第113話 巨大だと可愛くもないわね
二日前-----。
ダンジョン3第5層にいるユニオン・ギルズ(ギル、カリーナ、サイモン、タズ)の4人はダンジョン内を探索中だ。のちにトウマたちが向かう逆方向の通路を進んでいたのだが、彼らが見つけた宝箱の一つは網が上から落ちてくる罠がしかけてあり、全員がはまって抜け出すのに一苦労したようだ。
「やっぱやめだ」
「ギル、どうしたんですか?」
「サイモン、お前もさっきすれ違った討伐者連中の表情見たよな?
俺の勘だが多分、こっちじゃねえ。
一旦、セーフティゾーン辺りまで戻るぞ」
4人はセーフティゾーンから左右に別れてまた一つの広いフロアに繋がっている場所に戻った。段差もあり人工で作られた迷宮の通路や階段と自然の洞窟が入り混じっている。ここから各所に通路があり、二階建てのように階段で上下に別れている場所もある。
「ここからどの通路を進むかで皆が迷うんだよな」
「ギルさん! 私、中央の大穴があった場所を見てみたいです!
下から見たらどうなっているのか興味あります!」
「おいおい。タズ、普通はそこを一番に避けるだろ?
上はモンスターの巣窟だった場所だぞ」
「!? それですよ。普通は避ける。運営から見たらそこが一番挑戦者にとって遠回りになると思うのでは?」
「・・・なるほどな。行ってみる価値はあるか。
となると、このフロアの真ん中の通路が中央に繋がってる可能性が高いよな。
タズ、お前の望み通り中央目指してやるよ」
「やった!」
◇◇
ユニオン・ギルズは第5層の中心位置の広いフロアにたどり着いた。何の障害もなく整備された広い通路を真っすぐに進んで来ただけだ。
第4層まで大穴があった場所には視界に収まり切れないほどの大きな円柱が立っていた。円柱に沿って下へ降りる螺旋階段が作ってあるようだ。螺旋階段も広い通路にある階段と同様で幅広く、緩やかな螺旋状の下り坂に段差があるといったほうがいいだろう。奥には先に通じる通路が見える。
「なんだここ?」
「これはおそらく上層を支える柱でしょう。
あそこから下へ降りて行けそうですね」
「ここ降りて行けば一気に7層まで行けちゃうんじゃない?」
「モンスターはいそうにないですね。
ギルさん、どうしますー? 降りるかあっちの奥の通路進むかですよ」
「う~ん。今のとこ見つけた宝箱はハズレって感じだったからな。
中身があっても運営が補充している微々たる報酬の金だけのようだし、5層探索は飛ばしてもいいだろ。降りてみるか?」
「私も問題ないと思います。ダンジョン内の各所で5から7層を行き来できるという話ですからおそらくクリア証明は5層にはないでしょう」
「普通に考えたら一番遠い7層にあるわよね?
クリア証明手に入れたらどの層の出入口でも使えるようになるんでしょ?」
「俺が引っかかってるのはそこなんだよな。
このダンジョンは踏破されていない。じゃあ、何をもって踏破なんだ?
7層のある場所に行けば分かるって言われてもな。
分かっているのに踏破はできないってことだろ?」
ギルは頭を掻きむしった。
「最後のクリア証明を手に入れても終わりではないんだよな。
それじゃあ、どこでこのダンジョン挑戦を終わらせることができるんだ?」
「人それぞれなんじゃない?
運営側が把握していない場所や未知のお宝を見つけたりするのが醍醐味なのよ」
「なんだかなぁ~。あるか分からないものを探すのって空を掴んでいるみたいでよ」
「何か達成できそうな目標が必要ということですか?」
「だな。ここまでやったら終わり!ってのを決めないといつまでもダンジョンに挑むことになる。ダンジョンに挑むのが趣味なやつらはそれでいいが、それは俺たちの望むところじゃないだろ?」
「そうね、終わりを決める・・・何か達成感があるものが欲しいわね。
他では得られない何かを得られたら終わりにするというのはどう?」
「わはは。カリーナ、なんかふわっとした答えだな。
ま、とりあえず今はそれでいいか」
「まだ全部の層に行ったわけじゃないんですよ!
