第34話 勝負のゆくえ
スレーム・ガングの4人は博士の邸宅のラウンジにて口論中だ。
「ロッカ! 何であんな討伐勝負受けたのですか?」
「バンだって何も口出さなかったじゃない?」
「それは・・・」
「勝てばいいのよ」
トウマが割り込んだ。
「というか、何で俺が勝負を受ける羽目になってるんですかー?」
「パーティー戦にするとあっちは熟練者三人だからこっちの分が悪いからよ。
ギルも分かってたようだし、相手がタズならトウマでもなんとか勝負になるわ」
ユニオン・ギルズとの情報をかけた討伐勝負を受けてたったスレーム・ガング。という形だが内容は一番若い者同士で1対1の討伐勝負。先にモンスターを倒したほうが勝ちってことらしい。勝負は日を改めて明日に決定した。
セキトモはサイモンと少し仲良くなっていたようだ。同じ槍使いとして通じるものがあったのだろう。
「そういう話になってたのか。僕はサイモンと話してて聞いてなかったから。
トウマ負けるなよ!」
「俺、完全にとばっちりですよ~」
まぁ、タズは2コも年下って聞いたし負けるつもりはないけど。
「タズはああ見えてけっこうやるわよ」
「マジ?!」
◇◇
翌日---。
スレーム・ガングとユニオン・ギルズはギルドに集まっていた。ギルド内に難易度Cを達成しているパーティーが2組いるので少しざわついている。
「ちょうどいいクエストを見つけたぜ。
これなら分かりやすくていいだろ?」
勝負に選ばれたクエストは、『嘴鶏討伐』。
相手はニワトリのモンスターだ。
場所は街の近くにある養鶏場。卵や食肉を目的として飼育されている場所だがそこに鶏の大型モンスターが2体いるらしい。難易度はDだ。名に嘴とつくので嘴が特化しているようだ。
スレーム・ガングとユニオン・ギルズは養鶏場に場所を移した。
◇◇
「大型2体で難易度Dなのはそういう事だったのね」
モンスター除けの囲いの中に大型の嘴鶏が2体。柵は50m×25m。
鶏同士が敵対しているもののそれぞれ自分の縄張りを持ち、お互いの縄張りに侵入しなければ争うことはない拮抗した状況のようだ。柵内に人が入ると襲ってくるようだが縄張りに入られたほうの鶏しか襲ってこないらしい。
今は柵外から出ないよう適度に餌を投げ込んでいるという話だ。
「あいつらバカなんじゃない?
普通のニワトリでも柵飛び越えれば出られそうなのに」
「ここに居れば何もしなくても餌を貰えるんだ。
僕も出ないかもしれないな」
「そもそも何で大型が2体いるのよ?」
「状況から察するに・・・」
バンの考察の時間だ。
モンスター避けになっている柵に外からスライムが入ってくるのは考えづらい。柵内でスライムが2匹同時に発生したのだろう。その時点で倒していればよかったのだが放置されていたか気づかれなかった。そのうち2匹のスライムが競争するように周りの鶏を取り込んで質量を増やしていった。最終的に取り込む鶏がいなくなって擬態したのではという予想だ。
元は鶏が30羽ほどいたそうなのでおそらく正解だろう。
ギルはロッカに言った。
「俺がクエスト選んだからな。
どっちのニワトリを倒すかはお前らが決めていいぜ」
「見た感じどっちも一緒でしょ!」
「だな。わはは」
現在の立ち位置でトウマが右、タズが左の鶏を倒すことになった。
「頑張れ、トウマ!」
「トウマ、頼むわよ! バンが持ってる情報がかかってるんだから」
ロッカのやつ、あくまでもバンしか知らないってフリすんのね。
一人で倒す前提で話しが進んだけど大丈夫だよな? あのニワトリ。
バンはトウマの手を握った。
「トウマさん、どうか私を助けて下さい! お願いします!」
「はい、頑張ってみます!」
バンさん強いんだからどうとでもできるでしょ。
実は楽しんでない?
ユニオン・ギルズの連中はタズに声をかけていた。
「タズしっかりやれよ!」
「あんなコに負けんじゃないわよ!」
「タズなら大丈夫」
「はい! 頑張ります!」
タズはロッカと同じで短剣を2本持っている。ロッカを師匠と呼ぶのはそういうことなのだろう。
ロッカみたいな化け物ではないと思うけど戦い方は似ているんだろうな。
年下だし、討伐経験はそう多くはないよね?
タズはトウマを見て不敵に笑った。勝つ気満々のようだ。
両陣営が左右に分かれて待機。鶏が大体同じ距離に来たところを見計らってギルは合図した。討伐開始だ!
