其の参
こちらの作品は作者が小学五年生〜中学三年生であった時分に完全に趣味で書いたもののリメイクになります。表現や言葉選びを除き、物語の本質は当時のものにそいながら書いております。支離滅裂な箇所もあるとは思いますがあまり気にしないでいただけると幸いです。
「もちろん、ただでとは言わないが。」
ついさっき置いたばかりの湯呑を持ち上げ、少女から視線を逸らし、茶を飲みながら彼が言う。少女はまだ彼から目を離さない。唖然として言葉が出てこないようだ。そこから話はなかなか進まない。僕はあまりに面白い状況を目の前に笑いを堪えるのに必死だった。
静寂に耐えきれずに、先に口を開いたのは彼の方だった。
「で、どうする?」
少女はハッとしたように頭を振る。それから、真っ直ぐに彼を見つめて、厳かな声で言った。
「お願いします。できるなら、叶えてください。」
草履を脱いで縁側に正座し、彼に深々と頭を下げた。彼はギョッとして、少女と真反対の方を向きなが
「ああ。」
と短く返す。彼のあんな顔は初めて見たね。いつもすました顔してるのに。彼は少女にちらりと視線だけをやって訊く。
「代償を支払ってもらうことになるし、条件をつけさせてもらうが…。本当に、いいんだな?」
少女はその問に力強く頷きを返す。蜘蛛の糸にでもしがみつきたかったのだろう。そうでもなければ、こんな夢みたいな話を信じるはずがないのだから。少し前から出ていた太陽が顔を上げた少女に当たった。彼女の目の端にキラリとまだ残っていた涙が光る。少女は覚悟を決めた様子で、さっきまでの触れたら壊れてしまいそうな儚げな雰囲気は消えていた。
しかし、彼の方は覚悟を決めきれていないようだった。長生きさせてあげたい。でも本当に彼女の願いを叶えていいのだろうか?そんな感じだった。自分で決めきれないから、少女が諦めてしまえばいいとでも思ったんだろう。付け足しして仕方なさそうに彼が言う。
「代償は2つ。1つは記憶。もう1つは…、いや、今はいいか。知っても意味のないことだ。君に影響はない。」
少女の表情が揺らぐ。少なからず衝撃を受けたようだった。少女が無言でいるのを見て、彼はなんでもないように言った。
「それが嫌ならこの話は白紙だ。俺にどうにかできることじゃない。」
また、湯呑を口に運ぶ。正面を向いたまま、帰れと言うように手を少女に向かってパタパタとさせた。少女は悩む様子を見せながら、おそるおそる彼に尋ねた。「あの、条件はなんですか?」
今度は彼が驚く番だった。まだ諦める気が起きないのかと少女の方を目を見開いて見やる。そんな彼の目を少女はジッと見つめていた。少女にはあとがなかったのだと思う。
また彼は少女から視線を逸らして、桜の木に向き直る。面倒くさそうに重々しく口を開いた。
「俺が君の願いを叶えたと人に漏らさないこと。」
彼にとって何より大切なこと。でも、少女にとっては予想よりも易しかったようで、キョトンとして
「それだけですか?」
とこぼした。彼は少女に一瞥をおくると首肯した。
彼らだけの秘密。それの盗み見をしただなんて、こんなにワクワクすることはない。彼らの約束、いや契約の間には、何1つ信用も信頼もなかった。不安定なものだった。本来、「条件」なんてものは必要ない。だから、この「条件」とやらは彼をの気まぐれでしかなかった。
改まった様子で彼が少女に訊く。
「約束できるか?」
ここまで読んでいただきありがとうございます。作者はまだ学生のため投稿は不定期かつ大分間が空くことが予想されます。続きが気になる方は気長に待っていてください。暇を作って少しずつ制作していきます。