難しいことは考えずに楽しみましょうよ~!」
「タズの言う通りか。最悪、俺が飽きたら終わりにするからな。
じゃあ、行くぞ!」
一同は螺旋階段を降りて行った。
◇◇
降りた第6層のフロアも第5層と同じような広さだった。違いはセーフティゾーン方面の通路がなく通路が左右にある事だ。第5層が縦だすると、第6層は横に通路があるといった感じだ。
ギルはセーフティゾーン方面への通路がない事を確認した段階で6層探索を後回しにして7層に降りることを決めた。牙蟻が数体徘徊していたがそれには構わず螺旋階段を降りて行く。
更に降りた第7層も同じようなフロアだった。だが、螺旋階段は途切れている。今度は斜め方向に通路があり、他の層とは違ってこのフロアで進める通路は4つだ。
「ここにもセーフティゾーン方面への通路はないか~」
「でも5層まで戻れば楽に出られるわ」
「そりゃ面倒だろ。早くクリア証明を手に入れたいところだな」
4人は南東側の通路を選び先に進んだ。ダンジョンの奥側へと向かう2つの通路のうちの1つだ。
不思議なことに時折小動物を見かける。
「今、鼠走って行きましたよ!」
「さっきは兎もいたし、いざって時は狩って食料にできるな」
「鼠はイヤですよ!」
一同がどこに向かっているのか分からない状態で通路を進んでいると、扉がある場所に到達した。
「この扉の先に何かありますかね?」
「開けて見ない事には分からん。いつモンスターが出てもおかしくねーからな。
気を引き締めろ」
ギルが扉を押し開けると、もの凄い勢いで一匹の猫が入って来てどこかに逃げて行った。
「・・・モンスターじゃねーし。ビックリさせやがって」
扉の先は広い洞窟エリア。洞窟の奥の上側には穴が複数個所空いていて外が見える。明かり窓というわけではないが周囲は多少明るい。奥の下側は地底湖というべきか、水たまりというべきか、どこからか流れて来た水が溜まって外に出ていっている場所がある。ダンジョンの外側から見たら滝だろう。
小動物たちの姿もあるが当然のように水際でチラホラとスライムが発生しているのも見える。スライムが擬態したモンスターは今のところいないようだ。
「広えな。5層以降はここがスライムの発生元かもな」
実際は他にも各層で第4層から流れ落ちて来ている水のたまり場はあり、スライムは発生しているのだが、ここほど大きくはない。一番スライムが発生しやすい場所であることは間違いないだろう。
「見て。この辺りは植物も沢山生えているわ」
「水場もありますし、小動物が生きていける環境ではありますね」
ギルは振り返った。扉がある方向は人工的に作られた壁だ。
「ダンジョン内ではあるけどよ。ここって迷宮の外じゃね?」
その時だった。タズがギルの後ろに隠れた。小動物たちも一斉に逃げている。
「ギルさん、あれはヤバそうです!」
それはダンジョン内を徘徊している巨大な熊のモンスターだった。熊は洞穴のような大きい穴からゆっくりと降りて来たようだ。
「ギル、今ならこっちに気づいてないかもしれないわ。早く扉の中に避難しましょ」
「手遅れだ。すでにあいつの視界に入ってるよ。
一時的にしのげても俺たちを追って扉壊されたら迷宮内にモンスター入り放題になっちまうだろ。
熊に扉の先があると思われたらダメだ。あの熊は俺たちで倒していくしかねーよ」
サイモンは眼鏡を直しながら頷いた。
「同感です。
熊に迷宮内を破壊されたら通れる道も通れなくなってしまいますからね」
熊が通って来た獣道ともいえる洞穴はなだらかな坂道で第5層まで繋がっている。途中壁が崩落しているのでそこから第5層、第6層の迷宮内に入れてしまうのだがこの場所から第7層の迷宮に入れる所は扉しかない。そこまで気づいていた訳ではないが、ギルが扉を破壊させるわけにはいかないと判断をしたのは正しかった。
「確か、バルンの特急クエストであいつらが倒したの熊だったよな?」
「師匠たちのことですか?」
「そうだ。あいつらに倒せて俺たちに倒せないってことはないだろ?
それに見ろよ。何か気づかねーか?」
「あ、マーキングしてあります!
クエスト対象のモンスターです!」
「タズ・・・、それもあるが俺が言ってんのはそっちじゃねー。
ありゃどうみても成熟した熊に擬態してねーってことだ」
巨大だがバランスの悪い丸々とした熊。違和感は胴や手足の短さだ。スライムに取り込まれた熊は子熊と断定してよいだろう。
「元は子熊かもしれないけど、あんなに巨大だと可愛くもないわね」