表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

誘因

作者: 星雷はやと


「うぅ……はぁ! はぁ!」


 小学校の帰り道、僕は家に向かって全力で走る。背後から黒い塊が地面を這って追いかけて来るからだ。毎日、僕が一人になるとこの黒いのは、僕を追いかけてくる。

 背中のランドセルが重たくて、投げ出したい。しかし、これは兄ちゃんのから貰った大切なランドセルだ。黒いのに飲まれた物は盗られて二度と帰ってこない。以前は給食袋を盗られた。


「わっ!? ……いたぁ……」


 地面の凹凸に躓き、僕は盛大に転んだ。両手の掌と両膝が、熱く痛い。泣きたいけど、今は逃げないといけない。黒いのに飲まれたら、大好きな兄ちゃんに会えなくなってしまう。それは嫌だ。


「やぁ! こないでぇ!」


 立ち上がろうとしたが、足に力は入らず。少しでも黒いのから距離を置こうと、尻餅を着いたまま後退り叫んだ。


「友樹! 大丈夫か!?」

「……っ! にいちゃん!!」


 黒いのが僕の靴先まで迫ると、一番聞きたかった声が響いた。そして優しく抱き上げられると、その温もりにしがみついた。


「っ! 怪我したのか!?」

「にぃちゃ……ふぇ……また黒いのがぁ……」


 心配する兄ちゃんの声に、原因となった物を伝える。


「またか……」


 兄ちゃんが黒いのを睨むと、透明になり景色に溶けるようにして消えた。兄ちゃんは僕と同じで、黒いのが視える人だ。そして唯一の理解者であり、救いである。黒いのは兄ちゃんに勝てない。何時も兄ちゃんが睨むと逃げるのだ。僕の兄ちゃんは強い。


「大丈夫だ。兄ちゃんが付いているからな」

「……うん、兄ちゃんといる……」


 優しく頭を撫でられ瞼が重くなる。全力疾走の疲れと恐怖から解放され、頼れる優しい温もりに瞼を閉じた。


「ちょっと、やり過ぎたかな? まあ、怪我が治るまでは控えさせるか……」


 寝てしまった僕は、兄ちゃんが楽しそうに笑い。その足元に黒い塊が蠢いていたなんて知らなかった。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