第118話 手に入れた地図と報酬
ロッカとバンは新しく導入されたイベントの地図を購入する為、馬次郎とファスティオンに乗ってダンジョン3の受付までやって来た。
二人は受付で地図の購入を申し出ると、近くの小屋へ通された。地図は最後のクリア証明を手に入れた組にしか販売されていないので誰でも見られる場所には置いていないようだ。
「随分、厳重ね。買われた後は誰に見られてもおかしくないのに」
通された小屋の中では壁に9枚1組の地図が並べて貼ってあった。5層、6層、7層と別れている。地図の端にはそれぞれ改版番号が書いてあり、手持ちに地図があれば番号を見比べるだけで最新かどうか分かるようになっているようだ。公開されて間もないのに10を超えている改版番号から地図は以前から作られていたと推測できる。
「すべて並べると随分大きい地図になるようですね」
「細かい通路まで書いてあるようだわ」
地図は手書きではない印刷物である。版木などで鏡写しのように逆さに掘られているものが原版だ。塗料をつけた原版に紙を張り付けて複写することで量産できる。この地図は1枚2万もするからか上質で丈夫な紙に印刷してあるようだ。
「これ原版彫ってる人って大変な作業よね?
文字の並び替えで印刷できるわけじゃないし」
「更新頻度が多い場所は何度も作り直してそうですね」
地図を眺めている二人の元に管理の人がやって来た。
「お待たせしました。地図は全点購入で2組分で宜しいですね?
同じ地図の複数枚購入はできませんので腕輪のナンバーを控えさせて頂いております。購入された地図と一緒に返却致しますので腕輪を提出して下さい」
「はい。お願いします」
バンは二組の腕輪を管理の人に渡した。
「あと、地図に載っていない情報は買い取らせて頂いております。
地図の用意にしばらく時間がかかりますのでその間この貼ってある地図をご覧になっていて構いません。
提供できる情報がありましたらそれを提供して頂ければ相応の報酬を出しますよ」
「ここに貼ってある地図は最新ってことでいいの?」
「地図としては最新です。
ですが買い取った情報の反映まで数日かかりますので赤丸で囲んで印が付けてある部分は反映されていないと思って下さい」
「赤の印があるところ以外は情報提供されてないと思っていいわけね。それならあるかもしれないわ。バン、私たちがマッピングしてる地図で確認してみよう」
「そうですね」
「では。地図の用意ができましたらお声がけ致します」
管理の人は小屋を出て行った。
◇◇
バンは赤で印の付けてある部分を書き留めていた。購入する地図には載っていないがすでに情報提供されている場所だからだ。
「お、6層の最奥。私たちが一晩過ごした狭い大地も地図に載ってないわ」
「野営した跡があったので私たちが最初に発見したわけじゃないですが、情報提供はされていないようですね」
「早い者勝ちなんだから私たちで先に情報提供しちゃおう。
分断されたときの隠し通路も載ってないから出してもいいわね。
見つけたお宝は取ってるから通路だけだけど」
「抜け道として利用されるかもしれないですからそれは大丈夫でしょう。
間違った情報は提供できませんので確実に合っている場所だけですよ」
「分かってるわ。こんなことで追われたくないからね」
地図の用意ができると、二人は確実な情報のみを運営に提供した。
結果。情報提供報酬 300万エーペル。
地図購入の代金108万エーペルを大きく上回る収入だ。地図代を支払っても一人当たりの分け前が24万エーペル入ることになった。
「情報だけで凄い額になりましたね」
「こんなに稼げるなんて思ってもみなかったわ」
◇◇
地図を持ち帰ったロッカとバンは馬屋近くの人がいない場所に皆を集めた。周りに人がいる場所で入手した地図を広げるわけにはいかないからだ。
そこで地図代を除いた情報提供報酬を分配すると、思わぬ臨時収入に皆が驚いた。
