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スライムスレイヤー ~イシノチカラ~  作者: 亜形
第六章 ダンジョン編
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第132話 忘れていたもの

 ギルは足を引きずりながらタズの元に向かった。レオの治療に向かったはずのタズが倒れていた事が気になっていたのだ。


「タズ! どうしたんだ?」

「あ、ギルさん。わ、私、レオさんの治療してて、私がレオさんを治さないと皆が死んじゃうと思って、もう必死になってお願いしてたらなんかパァーってロッドの輝きが大きくなって、そしたらレオさんが起きて立ち上がって、あー、治ったって思ったら急に視界が真っ暗になって、ハッって起きたらチナさんとイズハさんがいて、ミノタウロスのほう見たら凄い光ってて、そのあとミノタウロスが消えちゃって、もう、何が何だか」

「落ち着け、タズ。

 はぁ~、気を失ってただけか。どこも怪我してないんだな?」

「あ、はい。何ともないです」


「タズ、俺の足治せるか?

 腫れてるが多分、強くひねっただけの捻挫だ。ブーストは使わなくていい」

「わ、分かりました」


 ギルは話の内容でタズがブースト2倍の壁を越えたことに気づいたが今は言葉にしなかった。そして治療をさせることで一旦落ち着かせることにしたのだ。


 一方、他のメンバーは周囲の戦利品の回収を始めていた。


「魔石は見つけられた分だけでいいからな~。

 こんな小さいの全部見つけようとしたら日が暮れる」


 見つかった戦利品。


【魔石・特大】 1個

・・・ミノタウロスが落とした魔石。赤と緑の不純物が混ざっている。


【ミノタウロスの角】 1個

・・・バンが斬り落とした素材。


【ミノタウロスの鋭利な尻尾】

・・・トウマが斬り落とした素材。


【何かの棒】 1個

・・・ミノタウロスが武器として使っていた棒。


【魔石・小】21個

・・・討伐した小型モンスターの見つけられた分だけ。数からして複製体が多かったようだ。


 レオは先に戻ると言って建物を出て行った。何もしないで先に戻るのが気まずかったのかついでにミノタウロスが使った棒を引きずって持って行った。一人で戻ったがミノタウロスの残り香のある棒を持つ者に安易に近づくモンスターはいないだろう。


 クルーロはレオが引きずるミノタウロスの棒を見ていてゾッとした。もしあれがレオが持つ大剣のような斬れる武器だったのなら間違いなく全滅していた。ミノタウロスは確かに棒を武器として扱っていたのだ。


「俺たち命拾いしたのかもな」


 トウマ、イズハ、チナの三人は黒い塊があった奥に部屋がある事を発見したので探索に向かっていた。そこは狭い部屋だったので壁を隅々まで確認したのだが隠し扉のようなものは見つからなかった。


「何もないっすね?」

「食糧庫だったとかかな?」

「残念、お宝なしにゃ。トウミャ~、もう帰るにゃ~」

「誰がトウミャですか!」

「あはは!」


 のちにレヨゴの調査団がこの部屋に地下室があることを発見して太古の財宝を手に入れる事になるのだがこのとき苔の生えた床下に地下室があるとは誰も思っていなかった。


 帰り支度を終えた9人は建物を出て野営地に向かった。


「なあ、ギル。ミノタウロスの戦利品は出口で換金せずに持ち帰って調べて貰おうと思ってるんだけどいいか? もちろん相応の報酬は出すからさ」

「構わないぜ。

 ミノタウロスに関しちゃ大して役に立ってねーから報酬はいらねーよ。

 それに別の成果があったしな」

「別のって?」

「タズだよ」

「なるほどね。そういうことなら遠慮なく貰うよ」


「ギルさん、クルーロさんと何話してるんですかー?」

「なんでもねーよ。

 俺たちはミノタウロス戦で役に立たなかったから報酬はいらねーって話だ」

「俺はタズちゃんの治癒のおかげもあると思うんだけどねー」

「わ、私はいいです。戦えませんでしたから」


 タズは恥ずかしそうにロッカのところに逃げて行った。


 野営地に着くとレオは寝ていた。余程疲れがたまっていたのだろう。皆が到着しても起きなかった。


「まったくいい度胸してるよ。

 セーフティポイントだとしても一人で完全に寝るかね?」

「ホント信じれらないわ」


 寝ているレオ以外で軽く食事を済ませて一息つくとミノタウロスについての話になった。ミノタウロスはやはり太古の時代から眠りについていたモンスターだという事。それは太古の時代にもスライムがいたという証明でもある。


