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スライムスレイヤー ~イシノチカラ~  作者: 亜形
第六章 ダンジョン編
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第131話 万に一つの勝機

 ミノタウロスをかわしたトウマはセキトモの元へ向かった。


「セキトモさん!」

「トウマ、隙をみてミノタウロスの首を狙うんだ。

 ロッカの見立てでは核は首にある。飛ぶ為の足場には僕を使え」

「あれをやるんですね!」


 ロッカもミノタウロスが横の動きに弱い事に気づいてるみたいだな。

 飛んで正確に首を狙うには一瞬でもあいつの動きを止める必要がある。

 まずは足を狙うか。


「セキトモさん、あいつの動きが止まったときに飛びたいです」

「分かった! 僕はすぐに駆け付けられるよう近くにいるよ」


 ミノタウロスと対峙しているロッカはミノタウロスの横へ横へと回っている。トウマはロッカの動きに合わせて対角へと走り込んだ。ミノタウロスをちょうど中心に挟む位置だ。

 二人は円を描くようにミノタウロスの横へ横へと回り左右から隙をうかがった。ミノタウロスの失っている右腕側に回ったほうが攻撃をしかける算段だ。

 攻防を繰り返す中、トウマは突然の思いつきでミノタウロスの左腕側に来た瞬間に攻撃をしかけた。それはロッカが右腕側から飛び込むのと同時だった。当然ながらミノタウロスの左腕がトウマに襲い掛かる。トウマは爪の振り下ろしでわずかに左腕を斬り裂かれたが構わずミノタウロスの視界を閉ざす大きな左腕の下へ潜り込んだ。そして一回転。


「ブラインドスラッシュ改!」


 それはミノタウロスの腹を斬り裂くブースト2倍の一撃。同時にトウマが受けた左腕の傷は即座に修復が始まっていた。


「危なかったぁ~、痛てぇ~し。

 治りは早いけどやっぱ痛みはあるか、でも上手くいったぞ!」

「トウマ、やるじゃない!」


「ぐっ・・・」《オノレ・・・》


 ミノタウロスは思った。このまま二人と対峙して削られるのは不味い。下手に生かしておくとまた回復してくるかもしれない。再びあの大剣を持つ男が戻ってくれば我が命が危機にさらされることになりかねない。それにこ奴らが時折みせる技には微かに命の石と似たような力を感じる・・・残念だが生かしたまま食らうのは諦めるか。


「ヴォォーーーーーォ!!!」


 再びミノタウロスは建物が崩れるかと思うほどの威圧の咆哮を放った。その際、細い尻尾の先端の毛を鋭利な矢じりのような形状に変化させ、更に失った右腕を超速再生し始めた。


「今更威圧してきても負け犬の遠吠えにしか聞こえないわ。

 そろそろ終わらせてもらうわよ!」


 ロッカは手に持つ双剣の柄同士を合わせ、持ち手を中心とした左右に広がる1本の片刃の武器にして振りかざした。


「双剣合体、真斬丸!」


 それはミノタウロスに対してまだ見せたことがない技があると思わせるロッカのブラフ。合体させた武器の名前を考えていただけで振るう技はまだない。だがそれをできる限りのブースト4倍で見せつけた。

 ミノタウロスはロッカを警戒してロッカの正面を向いた。 その背後から飛びかかったのはトウマだ!


「引っかかったわね!」


 気づいたミノタウロスの鋭利な尻尾がトウマの頬をかすめたが尻尾を斬り飛ばしてそのままミノタウロスの両足首を狙う。


「くらえ、炎熱剣!」


 片足で止まらないよう両足を削ぐようなトウマのブースト2倍の斬撃により、ミノタウロスの両足首は斬り裂かれ炎に焼かれた。


「ぐあぁぁ!!」


 ロッカはミノタウロスの正面から足に追撃を加える。慣れない形状の武器で一撃入れるとすぐに飛び退いた。


 トウマは止まらない。


「今だセキト!」


 セキトモはトウマの斜め後方から、トウマはセキトモの方へ互いに走った。


 セキトモはトウマの跳躍力とミノタウロスとの位置関係を考慮して立ち止まり大盾を構えた。今までとは違いトウマが三角とびで逆方向のミノタウロスに向けて飛ぶ初めての連携技になる。大盾での余計な押し出しはかえってトウマの邪魔になるだろう。セキトモはトウマが飛ぶ為の足場に徹した。


「トウマ、あとは任せるぞ!」


 トウマはセキトモの大盾を踏み台に大きく弧を描くように跳躍した。ミノタウロスとの位置関係は完璧なものだった。ミノタウロスの腕よりも太い首は断ち切れないだろう。そう思ったトウマは剣を逆手に持って突き刺す構えをとった。体重を乗せて剣が突き刺さりさえすればいい。抗魔玉の力の及ぶ範囲に核があれば破壊できる。

