原田夏菜の場合その2
ジュエルには2種類ある、透明なやつはフリージュエル、一方虹色をしているのはまんまそのまんまレインボージュエルというらしい。
レインボージュエルは近くにジュエルがあると光輝き近づくほど輝きが強くなるらしい、らしいというのは私は見たことがないからそれ以上のことは言えない。未確認情報を確定情報として扱うのは良くないからね。
とにかくそのレインボージュエルの特性を使いどこかにあるというジュエルを合計30個集めること、それが。
「コレクターだっけ。」
朝日が眩しい通学路、学生や出社する人に紛れながらなるべく汗をかかず、でも遅刻はしない程度の速さで歩いている。
そんな中でも耐えずワタシが話しかけてくるから周りの人におかしく見られない程度に会話をすることがコイツが現れてからの行事になっている。
でも喋るだけでも熱い空気が口の中から全身で回ってくるからなるべく喋りたくないのが本音だけどワタシがしつこいから反応せざるおえないのですはい。
そうだよ夏菜はコレクターになったんだよ、良かったね。
「全然良くないよ、そもそもコレクターって何?そんでこのジュエル、あんたが現れたと思ったらいつの間にか手に持ってたんだけど。」
何回も言ってるでしょ。それは私も分からない。私が生まれた時、夏菜と同じように私の中から声がしたんだ、この子を「コレクターにしてジュエルを探させろ」ってね!
「なにそれ馬鹿らしい。」
青空中学校、全校生徒約1000人が通うマンモス校の2年3組、ここが私の学び舎。
「おはよー冬子ー!」
教室に入ると真っ先に自分の席…ではなく隣の席に座っている女の子の元に駆け寄けより後ろから抱きついた。
「おはよう夏菜ちゃん、きょうもギリギリだね〜。」
こんな事をしても動じずいつもどおりゆったり話す長い髪をした彼女は高田冬子、昔からの幼なじみで小さい頃からずっと一緒にいる。おっとりまったりとした性格で私の癒やしの存在なのだ。
「本当だよ、いつもギリギリなんだよどうにかしてよー。」
「それは夏葉ちゃんが頑張るしかないよ〜。それよりも暑いから離れてくれないからかな〜。なんかベトベトしてるし〜。」
「うわぁぁぁ」
その言葉に思わず声を出して離れる。いくら汗をかかず気をつけていたとはいえこの暑さで汗を全くかくなというのは実に無理な話だ。
「大丈夫…?臭くなかった…?」
「夏菜ちゃんの臭いならどんな香りでも大丈夫だよ〜。」
遠回しに臭いって言ってるよねこれ!
「うるさい!」
「うん?」
コレクターがなんのかなんでジュエルなんぞ集めるのかなんて私には実にどうでもいいことなんです。何故なら私は学生、学生の本分は勉強すること。
私は勉強好きでもないが嫌いってわけでもない。やればやるだけ結果が見えるって意味では分かりやすくていい。そういう意味では好きかもしれない。
だからワタシには私が勉強してる時は黙っててと口を酸っぱくしていってある。そのおかげか授業中は今まで騒がしさが嘘のように頭がすっきりしていた。
だがしかしゴムを伸ばすと反対側に跳ね返るように反動はやってくる。
さあさあジュエルを探しに行こうかさあさあ。
全ての授業をこなし終礼が終わった直後頭の中のワタシが今まで我慢していた鬱憤を晴らすかのようにそう訴えかけてくる。
まだ周りには冬子や他のクラスメイトがいるから迂闊に反応することもできないこの時間は1日の中で一番ストレスを感じる瞬間。
「夏菜ちゃんどうしたの〜?」
「えっ、なにが?」
「なんか怖い表情してたよ〜。」
あっ、ヤバい、思わず顔に出ちゃったのか、頑張って隠してるつもりだったのに。
「う、ううん、なんでもない。今日の宿題多いからどうしようかねって思っただけ。」
ホント嘘は得意だね、夏菜は。
うるさいよ、全く。
「そうなんだ~、そうだよね〜、まさか今日全ての教科で出るなんてビックリだよね〜。」
冬子は同調するように言った。
「ところで今日帰りにどっか行かないたまにはさ?」
ダメだよ、今日こそジュエルを探しに行くんだから!