「スライムって火山が噴火してから誕生したわけじゃなかったんですね」

「スライムは太古の時代からいた。これは新説になるぞ」

「しかし、これを公にするかどうかは考えものなんだよな~」

「え? 何で?」

「証明の根拠となる大部分がミノタウロスとの会話によるものだからですね?」

「そういうこと」

「あの場にいたやつは俺たちが錯乱していたわけじゃないと分かってると思うけど、モンスターと会話したって言って信じて貰えると思うか?

 それを説明するには力の解放の事だって公にしなきゃならなくなる」

「私たちにメリットは何もないわね」

「なしだな」

「なしですね」

「はい。という事でこれは公にしないという事で決定な!」


「それとは別で僕も気になったこと言っていいかな?」

「何?」

「ミノタウロスは牛と人間を同時に取り込んだスライムだよね?

 それにしては大きさが小さかったような気がするんだ。元のスライムが牛と人間を同時に取り込めるサイズだったとしたらもっと大きいんじゃないかって思ってさ」

「言われてみれば大きな牛くらいだったかもな。

 二足歩行だったから比較しづらいけど」

「もしかして・・・。

 再生速度が異常に早かった事と関係しているのではないでしょうか?」

「密度を上げていたって事か? となるとスライムは擬態する際にサイズを意図して変えることもできるって事になるぞ。いや、命の石ってやつで封じられた影響でそうなったとか」

「それを考えても仕方なくない? 結論出るの?」

「だな~、深く考えても分かんね。考察はこの辺にしておこう。

 俺たちはスライム研究者じゃなくて討伐者だ」

「それもそうだね」


 答えの出ない命の石やトウマが使った古びたナイフについてもここで話すことはやめた。正直なところ皆疲れているのだ。


「今日は早めに休むにゃ~」

「明日は早々に立つからしっかり回復しろよ。

 夕方までに間に合わなかったら待ってる連中が心配するだろうからな」

「「了解~」」


◇◇


 戻りの道中は穏やかなものだった。朝までずっと寝ていたレオは一食食べ損ねたとブツブツ言っていた。


 一同の前をまた小さな兎が通り過ぎて行った。


「捕まえて食うか?」

「バカ言わないで!

 連れ帰りたいくらい可愛いのに食べるなんて絶対させないから」


 小さな箱庭の門を出るとロッカは振り返った。


「ここって絶滅種の生き物が生存しているのよね?」

「そうですね。果たして私たちが足を踏み入れて良かったのか疑問ですね」

「ミノタウロスがいたんだ。もしあれが自然に目覚めていたらここはモンスター集団の拠点になっていたかもしれないんだぞ。いい方に考えろよ」

「そうね」


 そして石橋まで辿り着くと魚のモンスターがまた襲って来ないか警戒しながら皆で橋を渡った。橋を渡りきるとロッカは誰もいない向こう岸に大きな声で呼びかけた。


「おーい! 早く渡って来なさいよ!

 戻れなくなるわよ!」


すると、頭をかきながら全身黒ずくめの装備をした人が橋を渡って来た。


「あ、忘れてた。そういえば運営側の観測者も着いて来てたんでしたね」

「それはそうと今、ロッカ戻れなくなるって言わなかった?」


 橋を渡り終えた観測者はマスクを外した。その男は見たことがある顔だった。


「はは、完全に気配を消していたつもりでしたがロッカ様には敵いませんな」

「チラックの気配が似過ぎてるせいよ。イラックとそっくりなんだもん」


「え? この人って」

「イラックの弟の一人で観測者やってるチラックよ。今はダンジョンにいたのね」

「ロッカ様とバン様に何かあったら助太刀するようにとロラックに頼まれておりましたがその必要はなかったようですな」

「おいおい、俺たちは対象外かよ~」

「もう、余計なお世話よ。でもここに手配された観測者がチラックで良かったわ。

 チラックには上手く話を合わせて欲しいのよ」


「ははは、お安い御用です」


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