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スライムスレイヤー ~イシノチカラ~  作者: 亜形
第六章 ダンジョン編
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第127話 迷宮の主

 次々と落ちて来たのは天井に張り付いていたナメクジのモンスターだった。

 眼の無いモンスターでも触覚を持つモンスターなら触覚の一部が眼と同様に僅かに色が変わるので見分けはつくが即判断できるわけではない。人の頭より大きいナメクジ。早計だが異常に大きいというだけでミミズと同様モンスターと判断するしかない。倒して霧散しなければモンスターではなかったということだ。


「もう! こんなときに限って」


 ナメクジのモンスターの動きは鈍いので倒すのは簡単だ。雑魚と言っていい。一つ気をつけなければならないのはモンスターのナメクジは仰け反って表した口から粘液を飛ばすことだ。粘液を飛ばし捕食対象に当てて動けなくしてからゆっくりと捕食するという鈍いモンスターならではの攻撃を仕掛けて来る。ナメクジに食べられる相手は絶命するまで時間をかけて苦しまされることになるのだ。


「チナ、さっさと矢でこの殻を壊せ!」

「ちょっと待つにゃ、ナメクジなめたら痛い目に合うにゃ!」


 黒い塊の上に落ちたナメクジが溶けるように吸収されているのだが、黒い塊の目の前で大剣を構えているレオですら背後に落ちて来ているナメクジに気を取られて気づいていなかった。


 レオと離れた位置で弓を構えているチナ以外は天井から次々と降って来るナメクジ討伐を開始した。


 クルーロは突然のナメクジ襲来に焦っていた。雑魚とはいえナメクジの粘液を浴びると動きが鈍ってしまう。早めに処理しておかないと黒い塊のモンスターとの戦闘になった際、邪魔になり兼ねない。武器を構えているだけの二人も体力と抗魔玉の力を消費し続けているのであまり時間はかけられないのだ。


「レオ、チナ! もう少し待っててくれ。皆、急いで倒すぞ!」


「小型ですけど、こいつら数が多いですね。複製体?」


 トウマは迷わず真魔玉【青】を剣に装着した。刀身が薄青い輝きに包まれると、水袋の水を剣に振りかけてチャージ時間を短縮する。


「これならどうだ、水飛剣!」


 横一線で振り抜いたトウマの剣から抗魔玉の力を帯びた水の散弾が飛び散った。


 水の散弾を浴びたナメクジが数体霧散。


「やった! 一気に何体も倒せましたよ!」


 一番驚いたのはギルだ。


「おい、トウマ! それ、真魔玉【青】じゃねーか?!

 聞いてねーぞ」


「あ、ギルたちにはまだ言ってなかったっけ?」


「まあいい、お前らが変わった武器や技使うのにはもう慣れた。

 トウマの技は俺の剣の効果と違うみたいだな、同じじゃないのか?」

「使う剣によるんじゃないですかね?

 俺の剣では凍結剣みたいに凍らせることはできないです」

「剣との相性みたいなもんか・・・」


「ギル、何してんのよ!」


「おっと! トウマ、今は周辺に落ちたナメクジ討伐に集中すっぞ」

「はい!」


 トウマはレオに粘液を飛ばそうとしているナメクジに気づき、再び水の散弾を飛ばして見事にナメクジを倒した。

 だが、そのときトウマが考えもしていなかった事が起きた。

 水の散弾が黒い塊にも当たったのだ。水の散弾が直接黒い塊に当たったわけではなく、ただ床を跳ねた水しぶきが振りかかっただけだった。しかし、振りかかった水は抗魔玉の力が乗った水だ。


「え?!」


 突然黒い塊が崩れて霧散し出した。


「わはは、トウマ、想定外だが悪くないぞ! 待ち切れなかったところだ。

 焼き裂け、剛炎剣!」


 レオは黒い塊の中身のモンスターに向けて大剣を振り下ろす。


 一段階目、空気を叩いた大剣の刀身が炎に包まれる。二段階目―――


”ドカッ!”


 一瞬の事だった。レオは吹き飛び、はるか後方にある中央のバカでかい柱に身体を叩きつけられた。レオが握りしめて離さなかった大剣が何度も床を跳ねたことでくすぶる炎の地線ができている。


 トウマは見ていた。レオは黒い塊の中にいたモンスターの拳で殴られた。拳が当たった箇所は腹、胸、どちらとでもとれる中心のみぞおち辺り。ただその拳が人間の頭を超えるほどのあり得ない大きさだったと。


 一同は姿を現した中身のモンスターを見て驚いた。


「ウソでしょ?! いるはずがないわ」


 皆が驚いたのも無理はない。2本の足で立つ3mを超える巨体のモンスターは角のある頭と尻尾の生えた下半身が黒毛の牛、上半身の体のみが人間のような肉体で両手には5本の指があるのだ。

 その姿は絵物語に登場する迷宮の主『ミノタウロス』と酷似していると言っていいだろう。


「タズ、どう見てもあれ、ミノタウロスだよな?」

「こ、ここって迷宮ですよね?!

