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私の中のワタシ  作者: 天神
出会いと交流と探索編
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関根春香の苦労話

やっぱりさー、この世界は不公平で不平等にできてると思ってるんだよなー。

例えば両親が2人で仲良く暮らしてる子供もいれば2人いても両親に良心がなくて消えてほしいと願う子供もいる。

はたまた両親が片方いなくても幸せに暮らしてる子供もいるってもんよ。

世界の天秤は誰にどう傾いてるのかどっちに傾いてたほうがいいのかなんて他人が決めるんじゃない、自分が決めたほうが幸せだと思うんだよ。


なんだよ急に語りだして。


「別に、ちょっと思っただけだよ。」


どうした夏の暑さにでもやられたか?


「暑さというより熱さだよ、まさか学校帰りのバイト帰りに見つかってそれがまさか一流企業の会社の中にあるなんてほんとドキドキしたよ。身体中の穴から汗が吹き出したぜ。帰ってシャワー浴びよ。」


お前と初めて会った時もそんな感じだったよな。なんだっけ?シューティングゲーム?


「そうそう、丁度ゲーセンでラスボスに最後の一発撃ち込んだ瞬間お前が現れた。だからお前にヒットって名前をつけたんだよ。」


そして晴れてお前はコレクターになったんだよな、春香。



「最初はなんだよこれと思ったけどさジュエルを探すことが、コレクターになることが刺激的でスリルを味わえるもんな。おかげでもうゲーセンじゃ物足りなくなったよ。」


私はそう言いながら手に入れたばかりのジュエルを空高く放り投げる。

ジュエルは周りのビルとほんのり輝く星に照らされ真っ暗な夜空でもよく分かる。

そんなジュエルを私は地面に落ちる寸前でキャッチする。


ほらまた危ないことをやって、せっかく見つけたジュエルをまた無くしたらどうするんだよ。


「これも立派なスリルだろ?」




私の日常は忙しい、どのくらい忙しいと言うと売れっ子芸能人くらいには忙しい。

昼間は学校に行き、それが終わると週5でカラオケ店で4時間バイトをし、その後にジュエル探しをするから日付が変わる前に帰れたらいいほうだ。

おかげで。


「春香ちゃんまた授業中寝てたよね〜。」


私の幼馴染の冬子が弁当を食べなから言った。


「いやだって眠かったし、寝れる時に寝なきゃ身体が持たないわ。」


「おかげで今の昼休みが一番元気だと。」


もうひとりの幼なじみ夏菜がそういうと学食の唐揚げを1つ別のお皿に移し私に差し出す。


「ん、なにこれ。」


「お前パン2つと牛乳だけの昭和な食事じゃ絶対午後持たないでしょ。神の恵みだありがたく貰え。」


「うわぁ〜夏菜ちゃん優しい〜。じゃあ私も〜。」


冬子も同調するように夏菜がくれたやつよりも一回り大きい唐揚げを隣においた。

お皿には大小茶色い唐揚げが鎮座している。そう、確かに私の大好物は唐揚げだ、お金と身体に余裕があるなら毎日食べたいくらいだ。

そのことを勿論夏菜と冬子は知ってる。良かれと思ってやったことなんだ。

でもだ、今私の左手に持っているパンはタルタルソースのかかったこってり唐揚げサンドなのだ。


「トリプル唐揚げ…。」


いい幼なじみを持って良かったなお前。


「ホントだよ。」



唐揚げ1つだけ見ても嫌なくらいに家庭環境の差が分かる。お弁当に入ってる大きな唐揚げの子は一流企業の社長の娘、学食の唐揚げの子は両親共働きの一般家庭、そしてコンビニで買ってきた198円の唐揚げサンドの私は父親がいない母子家庭。

お互いそんなことは知ってる昔から知ってる。だって私達は幼なじみだから。別に経済格差社会格差なんて子供だからかもあるからかも知れないけど私達全然気にない気にしてない。ただ一緒に集まって馬鹿な与太話したり遊びに行ったりするだけ、そんなことに家庭事情なんて邪魔なだけだ。

だから私は今この瞬間が好きだ、たとえどんなことが起きてこの時間が犠牲になるなら私はどんな

ことでやって阻止してやる。


「春香ちゃんどうしたの〜?」


お皿の上の唐揚げとにらめっこしている私に冬子が心配そうに尋ねてくる。


「もしかして唐揚げ嫌いになっちゃったの〜。」


「そんなわけないでしょ、三度の飯より唐揚げが好きな春香がまさかまさか?」


私は今目の前とサンドされた唐揚げよりもできれば冬子が美味しそうに食べている甘じょっぱい卵焼きが食べたいなんて幼なじみの前でとても言えない。

好きな物でも一度に沢山食べると飽きて嫌いになる。それが人間の性ってやつ。

ただでさえサンドで胃の中が唐揚げで染まってるのにこれ以上食べたら私は唐揚げが嫌いになる

自身がある。

でも今もウルウルした瞳で見つめてる冬子と何故かニヤニヤしてる夏菜を…。


!?


私はこの時気づいた。最初からこの状況は仕組まれていたんだ、夏菜によって。

私の今日のお昼が唐揚げサンドだとして自分も唐揚げ定食を頼んだ。

そして冬子のお弁当にはほぼ毎日唐揚げが入ってることも知っていた夏菜は私のことを心配するフリをして唐揚げを差し出す。冬子の性格から同調して彼女も唐揚げを渡すことも織り込みだったんだ。


やっと気づいたか、案外遅かったな。


「ああやっと気づいたな。」


お前の幼なじみってやつも案外酷いことをするんだな。


「ちげーよ。」


なに?


「夏菜は心配してるのは本心だ、でもあいつ素直じゃないからちょっと捻くれてるんだよ。だから素直にできないんだよ、私と一緒で。逆に冬子は素直すぎるけどな。」


ふーん、ポジティブでいいよなお前は。


「それどういう意味だよ?」


べつに、で、どうするんだよお前。


そんなの決まってる、聞くまでもない。


「もちろん当たり前のこと聞くなよ!」


私は夏菜がくれたほうの唐揚げを箸をに取りゆっくりと口に入れる。

その瞬間口の中から湧き上がるような刺激と辛さが身体中を電流のように駆け巡る。


「辛ぇぇぇ!!!」


そんな雄叫びに似た叫びをする私を見た夏菜は立ち上がり懇親のガッツポーズをした。

夏菜を見た時に視界を入ってきたお品書きにこう書いてあった。


今日の唐揚げ定食は月に一度のロシアン唐揚げ入り特別バージョン。



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