第124話 二足竜討伐作戦
林の中で散り散りになった一同は大樹の陰で身を潜めている。先の戦闘の音を聞きつけたのか突然現れた高さ3mほどの巨大に該当するモンスター3体に襲われたのだ。そのモンスターは小さな兎を食べた二足竜の牙や爪を更に獰猛化してる姿だった。
セキトモとレオが深手の傷を負っており、今はクルーロがレオをバンがセキトモの治療に当たっている。
レオは左胸からわき腹にかけて二足竜の歯形が残るほどの深手の傷を負った。分厚い筋肉のおかげで致命傷を避けられたものの出血量が多い。
「油断した。1体ならまだしもあれが3体同時に来るとはな。
狙われたのがオレじゃなきゃ誰か死んでたぞ」
「治療してるんだから黙ってろよ、レオ。
お前が思ってるより傷はずっと深いんだ、よく喋れるもんだよ」
「チナはどうした?」
「あそこで震えながら隠れてるよ」
ロッカとイズハが3体の二足竜をおびき寄せ、一時的に引き離したのだが二人を見失ったのか戻って来た二足竜が辺りをウロついている。
ロッカとイズハが二足竜を警戒しながらバンとセキトモの元に戻って来た。
「あいつら私たちを追うの諦めてこっちに戻って来たようね。
セキトモ、無事?」
「危なかったよ、死ぬかと思った」
セキトモは右腕を噛みつかれ、籠手が砕かれて牙が肉まで到達していた。引き千切られていないのが幸いだ。
「まだ治療に時間がかかりそうね。
あんたたちはここで身を潜めてて。
私とイズハはトウマたちと合流するわ」
「お気をつけて」
一方、トウマ、ギル、タズの三人は少し離れた大樹の陰に隠れていた。
「ギ、ギルさん、ど、どうします?
わ、私、あれに勝てる気しないですよ」
「あいつらはヤバいな、1体ならともかく3体同時はどう考えても無理だろ。こっちのほうが数が多いといってもあいつらをバラけさせないとまともに戦えねーわ」
「あの二足竜たち、狼のときとは違って常に一定距離を維持してそうですよね?」
「トウマも分かるようになったか。あれだと3体同時にそれぞれ相手しない限りあいつらが連携してくるのは間違いねえ」
「レオもさっきそれでやられましたからね。
ロッカたちのお陰で何とか逃れたみたいですけど」
「それにな、近くであのデカさの3体を同時に相手にするとなると他の戦いに巻き込まれる可能性が高い。厄介だぜ」
ロッカとイズハが三人の元にやって来た。
「こっちは無事みたいね」
「師匠~!」
「タズ、大きな声出すな!
お前らも無事だったみたいだな。
今、あの3体をどう倒すか話してたところだ」
「二足竜討伐作戦会議って感じです!」
弱気だったタズはロッカと合流して元気を取り戻したようだ。
「まずはあの3体を分断しないと無理ね。同時に相手はできないわ」
「自分の糸で罠を作るっすか?」
「あいつらがいなくならねーと時間かけて罠仕掛けるのは無理だろ」
「あ、あの、ギルさん。分断とまではいかなくても2体の足止めさえできれば残り1体と戦えるんじゃないですか?」
「・・・なるほどな、1体ずつ減らしていくってことか。
1体なら俺の凍結剣で足止めできそうだが、2体となると・・・」
「1体止めるだけなら私にもできると思うわ。これで2体ね。
いけるんじゃない?」
「マジか?!
それなら話が早え、俺とロッカで2体足止めするからお前らが残った1体を倒せ」
「え? 俺たちでですか?」
◇◇
「キャーーー! 無理です、無理です、死んじゃいます~~~!」
タズが3体の二足竜に追われている。二足竜の獰猛な牙が何度もタズに襲い掛かっているが何とかかわし続けているようだ。
二足竜たちの背後から後を追っているのはギルとロッカだ。
「ほらな、タズはかわすの上手いだろ?
