第52話 壁に囲まれた宿場町
討伐者パーティー「スレーム・ガング」。メンバーはトウマ(名ばかりリーダー)、ロッカ、バン、セキトモ、イズハの5名である。彼らは東大陸から中央大陸に架かる大橋を渡っているところだ。馬車の荷台を引いているのは馬次郎という名の馬である。
彼らは大橋の一番目の橋を渡り終えて直径5kmほどの小さな中継の島に着いた。この島には橋を補強する資材が大量に置かれているようだ。橋の補強工事に来ている業者が泊る宿舎の隣には討伐者が休める施設オドブレイクまである。宿代を払えば誰でも宿舎のほうに泊まれるようだが屋根があるだけの雑魚寝なのでオドブレイクで休むのと大差ない。一同は迷わずオドブレイクで一泊することにした。
ま、普通そうだよね?
雨が降ってる状況なら考える余地はあるけど。
この島で一泊するのは島にいるモンスターを討伐して行く必要があるからだ。それは橋を渡る討伐者の礼儀のようなもの。小さな島なので危険なモンスターが現れる心配は少ないだろう。当然ながらこの島にクエストはない。万一、危険なモンスターが出現していたら工事中断。討伐者が派遣されて討伐完了まで橋が封鎖されてしまい大ごとになる。橋を渡る討伐者の礼儀はそれを未然に防ぐ役目を担っているのだ。
大量の食料を持っているロッカは呟いた。
「半日かからない橋を渡るのに一泊するって何なのよ。
来るときはここ素通りしたのに~」
「来るときは護衛の任務中でしたからね。今回、私たちは依頼を受けて橋を渡っている訳ではないので礼儀は果たさないといけないですよ」
◇◇
テントの設置を終えた一同は昼食を取っている。
「この後、この島でモンスター討伐するんですよね?
どんなモンスターがいるか楽しみだな~」
「スライムしかいないんじゃない?」
「今のところ小動物さえ見当たりませんね。
いるとしたら虫系の小型モンスターでしょうか?」
「手応えありそうなモンスターはいないのか~」
「楽でいいじゃないっすか?」
昼食後、皆で島を周回してみたものの遭遇したのはスライム12匹、牙蟻5体、棘毛虫7体、羽刃トンボ3体の合計27体だった。わざわざ見つけ出して半日かけて討伐した割には少ない数だろう。強いて言えば羽刃トンボの飛び回る動きに慣れておらず、斬り伏せるのに少し時間を要したといったところだ。練習という名目でトウマ、セキトモ、イズハの3人が1体ずつ倒した。セキトモが一番手こずっていたようだ。
「飛び回るやつをグレイブで斬るのは難しい。苦手かも」
「羽刃蝉のときみたいに大盾でぶつけて怯んだときに斬ればよかったんじゃない?」
「そうか! 僕がトウマたちの真似をして斬る必要はないよな!
扱っている武器だって違うし僕なりのやり方でやれば」
「そういうことよ」
翌日---。
一同は大橋の中継の島から12kmも続いた二番目の橋を渡り終えて中央大陸に到着した。
「ついに着いたー! 中央大陸だー!」
ロッカは振り返って橋の出入り口に立っている衛兵を見た。
「さあ、もう簡単にはあっち側に戻れないわよ」
「「「?」」」
話を聞くと、他の大陸から中央大陸には無条件で入れるようなのだが中央大陸から出る場合、500万エーペルを預けないと出られなくなっているらしい。しかも半年以内に中央に戻らなければ預けたお金は没収される。それはモンスターが少ない大陸への大量移民を防ぐための処置だという。つまり他の大陸に移民するには中央大陸で最低500万エーペルを稼ぐ必要があるということだ。応援や護衛で向かう討伐者は特例として費用を預ける必要はない。但し、中央に戻ってこなかった場合はギルドからの罰則があるようだ。討伐者を辞めても探し出されるとのこと。やんごとなき事情があれば考慮はされるようだが移民目的で渡ろうとする抜け道とは言えないだろう。橋を渡る業者も戻って来るのが大前提で特別な許可が下りた者たちだけとのことだ。海を船で渡る場合も同様。中央大陸から出る船には厳重な調査が入るらしい。
「そんな話、聞いたことなかったよ。そこまでしなくてもいいだろうに」
