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スライムスレイヤー ~イシノチカラ~  作者: 亜形
第六章 ダンジョン編
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第98話 炎リング

 クエスト対象である黒いやつを発見したのはダンジョン3の第2層から出ようとした頃だった。皆で相談した結果、やつを討伐して行く事が決定。

 まだ第2層をクリアした訳ではない。突然やつが出てくるほうが嫌だろ?というクルーロの説得に女性陣も納得したようだ。


 作戦は全員で囲んでやつの逃げ場をなくして倒すという簡単なものだ。もし壁を伝って天井側に逃げたらクルーロとバンの炎の球で狙い撃ちだ。


 飛び道具としてはチナの弓を使うのが最適なのだがチナは拒否した。矢がやつに刺さるのはイヤだとか。倒した後、放った矢を回収するつもりだからだろう。チナはクルーロの剣を借りた。

 イズハのクナイの投擲でもやつのテカツル表皮に刺さるかどうか怪しい。

 トウマの水の散弾は素早く動く中型相手に当てるのは難しいだろう。

 一番は皆、自分の武器で直接やつを斬るのがイヤだという事だ。倒せばいいだけと言っていたレオでさえやつを見て躊躇した。


「炎の球で倒すのが一番良いようですね・・・」


 モンスターとはいえ、あの姿だもんな。

 皆の気持ちは俺も分かる。手入れしている大切な武器で触りたくないよな~。

 やつに襲われている状況なら躊躇しないけど、今はそうじゃないし。


 一同はやつのいる柱の裏側から左右に別れ、静かにやつに近づいて行った。

 だが、やつの姿が見えた途端にササササッっと別の柱に逃げられた。


「ダーーー! なんだよあいつ」


「正面から柱を囲んで逃げ場を無くしたほうがよいかもしれませんね」


 レオが言う。


「オレたち6人で囲むからクルーロとバンで狙い撃ちしろよ」


「ボクのほうに来たら逃げるにゃ」

「私も来たらかわすわよ」

「あ、でもこれクルーロの剣だから斬ってもいいにゃ」

「お、おい、チナ。分かったから!

 皆は囲んで逃げ場がない様に見せるだけでいいよ。俺とバンで何とかするから」


 バンは少しイヤそうな顔をした。


「ちょっとバン、触るわけじゃないからいいだろ?」


「致し方ありませんね・・・」


 今度は柱にいるやつを6人で正面から囲んだ。柱の両端に身体の大きいレオとセキトモが立ち塞がり、なるべく柱の裏側に行かせないよう武器でやつの逃げ道を塞ぐ。勿体ないが警戒させる為に抗魔玉の力も使う。

 やつはまだ動かないが眼の色は赤だ。6人はジリジリと距離を詰めて行った。


 カサカサ・・・。やつが一瞬で柱から降りてきた。


 やつはチナのほうに向かったが、チナがひやー!と声をあげ、剣を抜くとまた柱に戻って行った。


「ボク今、心臓止まるかと思ったにゃ」


 意を決したクルーロはやつがいる柱に向かって炎の球を放った!


"ボン!"


 炎の球は爆発の類ではないので柱や壁が壊れることはそうそうない。炎自体に重さはそれほどないだろう。炎がなければただの空気の球だ。やつは炎の球をかわしシャカシャカと天井側に登って行った。


「あー、外しちゃったよ」

「下手くそ」


 セキトモはやつのいる天井を見上げると、ロンググレイブで近い天井を力強く突いた。すると、振動が上手く伝わったのか、やつが落ちてきた。


「ギャー!」(クルーロ)

「にゃ~!」

「セキトモ、何してんのよ!」


 逃げ惑うクルーロ、チナ、ロッカ。


「ゴメン。ここ天井に届きそうだったからつい」

「「ついじゃないわー(にゃー)!」」


 落ちたやつはひっくり返って足をバタバタしている。チャンスだ!


「離れて下さい!」


 バンはロッドから飛び出した炎の球を頭上で円を描くようにぐるんと一周させ、円が繋がると同時にやつに炎を放った!


「炎リング!」


 円になった炎がやつの周りに舞い降り、激しい炎が円の中心に向けて収束していった。ひっくり返っているやつに逃げる場所はない。


”ゴワァーーーー!!!”


 炎は凄まじい勢いで炎柱となり、やがて消えた。

 やつは炎と共に霧散していった・・・。


「ふう、倒せたようですね」


「「おおー!!」」


 皆がバンに向けて拍手した。


 バンさん、中型1体相手にそこまでやらんでも。

 さっきのは蟻に使ったブースト3倍か?

 炎リング久しぶりに見たな~。やっぱり凄い。熊以来か?

