其の弐
こちらの作品は作者が小学五年生〜中学三年生であった時分に完全に趣味で書いたもののリメイクになります。表現や言葉選びを除き、物語の本質は当時のものにそいながら書いております。支離滅裂な箇所もあるとは思いますがあまり気にしないでいただけると幸いです。
少女は神社の住居部分にある縁側に腰を下ろした。彼は「少し待ってろ」と少女に告げて障子の奥へと入っていった。少女は紫ががった小さな手に、はぁっと白い息を吹きかけては擦り合わせて彼が戻るのを待っている。
よく雪かきのされた砂地の見える庭だ。彼のマメな性格が垣間見えた。少女の正面には大きな桜の木が1本。空に伸ばした沢山の枝の上には雪がかかっていて、1部は氷柱が垂れ下がっているところもあったりなんかして幻想的で美しかった。あれほどのものはなかなか見れたものじゃない。彼女も綺麗だと思ったのかな。その目に木を映すと、操られているか、何かに取り憑かれているかしているかのように立ち上がって引き付けられていった。あんな風になることを「吸い寄せられる」って言うんだろうね。
少女が桜の木に触れるくらいに近づいた頃、縁側沿いの障子が開いて、丸くて朱色の綺麗な可愛らしい盆の上に湯気のたった湯呑を2つと煎餅を乗せて彼が戻ってきた。カラカラという音に少女は振り返る。両手を胸の前で振りながら何やら言い訳をする。彼はそれを見て、何を言うわけでもなく少女を手招いた。少女はどこか恥ずかしそうにしながら、いそいそと縁側まで戻り座った。
彼もその隣に座って、2人してお茶を口に含む。ほっと一息とでも言うかのように、ほぅっと吐き出した息は白くって、湯呑から出ていく湯気と混じり合って空に消えていった。少女は暖をとるように温かい茶の入った湯呑を両手で包み込み、もう一口飲んだ。
「何を頼んだんだ?」
彼が聞いた。少女は彼の方を向いた。でも彼とは目が合わない。彼女はすぐに彼から目を離すとしゅんとして頭を垂れた。
「長生きできますようにって。」
そういった少女の声はか細くて、寂しそうで、悲しそうで、どこか自暴自棄になって諦めている。そんな感じがした。
「叶うといいな。」
彼はそう呼応する。がらじゃないだろうにその時の彼の声色は、明るい未来を信じているように聞えさせていた。励まそうとでもしたのだろう。そういう気遣いは下手なくせに。
「きっと叶わないよ。だって、神様は少し意地悪だもの。」
少女は俯いたままほんの少し彼の方を見て小さく笑った。はらりと髪が肩から落ちて少女の顔を彼から隠す。それが彼女を余計に儚げに見せた。
「どうして───。」
そう聞く彼の台詞に被せて少女が言う。
「私は、病気なんです。」
肩が震える。
「次の桜が、咲く前に、私、死んじゃうの。」
少女の声がかすれた。足下にまだ残っていた雪が少し溶けた。少女は湯呑をギュッと握りしめていた。震えるのは寒さのせいではないだろう。ひたりひたりと死の訪れを感じて、怖かったのだろうと思う。僕だって怖い。何年生きても、どれだけ人を見送っても、この恐怖には慣れそうもない。まだ年端もいかない少女なら尚更。
「神様まで頼れないなら」
彼が言う。
「俺がその願い、叶えてやろうか。」
まっすぐと桜の木を見たまま。少女は「へっ?」と間抜けな声漏らし、呆けた顔で彼を見る。彼は湯呑を盆に置き、少女を見た。初めて2人の目が合った。
ここまで読んでいただきありがとうございます。作者はまだ学生のため投稿は不定期かつ大分間が空くことが予想されます。続きが気になる方は気長に待っていてください。暇を作って少しずつ制作していきます。