第108話 5から7で一つ
ダンジョン3第5層に到着した一同は目を疑った。内側に向けて曲がっている階段を降りて行くと、照明が至る所に設置してある明るい広いフロアに出たのだ。所々崩れてはいるが人口的に作られた壁と平たい床の空間。高い天井を支えるように整列した古い大きな柱も立っている。
フロアでは何組かの討伐者たちが休んでいるようだ。石台に座っていたり、寝転んでいる者、火を使って料理をしている者までいる。
どうやらこの広いフロア全体がセーフティーゾーンのようだ。ダンジョンの出入口の扉は壁に掘られた穴の奥の方にある。討伐者が第6層へ降りられる階段はなく、フロアの隅には木造の小部屋とカウンターが設けてあり、管理の人が数名いるようだ。
「カウンターまでありますよ。
なんかこの場所、ギルドや酒場に近い雰囲気ですね」
クルーロは辺りを見渡した。
「ここから先は洞窟じゃないのかもしれないな。
ダン1、ダン2の祭壇があった場所を彷彿させる作りだ。
いよいよ発掘された迷宮入りって感じか」
「クルーロ、何人かで聞いて来いよ。
全員で行くことはないだろ? オレたちは適当な場所で待ってるからよ」
レオが指さしたカウンターに大きく案内が掲示してあるようだ。
『初めての方はこちらへお寄り下さい』
代表してクルーロ、バン、セキトモ、おまけでトウマの4人がカウンターに行って話を聞いて来る事になった。
「すみませ~ん。俺たち初めてなんですけど」
カウンターにいる女性は少し驚いた表情だ。
「あ、すみません。おはようございます。私がここに務め出してからこんな事初めてですよ。昨日も1組いらっしゃいましたけど、メンテナンス明けの間もない期間にいらっしゃる組は珍しいんです」
昨日、1組か。たぶんユニオン・ギルズが入ったんだろうな。
カウンターの女性はさっそく説明を始めた。
第5層から第7層はクルーロの予想通り発掘された迷宮のようだ。迷宮は内部で繋がっているのでクリア証明は共通。それを手に入れるだけでどの層からでも出入り出来るようになるとの事。
運営側でもまだ把握していない通路があるそうで眠っているお宝があるかもしれない。命の危険のある罠も残っているので探索は慎重に行うように助言された。
ちなみにダンジョン1,2のような救助の為の探索隊は出されない。以前はあったそうだが探索隊がモンスターに襲われて全滅した事から廃止になったようだ。
死人が出た場合の死体処理はモンスターが食べてしまうから必要ない。スライムがいるところでは残された武器や防具も養分として消化されてしまうそうだ。
そしてダンジョン3が踏破されていない理由については第7層のある場所にいけば分かるとの事だ。ある場所の詳細については教えて貰えなかった。
「要は5から7で一つの迷宮と考えればいいのかな?
そりゃ時間かかるよな。ダンジョンの奥まで進んだら出られる時間までに戻るのは困難って考えていいだろう。
待てよ。各層にはセーフティゾーンあるよな?
各層の広さは5kmくらいだし、戻れない距離じゃなさそうだけど。
ってことは単純に最短距離でセーフティーゾーンに戻る道は無いって事か?」
「クルーロ、よくそんな頭回るよね。
僕は迷宮と呼ばれるくらいだから単純に迷路になってると思ったけど」
「あら? 結局、答えはセキトモと一緒じゃんか。なはは」
皆の元に戻り、受けた説明をレオに分かるようにクルーロが教えた。
「要は時間かかるってことだな」
「うん・・・。そうとも言う」
次に掲示板の確認だ。
驚いたことにクエスト対象には難易度Bのモンスターまでいるようだ。他の討伐者が安易に踏み込まない理由の一つである。
『巨大百足』難易度B
『三頭の巨大蛇』難易度B
『巨大ワニ』難易度B
『巨大爪猫』難易度B
『巨大牙犬』難易度B
『巨大熊』難易度B
『巨大蜘蛛』難易度C
『巨大蜥蜴』難易度C
『巨大ザリガニ』難易度C
『巨大鶏』難易度C
「三頭の巨大蛇? 頭が3つってこと?