トウマとタズは同時に低い柵を飛び越えて枠の中に入った。鶏の縄張りが2等分されているので一人が動ける範囲は25m×25mだ。
2体の鶏がそれぞれ入って来たほうに襲い掛かった。
トウマは剣を抜いたがタズはまだ抜かない。
さあ、集中だ。
トウマに襲い掛かった鶏は頭を地面に叩きつけるかの如く嘴で攻撃。トウマは後ろに飛び退き、その嘴の攻撃をかわした。
”ずがん!”
鶏の嘴の攻撃で地面に穴が空いた。
マジ?! 今の食らったらヤバくない?
トウマはタズのほうをチラリと見た。
タズは鶏から距離を置いて逃げているようだ。
ロッカが声をかける。
「トウマ急げ!」
「そんなこと言われてもっ」
トウマは反時計周りで鶏の連続した嘴攻撃をかわし続けた。
先に動いたのはタズだった。
嘴の攻撃を誘ったタズは攻撃をかわして嘴を地面にめり込ませると嘴が埋まっている隙に鶏から距離を置いた。
タズは目を閉じ、一息して2本の短剣を抜く。タズの短剣の薄白い輝きが炎のように揺らめいた。目を開けたタズは勢いよく鶏に向けて走り込み、ロッカさながら鶏の身体を斬り裂いていく。鶏は悲鳴をあげた。
様子のおかしかったタズを見ていたセキトモは驚いていた。
「力の解放?! あの子もできるの?」
セキトモの声にトウマは一瞬タズのほうを見た。次の瞬間、トウマの左腕に鶏の嘴がかすり血しぶきが飛ぶ!
痛っ、くそっ。油断した!
ロッカが叫ぶ。
「トウマ! 自分の事だけに集中しなさいよ!」
力の解放って聞こえたんですよ。そりゃ気になるじゃん!
・・・いや、今はこいつに集中しなくちゃ。
タズは鶏の攻撃をかわしながら追いかける。
トウマは鶏の攻撃をかわしながら逃げる。
少しずつ二人の距離が縮まっていた。
両陣営も応援しながら徐々に近づいていき熱が入る。
「さっさとやっちまえタズ!」
「トウマ逃げてばかりいないで攻撃しなさいよ!
まだまだ勝負のゆくえは分からないわよ!」
トウマは嘴が地面にめり込んだ鶏の首を狙った。鶏の首に少し傷をつけたものの両断とはいかなかった。不器用に羽毛のような形に作られた堅い表皮が何枚も重なっていて鶏の首を守っているのだ。
こいつ、思ったより刃が通らないぞ。
タズがとどめをさせないのはそういう事なのか? ならば。
トウマは再び攻撃のタイミングを見計らった。
一方のタズは鶏を追いかけて斬撃を加えているものの鶏の動きを鈍くすることまではできていない。すると、タズのブーストが解けた。一度集中力を切らしたタズがこの戦いの中で再び力を解放することはない。
「あっ、とけちゃった」
ロッカはタズを見て一言。
「タズ、まだまだだね」
先に鶏を倒したのはトウマだった。
トウマは狙いを首から2本の脚に変えて嘴が地面にめり込んだ隙に鶏の両脚を切断した。そして横に倒れてバタバタとしている鶏の頭に飛びかかり、全体重を乗せて剣を突き刺した。鶏はピクピクしながら動かなくなり、やがて霧散した・・・。
「勝った!」
トウマは身体の力を抜き安堵した。トウマが剣を抜いて8分、タズが力を解放して5分だった。
トウマが振り返えると、地面空いた穴につまずくタズの姿が目に入った。今にも転んだタズに鶏が襲いかかりそうだ。トウマはタズに向かって走り出していた。
「危ない!」
トウマはタズに当たらないように下側から上に剣を振り上げて鶏の首を切断した! 頭を失った鶏が力なく前のめりに倒れたあと霧散していく・・・。
トウマの剣の薄白い輝きが炎のように揺らめいていた。
タズのすぐ横には剣を構えたギル。
トウマのすぐ後ろには短剣を構えたロッカがいた。
「二人ともいつの間に?!」
「やるじゃねーか、トウマ。こりゃ、完全に俺たちの負けだな」
「当然よ!」
何故かロッカが自慢げだ。
バンは走ってトウマの腕の傷を治療に来た。遅れてセキトモもやって来た。
死ぬかと思ったタズは思い出したかのように泣き出した。
「ほら、タズ。トウマに礼を言え」
「うえ~ん。トウマさ~ん。ありがとうございましたー!」




