにやってるんですか?」
「すいません、ちょっと早退させていただきます。」
「先生〜!私も帰るね〜。」
私に合わせるように冬子も立ち上がり帰り支度を始める。
突然のことに当然驚いた先生は叱責にも似た声で私達に訴えかけた。
「ちょっとふたりとも、別れの挨拶はしなきゃいけないのは分かるけどそれは放課後でも…」
「先生!」
先生が言い終わる前に私は声を被せるように言うと冬子が続けて口を出す。
「春香ちゃんのお父さんはお母さんと喧嘩した後で離婚して今は一緒に暮らしてないんだよ〜!」
「そういうことなんでそれじゃあ失礼します。」
「ちょっ、ふたりとも!!」
私達は軽く会釈をした後先生の静止から逃げるように教室を飛び出し門を出て春香の家に向かって走り出す。
「ねぇ〜、どう思う〜?」
「どうってどのこと?思うことは沢山ありすぎて両手じゃ収まりきれないよ。」
「それじゃあ〜、春香ちゃんのお父さんのこと〜?あれ誰なんだうね〜?」
「さあね、でも春香かの父親じゃないってことは確かだよ、だって春香の父親は…。」
「だよね〜、じゃあ誰だろうね〜。真っ黒な赤の他人だね〜。」
「そんなことより春香だよ。」
大きな交差点の信号が私達の足を止めた。運動は苦手で走るなんてもってのほかだけど今回ばかりは一秒でも早く走りたい気分だ。
「大丈夫〜?お水飲む〜?」
そんな私とは対照的に息ひとつ汗一つかいてない冬子がカバンから水の入ったペットボトルを今にもぶっ倒れそうな私に渡しそれを私は勢いよく飲む干す。
「あ〜生き返る〜!!!」
「いい飲みっぷりだね〜。」
冬子は拍手をして私を称えた。
「ハァ~、なんで私達になんも言わないで勝手に行くんだよって話だよ。」
「それは〜、私達に言いたくなかったか〜それとも〜。」
「私達に言えかった…でしょ?」
「そうだね〜!」
「だから直接乗り込んで春香の口から聞いてあげてやる。」
「でもお家に行っても春香ちゃんがいるか分からないよ〜?」
「じゃあなんで冬子はついてきたんだよ。」
「えええっ、さあね〜。あっ、信号変わったよ〜。」
私達のスタートを告知するかのように信号が青を灯す。
「あ〜!!!」
「夏菜ちゃん〜?どうしたの?」
「なんでもないよ、ただ朝つけた制汗剤が汗で全部流れちゃったって!」
「それじゃあ春香ちゃんに会う前につけなきゃね〜!汗臭いって言われちゃうよ〜。」
「言われればハッピーエンドなんだけどね!」
こうして私達は再び汗だくのまま春香の家に向かって走り出ししばらくしてやっと彼女の住んでいるアパートに辿り着いた。
このアパートは決してキレイとはいえたもんじゃなくて彼女が暮らしている2階に続く階段は一歩踏み出すごとにキシキシと音がなり錆びた手すりがないと揺れてとても歩けない言ってしまえばオンボロだ。
そんな場所に私の幼馴染は昔から住んでいる。
202号室、春香の住んでいる部屋。その前に私達は立っている。
冬子が古びたインターホンを鳴らすが中からは誰も出てこない。ならもう一度と鳴らすが結果は同じ。
「いないのかな〜?」
私はドアを直接叩き「すいません〜!」と声を張り上げるがやはりなにも反応はない。
「やっぱり誰もいないね〜、もう行っちゃったのかな〜?」
私もそう思った、でもやっぱり諦めきれずドアノブを手をかけ右に回そうとすると
カシャッ
ときしむ音と同時に鳴る。
「鍵が開いてる?」
「え〜、ホント〜?」
「本当もなにもドアノブ回ったし!後引っ張ればドア開くし!」
「それなら〜、入ってみよう〜!」
冬子はなにも1秒も迷わず即決する。勿論私も反対する気がない。
別に幼馴染の家なんだしなんも問題ないない、大丈夫だ!
「それじゃあ…、行くよ。」
私は静かにゆっくりとドアを開く。