危険察知能力が高いというか、倒すことを考えなければ大抵は無傷で逃げ切るぞ。
追っているあいつらの攻撃は噛みつきだけだし、コケない限り大丈夫だ」
「コケたらどうすんのよ! タズを危険な目に合わせるなんて」
「いざとなったらこの剣放り投げてでもあいつらの注意をこっちに向かせるさ」
「・・・そろそろトウマたちが待ち伏せてる場所に着くわ。
私たちも動くわよ」
「ヘマすんなよ!」
「あんたこそね!」
ギルとロッカは左右に別れた。
「私がこれだけ頑張ったんです! あとは頼みますよ!」
タズが待ち伏せ地点に到着すると、ギルとロッカの二人が先に動いた。
「固まりやがれ! 凍結剣!」
「痺れてもらうわ! 電撃の双剣!」
二足竜たちの左右から飛び出した二人の挟み込むような攻撃を受け、2体の二足竜が動きを止められた。1体は下半身氷漬け。もう1体は痺れて横倒しになった。
「ところでギル、私たち追いかける必要あった?」
「バカ言え、ここで待ち伏せててタズに何かあったらどうすんだ」
「あはっ、心配はしてたのね。
こいつら動けないし私たちで倒せそうだけど、どうする?」
「倒すに決まってんだろ!」
残りの二足竜1体はタズを夢中で追いかけ続けている。動きを止められた2体との距離も十分に空いた。
タズが逃げている方向の先では大きな岩の上に乗ってトウマが待ち構えている。
「トウマさ~ん!」
「タズ!」
トウマが二足竜の注意を引くと、トウマの方を見上げた二足竜の足元で2本の糸がピンと張った。
考えた作戦は単純なものだった。タズが二足竜をおびき寄せ、トウマが注意をそらし、イズハの糸で足を引っ掛けて切断して転ばせる。転んで動けなくなった二足竜を三人がかりで倒すというものだ。
しかし、そう上手くは行かなかった。イズハの糸で足を切断するどころか足を引っ掛けて転ばせることもできなかったのだ。
二足竜はイズハの糸に引っかかったものの勢いが強く重い、糸を引っ張っているイズハのほうが糸に引きずられた。
「糸じゃ斬れない?」
トウマとイズハはモンスター相手なら糸に当てるだけで斬れると思い込んでいた。しかし、いくら抗魔玉の力を通した状態の糸でも当てただけで斬れるわけはない。今までは巻き付けて締めることで抗魔玉の力を拡散させず、モンスターの内部へ流すことで斬れていたのだ。単に糸で足を引っ掛けただけではモンスターの表面にしか抗魔玉の力は伝達しない、二足竜の足の表面を傷つけただけだ。仮に糸を持っていた者の力が二足竜を止められるほど強かったら糸のほうが切れていただろう。
トウマは引きずられるイズハを視界に捉えながらも集中した。
行くしかない。
トウマは二足竜に剣を向けて岩から飛び降りた。
振り抜いたトウマの剣は二足竜の短い前足を切断したが、それは成功とは言えなかった。二足竜の太い首を狙っていたトウマの剣はかわされてしまったのだ。
トウマが着地した瞬間、怒り狂う二足竜の尻尾の振り払いが襲い掛かった。
トウマは咄嗟に地面に剣を突き刺した。岩盤であったら剣は弾かれるところだったがこの場所の地面は土だ。トウマが突き立てた剣を盾代わりに尻尾の振り払いを受けると、二足竜の尻尾が勢いよく切断され吹き飛んだ。
「痛って~、今のは危なかった!」
トウマが盾ではなく剣で受けたのは正解だった。盾で受けていたら吹き飛ばされただけだっただろう。
突然、尻尾を失った二足竜は横に勢いよく倒れた。片方の前足を失っていることもあり、すぐに立ち上がることもできない。
だが、尻尾の振り払いの衝撃を受けたトウマもすぐに動ける状態ではなかった。
「イズハ、タズ! あとは頼んだ!」
「任せて下さい!」
「自分も行けるっす!」
タズとイズハは全力を出し切った。
◇◇
二足竜を倒したトウマ、イズハ、タズの三人がロッカとギルの元に行くと、二人はボロボロと言っていいくらい疲弊していた。
「あんたたちもボロボロみたいだけど倒せたようね。無事で良かったわ」
「あとの2体はどうしたんですか?」
「私たちで倒したわよ、何とかね」
「マジ?!」
「ちょっと、油断してたぜ。
表皮は堅いし、どこを斬ったら簡単に倒せるか考えてる内に氷崩されちまってよ」
「私もよ。急に動き出したからビックリしたわ」
何はともあれ二足竜3体の討伐完了だ!
今回の討伐で回収した戦利品。
【魔石・大】 3個
・・・3体の二足竜が落とした魔石。
【二足竜の爪】 1個
・・・トウマが斬り落とした前足で残っていた素材。
【二足竜の尻尾】1個
・・・トウマが斬り落とした尻尾部分の皮の素材。
「あんたたち素材まで手に入れたの?」
「トウマさんが斬った部位が残ってたって感じっす」
「たまたまですけどね」
「運がよかったですー!」
「しまった、あいつら絶滅種だったっけ。
俺たち素材のことまでは考えてなかったな?」
「そんな余裕なかったでしょ」
しばらくすると、他のメンバーもやって来て全員無事に合流した。