第36話 試験と条件
仲間に入れて欲しいと言ってきた元観測者のイズハ。彼に紹介だけはすると約束したトウマは博士の邸宅でロッカとバンの帰りを待っていた。
外で呼んでもらえればすぐに来るって言ってたけど、イズハの特殊能力じゃないだろうし絶対近くに潜んでるよな?
裏庭で何やら練習していたセキトモが戻って来た。
「トウマ、どうしたの? 落ち着きないようだけど」
「いや~、ちょっと街歩いてたらですね・・・」
トウマはセキトモに経緯を話した。
「元観測者ね~。それは僕にも判断できないな。性格は問題ないんだろ?
勧誘の権限を持っているあの二人次第じゃないかな?
僕たちのように契約できないとしても同行・・・いや、武器見られるからダメか」
「そうですよね~。
でも熊戦から見られてたようですし、武器の存在は既に知ってると思います」
「僕のグレイブは他の討伐者にも知られたし、トウマの炎熱剣は真魔玉の力だから該当しないよな? 熊戦で使ってまだ知られていない武器といったら水のロッドか」
「マズいですかね?」
「とりあえず、二人が戻っ―――」
「ただいま~」
セキトモの発言を遮るようにロッカとバンが戻って来た。何やら困惑している二人の様子にロッカは気づいたようだ。
「何かあったの?」
トウマはロッカとバンに事情を話した。
「なるほどね~。
多分、コソコソついて来てたあいつだと思うけど、どうする? バン」
「観測者であればむやみに口外することはないと思っていたのですが・・・。
水のロッドはもう売り始めていい頃合いなので秘密にしなければならないというほどではありません。グレイブはもう知られましたし、他の新しい武器の評価中でないのが幸いですね。
ですがそのイズハという人には一度会ったほうがよいでしょう」
「これからも付きまとわれると厄介だし、仕方ないわね。会ってみようか。
トウマ、そいつとはすぐ会えるの?」
「多分、まだ邸宅の周辺にいるんじゃないかな~?
ひょっとしたら出待ちしてる可能性も」
「は?」
◇◇
4人は壁に囲まれた邸宅の門を出た。
トウマは試しにイズハを呼んでみた。
「イズハ、近くにいるのか?」
シーーン。
「呼んだっすか?」
いきなりトウマの後ろに現れたイズハにトウマとセキトモは驚いた。ロッカとバンは気づいていたようだ。
「あの木から飛び降りて素早くここに来るなんてあんた身軽なのね?」
「僅かな音しか立てずに凄いです。耳もよいのですね」
「はは、お二人ともお気づきでしたか、さすがっす。
先輩達にいろいろ教えて貰ったっすけど自分はまだまだっす」
特にイズハの耳はよいという訳ではない。トウマの口元を見て呼ばれた事を察知したようだ。読唇術に近いものだろう。
「イズハ、びっくりするから俺の背後に回るの止めてくれない?」
「申し訳ないっす。自分の性分でして。以後、気をつけるっす。
トウマさん、ご紹介有難うございます。
ロッカさん、バンさん、セキトモさん。
お初にお目にかかります。自分、『イズハ』と申します」
皆の名前まで調べ上げてるのか。
「話は聞いたわ。フードもマスクもしてないのね?」
「はい。観測者は辞めましたので着ける必要はないっす」
「仲間に入れて欲しいって話だけど、あんた討伐経験は?」
「一年ちょっと前の話ですが、難易度Dまでは一人で行けたっす。
その後、難易度Cのモンスターに挑んでも倒せない日々が続いて・・・。
正直、逃げてばかりだったっす。
その時に観測者の適正がありそうだと誘われて今の状況に至るっす」
バンは悩ましい顔をしている。
「難易度Dまでですか・・・。でも、お一人でですものね」
そういえば契約条件で難易度C以上のモンスターにとどめをさした経験ってのがあったな。生き残るってほうは問題なさそうだけど。
悩むバンを見てロッカは話を進めた。
「あんた武器は?」
「自分の武器はこの軽い短剣1本で抗魔玉は1つっす」
「バン、こいつ試してみていい?」
バンは頷いた。
ここでは何だからと一同はイズハを連れて博士の邸宅の裏庭へと移った。
◇◇
討伐帰りそのままの恰好のロッカはイズハに模擬戦を要求した。
ロッカ、試験でもする気?
勝てば合格とか? 無理でしょ。
あ、落とすための口実作りか?
