原田夏菜の場合その1
私はこの街が大好きだ、いつでも寒くない温暖な気候!どこに行っても賑やかな街なみ!
でも夏菜は暑くて汗かくの嫌だから最近は苦手って言ってたよね?
…遊ぶ場所に困らない充実した施設達!
動くと汗かくから、とくにこの季節は学校行く以外はインドアに徹するはずって宣言してたよね?私知ってるよ!
学校に行けば…みんな仲良しな友だちが沢山いる…!
その友達が最近用事があるかなんで遊んでくれないって愚痴ってたじゃん。
…だから私はこの街が好きだ…!
ホントに?私はねぇ…。
「あぁぁぁぁ!!うるさいうるさいうるさーい!!!!」
私の名前は原田夏菜、どこにでもいる中学2年生…のハズだった…。ついこの前までは。
中学2年といえば悩み多い多感な時期だ、勉強や進路、はたまた甘酸っぱい恋愛まで誰もが何かしら悩みを抱えている。
私もその1人、でもそれはみんなと少し違う。
それは…
ねぇねぇ夏菜、いい加減学校行かないと間に合わないよ?また遅刻して先生に怒られてもいいの?ねぇ?
それはこれ、この声が絶え間なく私の頭の中から聞こえてくることだ。
キッカケもクソもない、今から少し前、日差しに照らされて汗だくで帰宅しシャワーを浴びようとした瞬間突然この声が響いてきた。
最初はさ、気のせいだと思ったよ。いつまで経っても声は収まらない、気にしないように無心になろうとしても頭の中から聞こえてくるんだから無視しようがない。
私はおかしいと思いながらも頭の中にいる声に「黙って!」と叫んだ。
そしたらどうしたと思う?なんと声が私の声に反応したんだ、やっと気づいてくれたね。
いや、最初から気づいてたんですけど…、気づいていてあえて無視したんですけど。
これがこの声、ワタシとのファーストコンタクト。
早く制服に着替えないと本当に遅刻しちゃうよ?ほら時計見て。
時計の針は7時35分を指している、少しでも無駄な動きをすれば8時20分の朝礼までには間に合わないギリギリな時間だ。なのに私は未だにパジャマで窓から外の景色を眺めていた。
あー、今日も暑いなー、汗かきたくないなぁーと思いながら。
大好きなお友達と会えなくなるよ?いいのかなー。
「分かってる、分かってるから少し黙ってくれないかな?」
分かってるならいいよ、でもこうしてる間にも時間は刻々と過ぎていくんだよ。そうだ、どうせなら私が言ってあげようか、早く制服に着替えて学校に間に合うように行けってね。
「やめて。」
冷たくそういい放つ。
私がこの声を気のせいじゃない、私とは別の存在とではないと実感した出来事がファーストコンタクトのすぐ後に起こった。
それでもどうしても声の事を認めたくなかった私はその後も無視し続けて脱衣所に行き制服を脱ぎいざお風呂!ってとこまできた。
この時頭の中の声がこう私に静かにこう語りかける。
この格好のまま外に出て。
最初は「何バカなことを言ってるんだ」と思ったよ。んなことするわけないじゃんと。
でもだんだんにその一言が増殖するように頭の中に言葉が赤黒い文字となり何個も何十個も湧き出し覆い隠すみたいにこびりつく。
別の事を考えて取り消そうとしても思考がそれを拒み何を考えればいいか分からなくなり時間が経つに連れて全身が熱くなり汗だくの身体から更に汗が吹き出し呼吸が早くなる。
「あんた…、私に何をしたの…?」
何もしてないよ、ただ命令しただけ。
頭だけじゃない、身体全体が「出ろ…、汗だくの全裸で、外に出ろ」と訴えかけていく。
私はお風呂に入りたいのに身体が背を向け汗を滴り落としながら玄関に足を向かわせる。
嫌だ嫌だと抵抗すればするほど思考が「全裸で外に出ろ」という声の声が私のなかで大きくなっていく。だんだんと意識が薄れていき私自体が真っ白になるような感覚に陥り最後には「汗だくのままま全裸で外に出なきゃいけない」と、それしか考えられなくなってしまった。
出る…このまま…、外に…出る…、外に…出なきゃ…いけない…。
はい、もういいよ!
気づいたらドアノブに手をかけ外に出る一歩前の私が鏡の前に写っていた。
「本当にあの時は嫌だったんだから!」
私は強めに声に訴えかけた。
しょうがないよ、ちょっとぐらい強引な手を使わないと信じてもらえそうもなかったからね、夏菜には。
私とは対照的に声は少し楽しそうに答えを返した。
ほんとこいつってやつは…。
「おかげでかきたくない汗を一生分かいた気がするよ。」
全裸で外に出そうになったのは別にいいんだ。
「それよりも汗をかきたくないの!!!」
「夏葉!いい加減起きなさいよ!!」
ドア越しに下の階からお母さんの声が聞こえる。
お母さんはとあるデパートの食品売り場でパートをしているごく普通の主婦、ちなみにお父さんはとある企業で働いてるごく普通のサラリーマン。朝早く出勤し平日は夜に会えたら儲けもんなくらいに会社に貢献している。
「もう起きてるよー、着替えたらすぐ行くから朝ごはんいらないー。」
私はドアを開きお母さんに返事をすると大急ぎでパジャマを脱ぐ。
ほらお母さんに怒られちゃったじゃん。
「あんたが余計なことぺらぺら喋るから遅くなっちゃったじゃない!」
また人のせいにする、少し自分のせいだと認めたらいいのに。
「あんたは人じゃないでしょ。」
人じゃないとは失礼な、確かに私は夏菜とは違う存在かもしれないけど夏菜から産まれた存在で夏菜と同じ身体にいる。つまり私は夏菜と同じ人、だから君は私のことを「ワタシ」って名前にしたんでしょ。
白いブラウスのボタンをしめ赤いリボンを結び学校指定のカバンを手に持つ。教科書やらノートは宿題で使うの以外は学校に置いてあるので毎日が身軽で安心、なんせ頭の中で重い物を持ってかなきゃいけないから他は軽いに越したことはない。
「そうだねー、あんたはワタシ、私と違う存在だけど同じ身体の同居人。早く引っ越してほしいわよ。」
私は飽きられながら半分諦めながら呟く。
それは無理だよ、だって夏菜にはやってもらいたいことがあるから。ほら忘れてるよ机の上。
机の上には3つの宝石でできているような三角形の物体が置いてある。そのうち2つは反対側が見れるくらい透き通る透明な色をしているがもうひとつは鮮やかな虹色をしている。
私はやれやれとため息をつきながら虹色のほうを手に取るとカバンの中に放り込むように入れた。
もうちょっと大切に扱ってよ、大切なものなんだからさ。
「私は別に大切じゃないし。」
大切だよ、凄い大切。1つも無くなったらいけないんだ。
だって君はコレクターとしてこのジュエルを30個全て集めてもらわなきゃいけないんだからさ。