「・・・稼げるぞ。これは」
「この地図に載っていない場所を見つけるだけでいいんですよね?」
「凄いな。マッピングの精度上げてたらもっと稼げたかもしれないね」
そこからはマッピングの精度を上げる為の勉強会になった。精度を上げるといっても地図なので通路の大体の広さや長さが分かる程度でいい。白紙状態からではないので新しい場所を見つけたときの地図への描き足し方、縮尺の合わせ方を覚えるといった感じである。歩幅はそれぞれ違うので自分が歩いた歩数が何mになるのかを測定したり、地図に書き込む通路の長さを計算したり、腕や指、両手を広げたときや武器の長さがおおよそ何cmなのか知っておくことで誰でもざっくりと描けるようにしようということだ。
早々に諦めたレオはふて寝した。
勉強会が落ち着いたところでギルが言い残した第7層の出入口から地図で追ってみることになった。
「ここが7層の出入口だろ? その先は・・・」
「やや小さめのセーフティゾーンを出たあとは広いフロアに出て、左右に別れた通路と真っすぐに進める通路があるようですね」
「真ん中の通路の先には四角いフロアがあって行き止まり。左右の通路は真ん中のフロアを迂回しているような感じだな。洞窟だったけど、2層と似てる造りだ」
「この左右の通路の先ってまた一つに繋がってますね。
ホント2層みたいだ」
「あれ? バン、この形状って見覚えあるわよね?」
ロッカが指さした場所は左右の通路が繋がった横に長方形で上の辺に大きな通路が5つある場所だ。
バンが第7層をマッピングした地図を取り出して該当する場所を比較すると、広いフロアと大きい通路の数と位置が一致した。迷宮内では逆側からだったがそこで折り返して戻ることになり、何度か通っている通路だった。購入した地図との違いは左右に繋がった通路が描かれているところだろう。
「セーフティゾーン方向を目指してて行きついた場所だし、間違いなさそうだな。
何故この左右の通路に気づかなかったんだ?」
「いえ、通路を見逃すはずはありません。
どちらも壁で通路はなかったはずです」
「・・・もしかして、ここの壁って隠し扉なんじゃ?」
「・・・ダーーー! それしか考えられないな。
どおりでセーフティゾーンに戻る通路が見つからないわけだよ。
5つも通路あるのにいちいち壁押して隠し扉あるかなんて確かめないもんな~。
くそ~お」
「でもここは迷宮の通路だから運営が仕掛けたものじゃないよね?」
「う~ん。セキトモの言う通りなんだけど~。
くやしいじゃん!」
バンは地図を見て何かに気づいたようだ。
「これは・・・、見方を変えれば7層のセーフティゾーン側が迷宮の最奥だと考えられませんか?」
「なるほど。
だとすると・・・この真ん中の通路の四角いフロアが断然怪しく見えてくるね?」
「ですね」
「ギルが言ってた踏破できていない理由がすぐ分かるってのもここを指してるのかもしれないわ。
最初に向かう場所はここで決まりね!」
「なんだなんだ。凹んでる俺を置いて行くなよ~」
寝転んでいたレオが突然立ち上がった。
「せっかくのオフなのに全員が集まってるんだ。
まだ昼過ぎたばかりだし、今からそこ確認しに行こうぜ。
7層のセーフティゾーンからならすぐなんだろ?」
「レオ、聞いてたの?」
「クルーロがうるせえから寝られやしねーよ。
で、どうすんだ?
行くのか? 行かねーのか?」
8人全員の同意を得てダンジョンに向かうことになった。皆、怪しい場所のことが気になったのだ。今回は見るだけですぐに戻る事が前提なので軽い準備だけで済ます。というより下手に入念な準備をしていくとダンジョン内に留まると言い出しかねないのであえて長く滞在できない状態で行くことになった。
これはバンの提案だ。
「なはは。俺たち信用されてねーのな」
「ボクたち5日も入ってた実績あるからにゃ~」
「昨日ダンジョンから出たばかりだぞ。
流石に長居はしないって」