「ま、討伐者としての実力があれば稼げる額よ」
「そんなもんっすかね?」
「すぐに戻る気ないんで全然大丈夫!」
セキトモは困惑顔だがトウマとイズハは特に気にしていない。二人はそれより今いる場所が小さな町のようになっていることに気が向いていた。ここは港と大橋をぐるりと囲んである高い外壁の内側にある宿場町。遠くを見渡せば壁と空といった感じだ。外壁の外へ出るには門を通る必要がある。そしてこの宿場町は東大陸との物資の流通をする者が訪れる場所なのでそれなりに栄えている印象なのだ。門に繋がる運搬を主とする中央通りは道幅が広く通り沿いには多くの店や宿が並んでいる。ギルドもあるようだ。
一同は馬小屋が併設されている宿を取った。
「しばらくここを拠点に活動しますのでそのつもりでいて下さい。
まずは中央のモンスターに慣れて頂こうかと思います」
「そんなに違うんですか?」
「この辺はさほど変わらないと思いますが徐々に慣れて貰うには丁度よいでしょう」
「そうね、いきなりだと面食らうかもしれないわね?」
「ほどほどでよいと思いますが装備も新調してよい頃合いかもしれませんよ」
「おー、東大陸でお目にかからなかった物も扱ってそうだよね?」
「そうですね。この宿場町なら東大陸に流れていない物もあるかと思います」
「ここで俺も装備一式揃えようかな?」
「自分も買い替えたほうがいいっすかね? 少し不安になってきたっす」
「買うなら強度の高い物にしなよ。すぐに壊れたら意味ないし」
「「はーい」」
「んじゃ、明日はオフにしてトウマたちは装備新調。
私たちはスイーツ店探しでもしよう!」
バンは何度も頷いた。
近くの店で軽く夕食を済ます間にロッカとバンから中央大陸についての話を聞いた。初中央大陸組の3人へ向けた説明ってところだ。二人の話では目的地はこの宿場町から北の方角にある『メルクベル』という都市らしい。街道を速い馬車で行くなら二日で着くそうなので遠くはないようだ。中央大陸には今まで立ち寄った街より断然人口の多い栄えた都市と呼ばれる場所が3カ所あり、三大都市と呼ばれているとか。海岸沿いに小さな町もあるようだが漁業中心なので特に知らなくてもよいとのこと。あとは林業中心の小さな町もあるとか。そんな小さな町でも周辺モンスター対策でギルドはあるそうだ。大陸全土でみれば集落や村などもあるにはあるが人口の大半は各都市周辺に集まっているらしい。
中央大陸の中心には火山がある。その火山を中心として都市の方角を言うらしい。東の『メルクベル』、北西の『ヨゴオートノ』、南西の『ラギアサタ』。この三大都市は線で繋ぐと正三角形になるような位置関係だとか。
都市の内部では大規模な農業はしていないそうだ。単純に土地が狭いからだろう。小さな個人農園くらいはできるかも知れないが基本農業は周囲を囲む外壁の外、討伐者を護衛に雇った大規模な組織で行っているとのこと。資源の採掘や林業、漁業、資材の運搬にも討伐者が護衛で雇われているとのことなのでそこそこ実力をつけた討伐者なら仕事に困ることはないらしい。各都市を得意分野で大きく分けると、商業都市のメルクベル、工業都市のヨゴオートノ、農業都市のラギアサタだとか。それぞれの得意分野が違う為、都市間の交易は盛んに行われているようだ。
「服や装飾、身の回りの品を買うなら私たちが行くメルクベルが一番よ!」
「装備とかもメルクベルのほうがいいんですかね?」
「それは討伐者向けだから微妙だけど、ここら辺で買うよりいい品があるわよ」
「え~、どうしようかな?」
「それを聞いたらここで装備を揃えていいものか僕も迷うな」
「自分もっす」
「装備の痛みが酷くないようでしたら下取りに出せますので買い替えはし易いと思いますよ」
「それならここで買っても下取りに出せば大きな損失にはならないかもな?
装備不十分でモンスターにやられるよりはマシか。
とりあえず品を見てから判断するよ」
トウマ、セキトモ、イズハの3人はあれこれ揃えたい装備の話で盛り上がってこの日を終えた。




