決戦の前夜
―――2年後―――
人間界は俺の住むサウス王国とノース王国の2つに分かれているが、ノース王国がこのごろサウス王国に侵略してきているらしい。
その結果、王国騎士団のリーダーを務めるお父さんとお兄ちゃんが戦争に出陣することになった。
俺がノース王国を沈めればすぐ終わるのだが、神様が人間のすることに邪魔をいれてはいけないのでどうにもできないのだ。戦争に参加するくらいならできるのだが、、、。家族がそれを許してはくれなかった。
「やっぱり俺も戦争に参加したい。俺の魔力があったら一瞬で相手に勝てるよ。」
「たとえそうだとしてもミナトを危険な場所には連れていけない。それにミナトが家からいなくなったら誰がお母さんとオーロラを守るの??お留守番を頼んだよ。お兄ちゃんを信じて。」
「パパ~~~、にいにぃぃぃ~~~。行かないで~。」
隣で泣き叫んでいるのは2歳になったオーロラだ。
「オーロラ。泣いたらお兄ちゃんたちがいけなくなるよ。笑顔で見送ってあげよう。」
「にいに。絶対戻ってきてね。待っているからね。」
「あああぁぁ、ミナトもオーロラもかわいいぃぃぃ。2人に会うために絶対に帰ってくるからおとなしく待っているんだよ。」
「「うん。頑張ってね。」」
そうしてお兄ちゃんは行ってしまった。
俺はあることを思いついた。
そうだ。俺の分身が王城にいればいいんだ。みんなにばれたら怒られるから、バレない様に、影からサウス王国を応援しよう。
「主、行くつもりでしょ。僕もついてく。」
そうゆうわけで、俺は他人から見えない加護をかけ、シロに乗ってお兄ちゃんについていった。
ついに国境に着いた。
ここでは川を境に国がわかれ、川から少し遠くの両陣に城があるため、そこが拠点となるだろう。城から向かって右に湖が、左に森があるため、おそらくそこがこの戦争のカギとなる。
しかし、サウス王国は圧倒的に戦力で負けている。ノース王国は軍事国家なので、経済国家であるサウス王国は厳しい戦いとなるだろう。
サウス王国は、大魔導士がジョンさん1人しかいないのに対し、ノース王国には大魔導士が2人いるうえ、勇者までいる。しかも戦力が、こちらが7万人なのに対し、向こうは10万人いる。勝てる確率は5%もないだろう。しかし攻めてきたから戦うしかないのだ。
城で一晩休み、明日から開戦だ。
俺は貴族が集まる作戦会議を見に行った。
――ドンッ
「まずいことになった。これじゃ一方的にやられるぞ。向こうには勇者もいる。どうすればいいんだ。」
「お父さん、落ち着いて。きっと何かいい策があるよ。大丈夫。」
「そうだな。とにかく、ノア、お前は西の森で戦え。あそこの森はお前の森の能力にぴったりだろう。」
「うん、絶対勝つよ。」
「そして東の湖は、水属性のレイナさん、あなたに任せます。」
「かしこまりました。必ず勝って見せます。」
「うん、頼むよ。問題は中央戦だ。ここは魔法が使えない国民同士の戦いだが、逆にいうとここに7万人の兵力が投入されるんだ。ここの戦場が今回の戦争の鍵を握っているといっても過言ではない。が、3万の兵力差か、、、。」
「大丈夫です。俺を信じてください。」
そういったのは、その中央戦の総大将、レオ将軍だ。彼の言葉には落ち着きとともに威厳と気迫が溢れていた。
「数では負けていますが、この国の兵士にはそれをはねのける力と気持ちがあります。そして、俺にはその部下達を信じて戦いに送れる気持ちがある。戦争は気持ちです。俺を、部下たちを、信じてください。」
俺は、その総大将を信じられる気がした。
「うむ。わかった。将軍を信じよう。頼んだぞ。」
「任せてください。」
そうして会議は終わった。
俺はさっきの将軍が気になって兵士が集まる場所に行った。
そこでは兵士たちが、戦いの前夜祭としてみんなでお酒を飲んでいた。
「よし。ついに明日だ。絶対勝つぞ。」
「しかし俺たちは戦争になれていないうえに兵力差で負けている。不安だな。」
「ああ、俺なんてこの前結婚したばかりだぞ。もしかしたら、もう二度とあいつに会えないかもしれねえ。」
「そんなこと言えば、俺だっておととい子供が生まれたばかりだぞ。」
「俺だって、、、」
「俺も、、、」
言い合いが始まってしまった。戦争の前日となればみんなも不安がたまっているんだ。
「カカカカカ。お前たち、荒れておるのう。」
「しょしょしょ将軍?!?!?!なぜここに?!」
「お前たちが緊張しとるかもしれんと思って見に来たが、来て正解だったようじゃの。」
「すみません。明日が決戦だというのに。俺たちこんな弱気で。」
「なに、誰だって今が幸せじゃと死が怖くなるもんじゃ。だから怖いと思えることに感謝せえ。しかしなあお前たち、俺たちは兵士だろ?兵士として生きてきた道に今の幸せがあるのなら、今回の戦争の先に未来の幸せが待っているはずじゃ。そう憂いていては勝てるものも勝てんだろう。楽しくいこうぞ、同志よ。」
「「「うぉーーーーー!!」」」
一気に場が盛り上がった。
「よし。俺はやるぞ。未来の幸せをつかみに行くんだ!」
「俺もだ!敵国の奴らに嫁たちを一切触れさせねえ!」
やっぱりだ。この将軍はすごい。俺は明日この将軍のもとに一般兵として参加しよう。
どうせお兄ちゃんたちの戦いには混じれないからな。
そう俺が決心しているときだった。
―――「うわぁぁぁ!!!」
本陣の城から悲鳴が聞こえた。
俺は急いで城にテレポートした。
「あ、あなたは、、、敵国の勇者!!開戦は明日からのはずだ!なぜここに?!」
「私はこの戦争を止めに来た。」
「は?この戦争を始めたのはあんたたちだろ。」
「そうだ。俺の国の王が間違っている。本当に申し訳ない。ノース国代表として謝る。」
「勇者のお前は戦争に反対というわけか?」
「そうだ。こんな無駄に何百人もの命が奪われることしたくない。しかし、ノース国の貴族はみんなサウス国を自国のものにすることで優越感に浸ろうとしているんだ。国の民のためとかそんなものじゃない。あの国はおかしい。」
「そんなの信じられるか!お前がサウス国に害を与えないという証拠はあるのか?」
「そうだよな。信じられないなら俺を戦争の間牢屋に入れていてくれていい。その代わり、この戦争に勝ってくれ。そして、無駄な犠牲をなくすんだ。」
「父さん、どうする?」
「うー――む。こいつは、信じるに値する人間だと思う。」
「僕もそう思うよ。」
「ほんとですかハリーさん?!この人とは少し話しただけですよ?!なのに信じるのですか?!」
「うむ。しかしやはり、表向き上は捕まえておく必要がある。この城の外からしか開けられない部屋をこの勇者に与えるように。衣食住は困らないようにする。これくらいしかできなくてすまないな。」
「いいえ。充分です。信じてくださり本当にありがとうございます。」