第54話 中央のモンスター
スレーム・ガングの5人は宿場町の門から外に出たところだ。宿場町の外壁付近には資材が積み上げてある箇所が散見できるが周辺は草原地帯だ。荷台を外して鞍を着けた馬次郎も一緒である。
「ギルドには寄って行かないんですか?」
ロッカは馬次郎を撫でている。
「まずはこの辺りにいるモンスターを討伐するわよ」
「この辺りならスライムかゴム兎はいるでしょう。
皆さん、あちらを見て下さい」
バンが指さした方角の遠方に見えるのは山脈だ。
「あれが火山のある山脈です」
「へ~、あそこに火山があるのか。
結構近いですね?」
「だね。僕ももっと遠くだと思っていたよ」
「なに言ってんの?
あそこまで行くのに5日以上、山登るんだからきっともっとかかるわよ」
「マジ?! それだけ大きい山ってことか」
「へえ~、そう思って見ると雄大だね」
トウマたちは火山のある雄大な山脈をしばらく眺めていた。
ロッカは街道を外れて草原に足を踏み入れると馬次郎を放した。馬次郎はしばらく駆け回った後、生い茂った草をモリモリと食べ始めて機嫌良さそうにしている。
「この街道を北へ行けばメルクベル、南へ行けばラギアサタの都市に着きますよ。
あと、ここから山脈の方角に1時間ほど歩けば森があります。
クエストではその森に入ることがあるかもしれませんね。
さあ、私たちもロッカの所に行きましょう」
皆がロッカの所に行くとロッカは次々に指をさした。
「多分、あの辺とあの辺とあの辺にいると思うわ」
「モンスターですか? 何で分かるの?」
「馬次郎が駆け回ったときに避けてたからね」
「それ凄くない?
馬次郎はモンスターがいる場所が分かるってことじゃん」
「とりあえず、あそこに行ってみようか?」
ロッカは馬次郎に飛び乗った。
「バンも馬次郎に乗る?」
「いえ、私は大丈夫です。あ、ちょっと待って下さい。これを皆さんに」
バンが皆に渡したのはポーションだ。パーティー管理費での道具関連の購入はバンに一任してある。
「一応、皆さんも回復手段があったほうが良いでしょう。私の治癒のロッドだけでは間に合わない時があるかもしれません。一瓶ずつですが持っていて下さい」
「これって一瓶5万しませんでしたっけ? こんな少ない量なのに」
「簡単に割れる心配はなさそうだな。
高価なものだから大切にしないと」
一同がロッカが指示した場所に行くとスライムを発見した。通常のスライムの2倍はある大きさだ。
「馬次郎やるじゃん!
あのスライム通常より大きくないですか?」
「トウマ、とりあえず避けることだけに集中して近づいてみて。
もし捕まっても溶かされる前に斬ればいいだけだから」
「そんな、今更捕まるわけないですよ。
多少大きいからってその分斬りやすくなっただけじゃないですか?」
セキトモとイズハも同意のようだ。
「トウマ、ちゃんと聞いてた?
倒すんじゃなくてスライムの攻撃を誘ってみてって言ってんの」
「はあ、分かりましたよ。やればいいんでしょ」
トウマがスライムに近づくとスライムはトウマに気づいたようだ。
まあ、普通に飛び掛かってくるだろうな?
1匹だし、避けるだけなら簡単だよ。
スライムはトウマに向けて飛び掛かってきたがトウマはそれを難なく避けた。
「ちょっと速いってくらいですかね?
