第32話 日々成長
温泉施設に来ているトウマとセキトモ、二人は脱衣所で服を脱いでいる最中だ。
セキトモさん筋肉モリモリだな~、腕の筋肉が凄い。腹は出てるけど。
身体が大きいから小さく見えるけどあそこは標準って感じだな。うん。
セキトモと見比べているトウマも標準である。
他の客がチラチラとトウマの胸に残っている熊の爪痕を見ていく。
「この傷見られてますよね?」
「そこそこ目立つ傷だもんな」
「早く消えないかな~、消えますよね?」
「さあ? 僕には分からないよ」
タオル一枚持っていざ温泉へ。
「「おお~!」」
石造りで囲まれた堀内から立つ湯けむり。周りは目隠しの木板で囲まれ、四方には柱。屋根はついているものの壁はない。涼し気な潮風も吹き込む露天風呂だった。
残念ながら男女別で混浴ではない。隣の女風呂ではロッカとバンが温泉に浸かっていることだろう。(妄想)
「いいね~。これがこの街の温泉か~」
「いやっほーい」
トウマは温泉に飛び込んだ。
「ちょ、トウマ、体洗った? マナー違反だよ」
◇◇
二人はしばらく温泉に浸かって温泉施設を出た。
「トウマ、泳ぐのはどうかと思うよ。最後のぼせてただろ?」
「いや~、あんな広かったら泳いでみたくなりますって。ははは」
「まあ、気持ちは分かるけど。はあ~、癒された~。また行こ、今度は一人で」
「えー、俺も誘って下さいよ~」
「トウマ、はしゃぐし。他の客の視線が痛い」
「えー」
二人が博士の邸宅に戻ると、ホラックが出迎えた。
「お帰りなさいませ。バン様とロッカ様も先ほど戻られたばかりですよ。
お食事の御用意が出来ております」
食堂に通されると、長いテーブル上に豪華な食事が沢山用意されていた。
「うお~、凄い!」
「こんなに?」
「今日は特別でございますよ。私も腕を振るいました」
ロッカとバンも来たようだ。二人は普段とは違いラフな格好だ。石鹸の香が漂ってくる。バンはお団子にしていた長い髪を下ろしていて色気さえ感じさせている。
「わ~、豪華ね」
「どれも美味しそうです」
「げっ、刺身あるじゃない。私、生ものちょっと苦手なんだよね~」
「美味しいのに」
「この刺身は今朝、私が海で釣って来た魚です。
先ほどまで生きておりましたので新鮮ですよ。お口に合えば宜しいですが」
「ホラック釣りするのね。海のモンスター出たら危なくない?」
「大丈夫でございます。
長兄のイラックには及びませんが私もそこそこやりますよ」
どうやらロッカはイラックというホラックの一番上の兄に鍛えられたらしい。執事は主人を守れるくらい強くあれという教えでホラックは日々鍛錬を欠かしていないようだ。もしかしたらホラックは並みの討伐者より強いかもしれない。
皆で豪華な食事を堪能した。
「明日はさっそくギルドに行くわよ。どんなクエストがあるか楽しみね?」
「僕でも倒せるようなモンスターにしてくれよ」
「俺は強いやつがいいです!」
「まあ、どれにするかはバンに任せるわ。バンが選ぶのが一番最適な気がするし」
同意。ロッカは危ないクエストしか選ばない気がする。
◇◇
翌朝---。
ギルドに出向いたトウマ、ロッカ、バン、セキトモの4人はまずやる事があった。パーティー名の変更だ。『可愛い女子達とその玩具』から『スレーム・ガング』にパーティー名を変更。彼らがアーマグラスの街に着くまでに色々考えて決定した名だ。
せっかくだから名が売れた『玩具』は残そうよ。と言うトウマ以外の意見の合致。あとは何故かスライムをもじった感じの名を前に足してある。ロッカがつけた。
トウマとセキトモは気づいていないのだがロッカの『一番弱いトウマ』という小バカにした意味が入っている。バンは気づいていたが面白いと思い、そのまま放置したようだ。トウマは何かカッコよくなったと喜んでいた。
ギルドのカウンターにいるマスターはお歳を召したおばあちゃんだ。老眼鏡をかけている。
バンが選んだクエストは『巨大蟻討伐』だった。
バンは「これなら1体ですし午前中には帰って来れますね」程度の肩慣らしのつもりのようだが難易度はCだ。目的地は1時間ほど歩いた目印に1本の大きな木がある平地。この辺りに何か建造したいようだが訪れた人を襲う邪魔なモンスターらしい。
私利私欲、利便性のために生態系を壊す。それが人間という生き物だ。
だが、相手は生態系をさらに壊しかねないモンスターでもある。人間とモンスターの領土をめぐる争い。討伐者にはこういう依頼もあるのだ。
◇◇
スレーム・ガングの4人は徒歩で街道を進み目的地に一番近い所まで向かった。
今は街道から外れて目印の大きな木を目指しているところだ。
途中、何匹かのスライムと遭遇したがそれは問題なく倒してきた。
縄張りに侵入してしまったのか時折、ゴム兎が襲って来る。
”ゴン!”