 ミノタウロスって実際にいる生物だったんですか?」


「そんなわけないだろ!

 あれは人と牛を同時に取り込んで擬態した複合体のモンスターって事だ。

 タズ、悪いけど君を守ってやれる自信はない。

 吹き飛ばされたレオの回復を頼んでいいか?」


「わ、分かりましたー」


 タズは急いで柱の方へ走った。


 軽い攻撃は効かないと判断したクルーロはイズハにも指示を出した。


「イズハ、俺の攻撃もあいつに効くか分からない。

 周りにいる戦闘の邪魔になりそうなモンスター討伐を優先して頼めるか?」

「分かったっす」


 イズハはミノタウロスの注意を引かないようすぐさま気配を消した。


「ヴォォーーーーーォ!!!」


 突然の建物が崩れるかと思うほどのミノタウロスの咆哮に一同は震えた。走り出して距離が離れていたタズまで足を止めるほどだ。それはかつて難易度Aのモンスターと遭遇した者には分かる圧倒的な威圧だった。


「おいおい、冗談だろ。お前らこんなやつと遭遇してたってのかよ。

 凄まじいな・・・」

「ギル、すぐに喋れるなんて余裕あるわね」

「んなことねーよ。油断すんなよ」


 ゆっくりと辺りを見渡したミノタウロスの赤い眼が黄色、緑へと変化していった。眼の色が緑へと変化した意味。それは警戒すら解いたということだ。そして近くの瓦礫に腕を突っ込むと何かを引きずり出した。

 それは2m以上ある先が分厚く僅かに湾曲している白みがかった棒のような物だった。例えるとしたら象牙を逆さに持っている感じだ。ミノタウロスはその棒をまるで試すかのように軽々と振り回し始めた。


「大きな角? 骨? あいつあれ使うつもりなの?」

「武器を使う猿の例があります。

 人が混ざっている体なので何を使っても不思議はありませんが・・・」


”ズガン!”


 ミノタウロスが不意に床に棒を叩きつけると、叩きつけた床の周囲が大きく凹み砕け散った。持っていた棒は壊れていない。


「ひぃ~、凄い威力、あれ食らったらヤバいぞ。

 あの棒、ただのデカい棒じゃなさそうだ。

 しかし、あいつ俺たちに関心がないように見えるのは気のせいか? 眼も緑だし」

「はは、このまま見逃してくれたりしませんかね?」


 ミノタウロスが何かを呟いた。


《オヌシラ カ? ワレヲ オコ シタ ノハ》


 突然、頭に響くような声が聞こえた者は驚愕した。


「今の何? モンスターの声?」

「モンスターって喋れるんですか?」

「何? 僕には何も聞こえなかったけど」

「何言ってる、セキトモにはこの声が聞こえねーのか?」


《クハハ! コトバ ハ カワッテ イル ガ ネンワ ハ ツウジル カ》


「言葉? 念話? この頭に直接入り込んでくる声のことか?」

「クルーロ、何言ってるにゃ?」


 バンは考えた。私にはモンスターの声が聞こえていない。前にモンスターはしゃべるときがあるとロッカは言っていた。その時はロッカの気のせいだと思っていた。今はロッカだけではなく明確に声が聞こえているような皆の話しぶり。気のせいではない。この場にいるモンスターの声が聞こえる者と聞こえない者との違いは何? 自分以外の声が聞こえた者は皆武器を構えている。


「力の解放者?」


 バンは戦闘を始めるギリギリまで温存するつもりでいた三刃爪の片方である左の二刃をそっと柄から抜いてみた。力の解放には抗魔玉の力が必要。これでバンにも声が聞こえれば確定という事だ。


《ワレ ヲ フウジタ イノチノ イシ ハ ドコ ダ?》


「命の石? そんなの知らないわよ!」

「聞こえた! 私にも聞こえました!」


《ニンゲン ノ コドモ カ?

 イヤ、ワレハ ドノ クライ ネムッテ イタ ノダ・・・?》


「は? 私たち、子供じゃないんですけど!」


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