「あんたの今の力が見たいわ。
全力でかかって来てくれて構わないから、いつでもいいわよ」
「なるほど、実力を測る試験ってわけですね。
では、いくっすよ!」
イズハは素早くロッカの周りをぐるぐると駆け回り出した。イズハはかなり足が速いようだがロッカの背後は取れない。円の中心にいるロッカは向きを変えるだけなので当然といえば当然だ。
イズハは少しずつ走る円を小さくしてロッカとの距離を詰めていった。ロッカの向きを変える速さも次第に速くなっていく。
「攻撃してこないと埒が明かないわよ」
「そうっすね!」
イズハは覚悟を決めたのかロッカに飛び掛かった。ロッカはそれを難なくかわした。次はジグザクな素早い動きでロッカに向かって飛び掛かった。イズハの上からの攻撃に対してロッカが短剣で受けると、イズハの攻撃は軽く弾かれた。
「くっ! ダメか。ならば」
イズハは屈んで妙な動きをみせると次の瞬間、左手で掴んだ小石をロッカに投げつけた! だが、ロッカは投げつけられた小石も難なくかわした。
「当たるわけないでしょ」
と言ったロッカがイズハのほうを見るとイズハはロッカの視界から消えていた。
気配を消したイズハはすでにロッカの背後に回っていた。
だがロッカは反応する。ロッカは振り向き様に短剣を振り抜いた! それをイズハは屈んで紙一重でかわす。そして苦し紛れに下側から短剣を振り上げた!
”ガヂッ!!”
ロッカはもう片方に持った短剣でそれを受け止めた。
「これでもダメっすか」
イズハは諦めたようだ。
「もう終わり?」
「自分の力が及ばないことがよく分かったっす」
「何言ってんの? ここまでやれるなら十分よ。
セキトモに守り固められたら太刀打ちできないけど、トウマにだったら勝てるかもしれないわ」
確かにあの速さで首元狙われたら殺されそうだ。
イズハって暗殺者になれそ。
「ふう~、私はOKよ。
性格もまあ問題あるってわけじゃなさそうだし、あとはバンに委ねるわ」
「えっ? ホントっすか?」
イズハはロッカに一礼してうるうるとした目でバンを見た。
「イズハさん。私もロッカが認めるならと言いたいところなのですが一つ条件を満たして貰いたいことがあります」
「ど、どういった条件っす、でしょうか?」
「難易度Cのクエストに挑んでモンスターにとどめをさして下さい。
それが条件です」
「え? それは自分には難しいかと」
「もちろん私たちも協力します。皆さんもよいですよね?」
皆が頷いた。
「ありがとうございます!
宜しくお願いします! 自分、頑張るっす!」
皆にペコペコ頭を下げるイズハだった。
「とりあえずは良かったな、イズハ」
「トウマさん、ありがとうございます!
でも、自分の力で難易度Cのモンスターにとどめをさせるかどうか・・・」
ロッカはイズハに話しかけた。
「イズハ、一つだけ分かったことがあるわ。
あんた振る力は弱いようだけど、最後の下側からの引き上げで斬ってきた攻撃。
あれは鍛錬している討伐者並みの力があったわ。
私が受け止めたとき弾かれなかったでしょ?
攻撃は腕を曲げることができる角度でやってみたら?」
「腕を曲げる?」
イズハは腕を曲げられる角度の横、斜め下、下と短剣を振ってみた。何か手応えを感じたようだ。
ロッカは話を続けた。
「ただ、それだと振りが大きくなる分相手にかわされやすくなるのは確かよ。
相手に察知されないときにやることね。
まあ、それは元観測者だし問題ないか」
「なるほど! 分かったっす」
バンはこっそりロッカに話した。
「ロッカ、さっき少し本気になりかけてたでしょ?」
「少しだけね。でもその前に終わっちゃったし」
「さっきの模擬戦を見て私もイズハさんに合いそうな武器に思い当たりましたよ。
使えるとしたらロッカだと思っていましたが。
条件満たしてくれるとよいですね?」
「イズハ次第よ」
明日、スレーム・ガング+イズハで討伐難易度Cに挑むことが決定した。イズハには一旦、自分の宿に帰ってもらった。明日、ギルドで待ち合わせだ。
ちなみにイズハはロッカに言われた。
「黒ずくめの軽装備はまあ仕方ないわ。
でも服を全部黒にするのはもう止めなさいよ」
と。