メルクベルのクエストで双頭の巨大蛇っていた気がするけど」
「おい、トウマ。熊までいるぞ。
しかし、どういう事だ?
洞窟内にいそうにないモンスターがいるなんて。
迷い込んだのだろうか?」
「掲示してあるので対象のモンスターがいるのは確かなようですね。
クエスト対象になっていないモンスターもいますのでこれを見ただけでも何が出てもおかしくないでしょう」
「手応えありそうなやつがいるわね!」
「ようやくオレの力を発揮できそうなやつがいそうだ!」
「レオ、また大剣壊すなよ」
「うぬぬぬ! 巨大爪猫がいるにゃ!
見つけたら成敗にゃ!」
「猫、難易度Bっすよ」
ダンジョン内のクエストは場所の特定がされていない。縄張りをもつタイプなのか徘徊しているタイプなのか分からないので対策は立てられない。急に現れて対峙することになったら非常に危険だ。
「しかし、ここから先、難易度Bがいるとなると厄介だな。
慎重に進まないと俺たちの命にかかわるぞ!
警戒は怠るなよ」
『了解!』
ダンジョン内部側に入ってみないと何も分からない。一同はとりあえずセーフティゾーンを出てみることにした。
ダンジョン内部側へのドアはレオの倍以上はある大きな両開きの古い石扉の一部をくり貫いた感じで備え付けてあった。石扉は数人がかりでないと動きそうにもない。
開け閉めするのは困難そうなので昔は常時開かれていたのではないかという見解だ。もしかしたら第5層のセーフティゾーンは緊急避難用のフロアだったのかもしれない。常時閉まっていたのなら貯蔵庫だった可能性もある。元からドアもあって大きな機材の搬入用に大きい扉が作られているだけかもしれない。
そんな話をしていたバンとセキトモはロッカに一喝された!
「後ろ詰まってるんだからさっさと出てよ!」
「ゴメン、ゴメン」
ドアを開けると少し先は壁。左右に通路といった感じでやはり迷宮だった。通路の幅は10人くらい横並びで歩けそうな広さだ。天井は5mほどの高さはあるだろう。壁の高い位置に設置型の魔石ランタンが施工してあるようで暗くはない。
「いきなり左右の別れ道か。どうする?」
「ランタンが設置してある通路は運営が管理していると思ってよいのではないでしょうか? 魔石ランタンのようですし、定期的に魔石を交換に来ているはずです。私はどちらに行っても大丈夫だと思います」
「なるほどね」
万一、迷った場合、合流できなくなるので二手に別れるという選択肢はない。8人での多数決で左の通路を進むことになった。
しばらく通路を進んで行くと、右に曲がっていて広いフロアに出た。人工で作られた迷宮の通路や階段と自然の洞窟が入り混じって地面から突き出した岩などもあるようだ。このフロアには先に進む通路が複数ありそうだ。
広い通路にある階段は緩やかな下り坂に段差があるといったほうがいいだろう。何か大きい物を運んでいたのかもしれない。
「ここは広いな。
あっち側はさっきの右の通路と繋がってるのかもな。
注意深く探索して行こう。明かりが届いてない所もあるからそこは手持ちのランタンで照らすんだぞ」
「あの辺、モンスターがいるようですよ」
「群れ? 蟻ですかね?」
「この層からは大物もいるし、なるべく戦いは避けて進もう」
「倒せるやつは倒して行った方がいいんじゃない?」
「使う労力は最小限で抑えて行かなきゃ疲労するだけだぞ。
俺たちの道を阻むやつだけでいいだろ?」
「あっそ。分かったわよ」
それから一同はすぐにモンスターに道を阻まれた。複数体いるようだ。
「何あれ? 気持ち悪っ!」
「うねうねしてますね。デカいミミズ?」
「トウマ、頼んだわよ!」
ロッカ、倒さないのかよ。
さっきのやる気はどうした?
レオはやる気なさそうだったのでトウマ、セキトモ、イズハの三人で一掃した。
「落としたのは魔石・小1個だけか~」
「他は複製体だったみたいっすね」