でも避けるだけなら簡単なんですけど」
「ちゃんと見てなさいよ。また来るわ」
スライムはトウマの方ではなく斜め方向に飛んで着地したあと、向きを変えてトウマの方へ飛び掛かった。
”べちゃ”
スライムがトウマに張り付いた。予想外の動きに避けきれなかったトウマは慌てて張り付いたスライムを剣で斬り伏せた。
スライムは霧散していった・・・。
「今の何?! スライムがゴム兎みたいな動きしたんですけど」
バンはスライムが落とした魔石を回収しながら話した。
「今のが東大陸との違いの一つですね。
こっちのスライムは賢いといいますか、単純な動きではないのですよ。
勿論、こちらが先手で攻撃すれば東大陸と大差はないです。
この違いを知って欲しかったのです。
初見で今のスライムが複数いたらかわせますか?」
スライム1匹の攻撃をかわせなかったのだ。トウマは苦笑いするしかなかった。
セキトモとイズハは顔を見合わせて頷いた。
「つ、次。僕にもやらせてくれ!」
「自分もお願いします!」
それからトウマ、セキトモ、イズハは代わる代わるスライムを討伐して行った。勿論、先にスライムに攻撃させてからである。
◇◇
一同は昼食で一旦、宿場町に戻ったが午後からもスライム討伐を繰り返した。討伐したスライムは20匹を超えていた。
スライムは斜めに飛んだり、大きく飛び越えて後ろから攻撃して来たり、小刻みにぴょんぴょんと周回して急に飛びついて来たり様々な動きをみせていた。
「最初は戸惑ったけどスライムの動きにも慣れてきたね」
「俺はもうこっちのスライムの動きも見切りましたよ!」
「自分も大体は分かってきたっす」
「なかなかいないわね?」
「そうですね。一体くらい出てもよい頃かと思いますが」
「何がですか? ゴム兎?」
「見てのお楽しみなんだけど・・・、もう少し範囲広げたほうがいいかもね?」
「あちらの泉の方向へ向かってみましょうか?
行き過ぎない所までなら大丈夫でしょう」
一同は南西の泉近くまで行くことにした。
途中でゴム兎と遭遇。一回り大きいゴム兎だ。
「こいつも何か違うんですか?」
「大丈夫! そいつは多少素早くなった程度よ」
そう聞いたトウマはあっさりとゴム兎を斬り伏せた。
「ゴム兎が出たってことはこの辺にいる可能性あるわね?」
「少し探してみましょうか?」
「何を探すんですか?」
「スライムでもいいしゴム兎でもいいかな? 見たら分かるし」
(?)
一同は辺りでスライムを探した。ロッカが乗った馬次郎はスライムを探す気は無いようでのんびりとしている。馬次郎の周辺にはいないということだろう。
「いたっす! スライムっす」
イズハの元に皆が集まった。
「試してみないと分からないけど、トウマ行って!」
「また俺? いいですけど」
トウマがスライムに近づくと、トウマに気づいたスライムがうねうねと形状を変えゴム兎に変化した。
「うお?! ゴム兎に変わった!
スライムが擬態するところ初めて見ましたよ」
「まあ、それも見せたかったけどハズレね。倒していいわよ」
「今度は僕にやらせてよ」
セキトモがゴム兎を倒した。
またスライムを探す。
次はバンが見つけたようだ。
トウマが近づくとまたスライムがゴム兎に擬態するかのように見えた。が、何かに気づいたバンは声をかけた。
「?! トウマさん、盾を構えて下さい!」
トウマは慌てて腰に下げていた盾を取り外し構えた。
「やっと出たわね」
擬態したゴム兎の額には石のような角が生えていた。
「探してたのって、こいつですか?」
「そう! 各段に攻撃力が上がるわ。気をつけて」
”ゴン!”
トウマは飛び掛かって来たゴム兎の頭突きを盾で受けた。
確かに強烈だ、これはヤバい。
でも、動き自体は変わらないから何とかなりそうだ。
すると、ゴム兎は口から石礫を放った!
“ガガガッ!”
あぶねー!
盾持ってなかったらヤバかった。
”ズバン!”
ゴム兎の背後に回ったロッカが短剣で斬り伏せた。
ゴム兎が霧散して行く・・・。
「どう?」
「いや、いや、どうって言われても何ですか? 今のゴム兎。
角みたいなの生えてたし、まるで一角兎みたいじゃないですか?
それに石礫吐いてきましたよ」
「今のは複合体と言われているモンスターです。
中宿で倒した針蜂と同じ感じですね」
「あー、あれか。巣に潰されて動けなかったやつ」
「そう。
で、今のゴム兎は多分その辺に転がっている石と一緒に取り込んだ兎を混ぜて擬態したってところかな?
角生えたみたいだから一角兎か、いい呼び名かもね。
中央にはそういうやつがたまにいるのよ、全身に石をまとってるやつとか、木の枝が生えてるやつとかね」
「中央のモンスターに慣れるってそういうことか。
僕はてっきり動きが違うだけかと思ってたよ」
「自分もっす」
「実際見て貰ったほうが早いと思ってね。
さっきのやつは身体の中にも石を生成してたみたいだけど珍しくはないわ。
石を身にまとってるやつはさっきのように石礫もあると思ってないと痛い目に合うわよ」
「厄介だな・・・」
口には出さなかったがトウマ、セキトモ、イズハの三人は思った。
痛い目に合う前に教えてくれてもいいんだけどな~と。