私はワタシの声を全力で無視しながら彼女を遊びに誘う。
学生は勉強も大事だけどまた遊ぶことも大切なんだよ。
「ごめん〜、今日も用事あるから先に帰るね〜。
」
私の願いは儚く散った、
「それじゃあ夏菜ちゃんじゃあね〜。」
そういい手を振りなりながら冬子は私を置いて今日もまた教室を出ていく。
あーあ、今日も
「今日もフラれちゃったねぇ。」
ワタシの声に被るようにそう言ってやってきたのは白石瞳。
小柄で可愛らしい風貌からクラスメイトの間ではマスコット扱いされているけど本人はそれを良しと思ってない。
彼女は中学からの付き合いだけど私や冬子とは仲良くやらせてもらってる。
「これで何日連続?」
私は記憶を辿りに思い出しながら指で数える。
「土日挟んで8日連続。」
「それもう破綻じゃん破綻、カップル崩壊だよ。」
瞳は私の机にヨイショと座る。床につかない足をぶらぶらさせて無意識にアザトさをアピールしてるところがマスコットいわれる由縁の1つになってることに恐らく彼女は気づいてない。
「別にカップルじゃないし、ただの幼馴染みだし。」
「えー、カップルじゃなかったのー、ん、はい。」
冬子はブラウスの胸元のポケットから四角いチョコレートを私に渡す。
いつからそこに入れたか分からないけど包み紙を開くとが外側は夏の日差しに照らされ、内側は人肌に温められ溶けた原型を留まっていないチョコレートが現れる。
見た目はアレだけどせっかく貰ったものだし味は変わってないはずだから私は何食わぬ表情をして口に入れる。
「いつからカップルになったんだよ。私達は。」
「お似合いだと思うな、夏菜と冬子。」
瞳も私と同じチョコレートを口に含みながら言う。
「最高の褒め言葉ありがとう。」
私は皮肉めいるように言った。
「でもさ、冬子最近ほんと早く帰るよね。夏菜はなんか知らないの?」
「知ってたら今瞳と話してないよ。」
「そりゃそうだ。」
瞳は笑顔で言うと飛び跳ねるように机から起き上がると新体操での着地した後のポーズを取った。
傍から見ればやっぱり彼女仕草一つ一つがとても可愛くみえる。
そういうとこだぞ白石瞳…!
「じゃあ、私も帰ろうかな。」
「えっ、もう帰るの?どっか遊ぼうよ。」
「残念だけど私は冬子の代わりじゃないんで、二股に巻き込まれるのはゴメンだからね!じゃあね〜!」
そういい去ると瞳は風のように過ぎ去っていった。
今日だけで2回フラれた。
「だからフラれてないって!」
気づけば教室には私一人だけになっていた、ワタシはこのタイミングを待って話かけたのか、いや、ただのぐうぜん。アイツはそんなこと気にしないタイプだ。
それはワタシが私の中にいるから私がよく知っている。
でもワタシが今喋ったのはもっと別の理由があった。
ところで夏葉
「なによ。」
カバンを見てごらん、カ・バ・ン
私は不思議そうに机の端にかけているカバンを見ると思わず目が開く。
カバンを机の上に置いて開き中からワタシにジュエルを取り出し手に取る。
夏の夕焼けに照らされる虹色の輝きをしたジュエルは不本意だが今まで見たどの虹よりも綺麗だった。
「ねえ、ワタシ…これってさ…。」
レインボージュエルが光ってる、それはジュエルが近くにある証拠。
私がコレクターとして初めて動くことを教える合図。