”ザシュ!”
セキトモは大盾でゴム兎の体当たりを防いでショートグレイブで斬り倒した。
「やっとゴム兎1体倒せたよ。
皆、倒すの早いから僕には回ってこないし」
「別にいいじゃない。本命は蟻なのよ」
「注意事項に書かれていた周辺にいるゴム兎は報酬対象ではないですからね」
「え、そうなの? 俺、張り切って倒しちゃいましたよ」
「さーて、本命のご登場だわ」
遠目に見える大きな木の近くに明らかに大きな蟻がいた。討伐対象の巨大蟻だ。
「でかいな。僕より断然大きくないか?」
「顎の大きなハサミが一番危険です。
あの大きさで挟まれたら終わりと思って下さい」
「あの蟻、もうこっち警戒してない? 眼が黄色に見えるんだけど」
「縄張りを持つタイプで間違いないですね。
気づかれていても近づかなければ襲っては来ないでしょう」
「それじゃあ、まずはあんた達二人でやってみなさいよ。
できるなら倒し切っていいわ」
「は?! 俺とセキトモさんの二人でですか?」
「いやいや、無茶だろ」
ロッカは淡々と話した。
「多分、甲殻は堅いからあまり攻撃は通らないと思ったほうがいいわ。
まずは柔らかい足の関節を狙って斬り落とすでしょ。
動きが鈍くなったら頭部の関節を狙って頭を斬り落とすでしょ。
とどめで胴体って感じかな?」
「でしょって。簡単に言ってくれるなぁ~」
「セキトモさん、俺たちだって日々成長してますよ。
やってやりましょう!」
「・・・そうだな。やってみるか!」
「腕が鳴りますね!」
まずは関節ね。今までは闇雲に斬ってただけだからな。
狭い範囲を狙って斬れるかどうかが試されるわけだ。
トウマとセキトモは巨大な蟻に向かって行った。
蟻は頭に付いた大きな触角をせわしく動かしている。
蟻の眼の色が急に赤に変わった。しかし、蟻は射程内に入るのを待つかのように大きい6本の足をのしのしと動かし正面を向いただけだった。
セキトモの足が蟻の縄張りに踏み込んだ途端、蟻は左右交互に動かす三脚同時歩行に切り替えてもの凄い速さで二人に襲い掛かって来た。
セキトモは大盾を構え受けて立つつもりだ。トウマは何を思ったのか剣を抜いて正面から蟻に突っ込んで行った。
「トウマ?!」
この蟻との戦いからトウマの剣術の幅が広がることになる。
ある意味トウマの剣術は素直であった。
縦、横、斜め、本当に真っすぐに斬る。繰り返し鍛錬した証でもある。
だが、それゆえに融通が利かなかったのだ。
実戦では不利な体勢からでも剣を振るう必要がある。
ほとんどが不利な体勢だと言えるだろう。
トウマは蟻の顎のハサミの攻撃をスライディングでかわして蟻の下に潜り込んだ。勢いそのまま蟻の胸部へ滑ると、蟻の右後ろ足の付け根の関節に角度を合わせ、斬り込む瞬間に力を剣に込めた。
ここだ!
蟻の右後ろ足は見事に切断された!
急にバランスを崩した蟻はひっくり返ってセキトモに突っ込んだ。なんとか受け止めたセキトモはひっくり返っている蟻の頭部関節をショートグレイブで斬る!
蟻の頭が胴体から離れたが、トウマは気にも留めずに飛び込んでひっくり返ったままの蟻の胸部に剣を突き刺した!
あっという間の決着。
巨大蟻は霧散していった・・・。『巨大蟻討伐』成功だ!
トウマはロッカの戦い方を散々見てきた。それに部位切断という目標を定めたことにより、それを実現させる為の思考が働いた結果だ。
トウマの戦い方が変化していく兆しであった。
「やりましたよー!」
「トウマいきなり走り出すんだもん。びっくりしたよ」
「セキトモさんもきっちり対応してくれたじゃないですか!」
トウマは嬉しそうに少し離れた場所にいるロッカとバンに手を振った。
「ロッカ、私たちの出番ありませんでしたね?
あの二人、日々成長していますよ」
「トウマのやつ、強くなるわね。
あのパーティー名早計だったかな?」
「うふふ。スライムをスレームにもじっていますし、トウマさんがスライムすら倒せなかった事を知らなければ誰も分からないと思いますよ」
「あはは、やっぱりバンは気づいてたのね。
それトウマに教えちゃダメよ」




