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プロローグ

こちらの作品は作者が小学五年生〜中学三年生であった時分に完全に趣味で書いたもののリメイクになります。表現や言葉選びを除き、物語の本質は当時のものにそいながら書いております。支離滅裂な箇所もあるとは思いますがあまり気にしないでいただけると幸いです。

  インターホンからピンポーンとそんな陽気な音が鳴った。すぐにマイク越しに女の人の声がした。私はそれに今日何度も言ったセリフを返す。

「先日近所に引っ越してきた〇〇です。ご挨拶に伺いました。」

 はーい、と明るい声がしてガチャリとドアが開く。はじましてとお互いに自己紹介をしたあと、私は筆箱ほどの大きさの箱を手渡した。手元の紙袋が空になる。

「蕎麦です。粗品ですがお近づきの印に。よかったら食べてください。」

「あら〜。いいのに。ありがとう。」

「では──────。」

 そう言ってその場を立ち去ろうとすると、待って、と呼び止められた。

「ねぇ、もしかして挨拶回りはここで最後?」

 なぜそんなことを聞くのか、と戸惑いながらも首肯する。

「近くに裏山があるでしょ。そこに『色彩神社』っていう古い神社があるのよ。あそこは景色がいいのよ〜。神主さんもいい人だから時間があるならちょっと顔だしておきなさい。」

 余計なお世話だと思ったものの大人しく頷く。というのも、何故かその神社の名前には聞き覚えがあって、決して忘れてはいけないものであるような気がしたからだった。

「このあと、行ってみます。」

 少し間が空いてようやく私はそう返事を返すことができた。

「これからよろしくね。」

と彼女は言って私はそれに一礼で返した。玄関のドアに背を向けると、扉の閉まる音がした。

  のんびりと歩く私の足は山の方へと向いている。

 雲ひとつない穏やかな空に雪のようにも見える桜の花びらが舞っている。温かな日差しとは裏腹に、強く吹いている風は冷たい。山の方からはウグイスの鳴き声も聞こえた。

 辿り着いた裏山の入口には塗装のされていない、古いものなのだろう鳥居が立っていた。色は黒ずんで、虫喰いもみられる。その鳥居の向こうに、塗装のところどころ剥げた赤い朱色の鳥居が見える。

 丘と言った方が正しいような小さな裏山に足を踏み入れる。上から吹き下ろしてくる風は相変わらず冷たい。木々で日差しが遮られる分より肌寒く感じられる。私は先程まで開けていた上着のチャックを上まで閉めた。頂上は思ったよりも遠くて、私は五分ほど階段を登ることになった。

 一礼をして鳥居をくぐる。境内はそれなりに広く、神社本体も土地神を祀ったものにしては大きかった。一際目を引いたのは本殿の左に生えている一本の桜の木だった。

 何かに導かれるようにして、拝礼も忘れてその木に近づく。遠目から見て注連縄に見えたものは、どうやら違うようだった。色がぼやけているが紅白の縄である。太い幹はこの木が随分と昔からこの地にあったことを雄弁に語っていた。

 「その木、立派ですよね。うちの自慢なんです。」

声に驚き後ろを振り返る。そこには浅黄色の袴をはいて、手に竹箒を持った男性が立っていた。少し焦りながら言い訳のように、先刻も女性にした挨拶を繰り返す。

「あぁ、あなたが。僕はここの神主で圭といいます。ご近所さんとしてよろしくお願いしますね。」

あの女性が言っていたようにいい人だと、そう思った。

 「それにしても、こんな場所までよくきてくださいましたね。」

私の前を歩きながら、圭さんは言った。彼に連れられて私は神社の縁側に座る。お茶を持ってくる、と言って圭さんはその場を離れた。

 改めて境内を見渡すとどこか見覚えがあって、なぜか懐かしいような気がして、私は実家に帰ったときのような安心感を覚えた。ここでお茶をするという行為もしたことがないのにひどく懐かしい。あんなに大きな桜の木なんてそうそうあるものではないけれど、私には見覚えがあった。

 そうのんびりとしているうちに、圭さんはお盆を持って戻ってきた。お盆の上には、急須と二人分の湯呑と羊羹がのっている。

 そういえば、と唐突に圭さんは口にした。ここにある桜についての話だった。圭さんによると、ここの桜は「万年桜」と呼ばれているらしい。なんでも、一向に花びらを散らすことがなく、春はもちろんのこと、夏になっても、紅葉が赤く染まっても、ほとんどの植物が葉を枯らしても、ずっとその薄ピンクの花をつけ続けているというのだ。私は当然、与太話だと思ったが、確かに境内に桜の花びらはほとんど落ちていない。それは不自然なことだった。

 「万年桜には、とある伝説がありまして、昔、妖怪が花を咲かせて、誰かとそこで会う約束をしたんだとか。それでずっと枯れずに咲き続けているらしいです。」

圭さんは確かにそう言った。

 約束があった?そうだ。約束があった。なんで忘れていたのだろう。でもなぜ?どうして私は知っている?この町に来たのもつい先日のことで、それまでは1度だってここに来たことはない。だけど、私は確かに覚えている。かつて、ここで起きたあの出来事を。優しくて、意地悪で、最期まで私の側にいてくれたはずのあの人のことを。あの人が私に言った最後の言葉を。

ここまで読んでいただきありがとうございます。作者はまだ学生のため投稿は不定期かつ大分間が空くことが予想されます。続きが気になる方は気長に待っていてください。暇を作って少しずつ制作していきます。

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