 ただ一つの間違いに気づいたときは遅かった。跳躍後の空中ではもうどうしようもない。それは飛んだ位置、ミノタウロスの左斜め後方から飛んだことだ。ほんの数秒待つ余裕さえあればセキトモを逆側に向かわせることもできたはずだった。


「そんな・・・」


 トウマの剣はミノタウロスが上げた左腕に突き刺さり首には届かなかった。トウマの剣から噴き出した炎がミノタウロスの左腕を焼き始める。

 ミノタウロスは突き刺さった剣とぶら下がっているトウマを共に払おうと振り回し出しトウマは刺さっている剣に必死に捕まった。


「うわぁ~~あ」


 くそっ! 失敗した。

 腕に刺さった剣も抜けない。あと少しだったのに。


 トウマを振り回している間にもミノタウロスの右腕は再生を続けている。右腕が再生を終えたら一貫の終わりだ。

 ロッカはミノタウロスに近づけないでいた。


「トウマのバカ!

 このままだとヤバいわ。セキトモ、皆を連れて逃げる事も考えるわよ。

 今なら逃げられるかも」

「分かった!」


 トウマは一か八かの賭けに出た。突き刺さった剣を捨ててもう一度首を狙う。使う武器は腰に挿していた古びたナイフ。それは出入口で荷物を置いて行く際に気休めの護身用として持って来たものだ。

 古びたナイフでも突き刺すくらいならできるかもしれない。抗魔玉の力を伝達できる武器ではないが刺した場所に核があれば倒せると考えたのだ。


 万に一つの勝機。


 トウマはミノタウロスの腕の振り上げに合わせ剣を手放し、上空へ飛ぶと腰の古びたナイフを鞘から抜いた。


 ――― もうこれしかない。最後の望みだ、力を貸してくれ。


 すると、古びたナイフがトウマの思いに応えるかのように輝きを放ち出した。トウマはそのままミノタウロスの首元に古びたナイフを振り下ろした。

 古びたナイフは光を放ち出すと何の抵抗もないかのようにさくりとミノタウロスの首に突き刺さり、ミノタウロスの首の内部から眩しい光が漏れ出した。それは抗魔玉の力を数百倍にしたような浄化の力だった。


「ぐおおぉぉ!」《こ、これは命の石の力?!

 バカな・・・、命の石を(つるぎ)に変えていたというのか・・・》


 古びたナイフを手放したトウマは落ちて転がった。トウマが見上げると光は消え、ミノタウロスは霧散し出していた。


「核を壊せたのか?! 今のは何だったんだ?」


《切り札を隠していたとは・・・お主たちを甘くみていた・・・。

 どうやらワレの命はここまでのようだ・・・》


「待って!」


 バンは消えゆくミノタウロスの元に駆け寄った。


《お主か。またワレを狙っておったな》


 ミノタウロスはバンが再び水のロッドで攻撃を仕掛けようと隙を窺っていたことに気づいていたようだ。


《命の石とは何なのですか?》


《・・・何を言っている。命の石はお主らが作り上げた物だろう?》


《私たちが作った?》


《?! 命の石を知りもせぬだと?

 ・・・クハハ、どの道ワレはここまでだったということか。

 ぐはっ・・・だが、我が命をただで奪えると思うなよ!》


 ミノタウロスは残りの力を振り絞り、無数の黒い光を上空に放った。黒い光が天井を素通りして飛び散るとミノタウロスは跡形もなく消えた。


「ハァ、ハァ・・・やったぞ!」


 トウマは立ち上がって付近に落ちていた古びたナイフを拾った。古びたナイフの刀身は崩れて失われている。


 このナイフっていったい何だったんだ?

 これがなかったらミノタウロスは倒せなかった。


 セキトモとロッカがトウマの元に駆け寄った。


「やったな、トウマ!」

「トウマ、いったい何したのよ?」


「分からないですけど、このナイフのおかげですね」

「それってあのとき手に入れた古びたナイフよね?」

「護身用に持って来てたんですけどミノタウロスは命の石って言ってたような。

 もう壊れちゃいましたけど」

「・・・命の石か。今となっては何だったのか確かめることもできないな」

「そういえばミノタウロスが最期に放った黒い光も気になるわね。

 今まであんなことしたモンスターはいなかったわ・・・」


「おーい」


 クルーロとレオがやって来た。


「わはは! 最後はよく分からなかったけど、ホントに倒しやがった。

 トウマ、よくやった!

 ミノタウロスはまだ力残してたみたいだったし俺はどうやって皆で逃げるか考えてたところだったんだぜ」


「もう片付いたんだ、さっさと戻るぞ。

 オレは早く寝たい」

「そうだな、暗くなる前に野営地に戻るとするか。

 話は落ち着いてからにしよう」


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