 そういえばブースト5倍の炎リング食らっても熊生きてたよな?

 ロッカは熊にダメージ入ってるみたいな言い方してたし。

 そう考えると、熊は最初に炎リング不意打ちで食らわせてなかったらもっと強かったんじゃ・・・。


 クルーロは驚いた表情で言った。


「マジか~、バンも上書きできるんだ」


「え?」


「あ、マズった。えーと、バンさ、さっきの技って博士も知ってる?」

「いいえ。私があみ出した技なので武器の評価とは関係ないかと」


「そっか、まだ知らないんだな。ならセーフってことでいいか。

 当面、博士には教えない方がいいかもね。

 俺は教えてない、教えてない。今のは聞かなかったことにして!」


「そう言われると気になるのですが・・・」

「まー、いいから、いいから。

 俺には秘密にすべき事もあるのさ。忘れてくれたまえ。

 いやー凄かったね。さっきの技、炎リングって言うんだ~」


 クルーロ、今、思いっきり秘密って言ったよな?

 それって何かあるって言ってるようなもんだよ。

 バンさんの炎リングに明かされていない秘密?

 う~ん、考えても分からん。クルーロの虚言って可能性もあるし。


 やつが落とした魔石・小とタグはレオが回収した。金属製のタグにはナンバーが刻んであった。


 バンさんの炎リングで燃えカスになってなくて良かったよ。


「レオ、それは換金するまであんたが持ってなさいよ」


 モンスターだったのだが、やつから出てきたと思うと触りたくないらしい。


 その後、一同は急いでセーフティゾーンの部屋に戻った。


◇◇


 ギリギリセーフ。

 一同は外扉の鍵を閉められる前にダンジョンの外に出ることができた。

 外階段から地上に戻り、出口で回収したタグを渡してクエスト報酬を受け取る。


【ゴキ〇〇(中型)討伐依頼 難易度C?】

 討伐報酬 40万エーペル


 分け前は平等に一人5万ずつ。

 やつから持ってきた魔石・小を分けるのは面倒なのでレオにあげるらしい。


「換金すれば一緒だろ?」


 今回手に入れた魔石と宝箱の報酬はそれぞれの組で分けることになったが、A組の宝箱報酬は悲しいほど少なかったので全部トウマが貰ってよいことになった。


 スリーフォの町に戻る途中、報酬を分けるのは合流前後で変わるから面倒だという話になった。だが参加してない組に報酬を分けるのは少し違う。

 どれがどの報酬か覚えてはいられないので組用と合流用で巾着袋を用意してその都度どちらに入れるか決めることになった。手分けしたときに見つけたとか、倒したとかの曖昧な報酬は合流用に入れる取り決めだ。

 合流用の巾着袋は一旦バンが持つことになった。状況に応じて変えてもいい。


 細かい額はスレームガングのパーティー管理費に回してよいとのことだ。

 ワイルド・レオはレオとチナは個人管理も面倒くさがってクルーロが全額管理しているようだ。あれが欲しいと言えばクルーロがしぶしぶ出すという感じだそうだ。でも、働きに見合わない物を要求したらクルーロに却下されるとか。


 クルーロは資金を定期的に二人に割り振ってギルドにお金を預けさせてもいるようだ。なのでレオとチナの個人資産がゼロという訳ではない。どうしても個人で欲しい物はお金を降ろしてきて買うらしい。


 パーティーによって資金の管理方法違うんだな~。


 辺りは少し暗くなっていた。一同がスリーフォの町に戻るとユニオン・ギルズと会った。彼らは昼過ぎに起きたらしく、今日はダンジョンに行かなかったようだ。

 また同じ酒場で夕食を共にすることになった。今回は個室ではない。


 タズがギルたちに今日はお酒禁止です!と言っていた。余程退屈だったのだろう。


 トウマがダンジョン3の頂上までの話をしたところでギルは話を止めさせた。


「ちょっと、待った」


 何? これから落とし穴に落ちた笑い話だったのに。


「トウマ、それ以上はここで話さないほうがいい。周りを見てみろ」


 トウマが周りを見ると、聞き耳を立てている者、耳を塞いでいる者がいた。


「情報だからな。知りたいやつもいれば知りたくないやつもいる。

 皆が知り合いってわけじゃないだろ?

 少なくとも周りに聞こえるような声で話すのはダメだ」


 そっか。ダンジョン内の情報を事前に知って少しでも楽に進みたい人もいれば、何も知らずに行ったほうが楽しめると思う人だっている。

 酒場にいるのは俺たちだけじゃなかったな。

 聞かれて構わない話と貴重な情報となる話は考えて話さないといけないか。

 気をつけよう。


 この日の夕食は早めに済ませて解散した。


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