この世界のモンスター
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かつてこの世界は天変地異と呼ばれるほどの大災害があった。
残ったのは荒れ果てた大地、崩壊した建造物。才ある王でさえ自然災害の前では何もできなかった。都合の良い理想論を掲げたところで民は守れない。力を示せない権力は意味をなさない。当時の王たちは一人の人間として生きる事を選択した。そして、領地を区切る国そのものが無くなり人類が統治する以前の無法地帯へと戻った。
大災害で生き残った人類にまず立ちはだかったのは食料難であった。食料をめぐる人類同士の争いが始まったが人類が野人に戻った訳ではない。数年後、食料難は解消。有力者も現れ出し、互いに協力して世界は復興を試みるようになった。
世界が復興を進めている矢先に『モンスター』と総称されている生物は出現した。当初、モンスターは新たな変異種と思われていた。
だが、のちにモンスターはスライムが擬態した姿という事が分かった。
スライムとは半透明で泥水のような色をした粘性のある無形生物である。モンスターが現れ出したのは突如、新生物のスライムが現れ出した時期と重なる。スライムが現れ出した原因は中央大陸の火山が噴火した事だった。スライムは各地で雨と共に降る『スライムの素』が引かれ合って一定量集まると一個体の生命として誕生する。スライムの素とは『魔粒子』と雲が結合してできる小さな粘性のある滴のことである。魔粒子は火山の黒煙に含まれており、空気より軽い。今では風の流れに乗り世界中の上空に漂っていることだろう。
スライムは取り込んだ生物に擬態するようだ。モンスターは擬態する前のスライムの質量に応じた大きさなので取り込んだ生物より明らかに大きく、爪や牙など攻撃性の高い部位を強化しており、好戦的でもある。
スライムの擬態は巨大化、部位の強化に加えると毛の類は精密に再現しない傾向がある。例えばスライムが兎に擬態した場合、髭やまつ毛もないハゲている兎の姿になる。勿論それは兎ではない。毛の無いやせ細った兎というわけではなく、外見がゴムのような質感の兎の形体。姿を似せているだけなので人が見た目を似せて作った造形物に近いだろう。
スライムが兎に擬態したモンスター名は、『ゴム兎』と名付けられている。
スライムは取り込んだ生物にすぐさま擬態する訳ではない。擬態する対象はそのスライムの嗜好によって違うようだ。スライムがいつ何に擬態するのかは不明。この事からスライムには意思があると考えられている。
スライムは自身の質量より大きい生物を擬態対象としては取り込めない。丸のみにする事でその生物の情報を読み取るのだろう。丸のみにできない生物に関しては溶かして養分にするようだ。モンスターが元のスライムに戻る事は確認されていない。
モンスターは外見の他に眼の色でも識別可能だ。平常時は緑、警戒時は黄、怒り時は赤に変化する。
モンスターには動物のような血は流れていない。血の代わりに魔粒子が流れていると言われている。魔粒子の存在は測れるようになったが人の目には見えないので実際モンスターの内部で流れている事を確認するのは難しいだろう。
モンスターの特筆すべき点は異常に再生能力が高いことだ。損傷を与えても時間経過で元の姿に再生する。切り離された部位は時間経過で霧散して新たに生える。霧散した部位に存在した魔粒子が本体に再吸収されているかどうかは不明だ。
例外として切り離された部位が残る場合がある。モンスター素材と言われている物質だ。魔粒子は流れていない。
モンスター素材は抜け殻のようなものと考えられているが軽くて丈夫な為、今では武器や防具、道具等様々な素材に活用されている。
モンスターを絶命させると霧散して『魔石』と呼ばれる物を落とす。
当初はモンスターの核と思われていたが魔石には魔粒子が含まれていない事が分かった。魔石はモンスターが絶命して霧散する際に初めて生成される物質である。生きているモンスターの体内に魔石は存在しないようだ。
現在、魔石は主に燃料資源として活用されているが、珍しい魔石は観賞用としても売買されている。魔石にはまだ判明していない活用方法があるのではないかと日々研究されて続けているようだ。
現状、人類がモンスターを倒す方法が3つある。
・モンスターの小さな核を見つけ出して壊す。
・現実的ではないが隔離して絶命するまで待つ。
・魔粒子を浄化させる石の力を伝達させた武器で倒す。
魔粒子を浄化させる力をもつ石は、『抗魔玉』と名付けられた。武器に力を伝達させるという発想は画期的なものだった。抗魔玉の発見は人類の大きな希望になったと言えるだろう。
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書斎にいる白髪混じりの波打つ髪の白衣を着た中年の男は読んでいた書物を書棚に戻すと鼻で笑った。
しかし、抗魔玉の力の研究は面白い。よくぞ見つけてくれた。
皮肉なものだがモンスターが出現しなければ抗魔玉の力は発見されていなかっただろう。
男は窓から晴天の空を見上げた。
さて、今回は彼女たちに任せてみたがここにはいるだろうか?