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向かう先へ(2)


川沿いを歩くと、針葉樹林が視界の先まで続いている。

干上がってた街とは違い木々が生い茂っている。先頭を歩くのはギルだった。

入り組んだ山道になり、ユーイはギルに道を細かく聞いていた。

その横をぴょんぴょんと跳ねる様に歩くロアとミア。

子供でありながら、疲れたと一言も言わないばかりか、他の3人に見劣りしないほどの体力を持っている様に見える。昨夜ユーイ言っていたディーガル一族の秀でた身体能力なのだろうか。

後ろを歩いていたサラだったが、ここから先は見通しが悪いからとイオーレが最後尾に着いてくれた。


「あ、そうだ」

「・・・?」


サラは最後尾にいるイオーレの方を振り返った。足を止め、イオーレが到着するまで待っていた。葉っぱについた虫が飛び立つと雫が地面へと零れて行く。


「昨日、氷袋ありがとうございました。

おかげで赤みも引いてます」


イオーレは少しだけ驚いた表情を見せたが、いつもの無表情にすぐ戻ってしまった。


「あぁ、それなら良かった」


直ぐに会話が途切れ、サラは次の話の種を探すが中々思い浮かばない。


「サラ」


突然名前を呼ば、イオーレを見る上げると、ふわりと上がったイオーレの腕から、サラの首に何かが掛けられた。ほんの少しだけ首に重さを感じ、掛けられた物を確認した。


「うわぁ。綺麗・・・」


それはガラスの中に水色と紫色の雫がゆらゆらと動く幻想的なネックレスだった。

アクセサリーのように見えたが中に秒針が見える。


「あっもしかして水時計?」

「テーゼではなんて言うのかは知らない。テーゼの人間はやたら時間を気にするんだろ?」

「確かにそうかもね。こっちに来る時に着けてた腕時計壊れちゃって…貰っていいの?」


イオーレは軽く頷きそれを確認するとサラはもう一度水時計を見た。

タイマー式の水時計は見たことがあるが、水の奥で秒針が動いている水時計は、現世ではあまり見かけないタイプだった。


「すごい、どうなってるんだろう…とても綺麗。あの村にこんな物があったなんて」

「いや、あの町にはない。あったのはその時計の枠組みだけ、後は俺が作った」

「えっ!?作った!?」

「…あの村に着いた日、たまたま見かけて今朝買いに行った」

「これをそんな短時間で作ったの?」

「水の原理を応用すれば簡単だ」


サラはもう一度水時計をみるが、とても簡単そうには見えない細かな作業そうに感じた。

サラが水時計を持ち上げると、水時計は太陽の光に当たりキラキラと水が反射した。

イオーレの能力を少し見せてもらったが、原理を理解することはできそうになかった。


「俺は液体の操作なら簡単にできる」

「液体?」

「昨日ユーイが言っていただろう。俺の一族は『滅紫の墨』を代々製造してきた。

つまりはインク、液体の物であれば自由に操作できる。

気候を予測感知できるのも、空気中の水分濃度の変化で予測できる」

「だから昨日の嵐もぴったり当てることができたんだ、すごい」

「・・・手貸して」


イオーレが立ち止まり、サラも言われた通り手を差し出した。サラの手の平ギリギリにイオーレの手が覆いかぶさる。触れそうになったその距離に一瞬ドキッとし、イオーレを見たサラ。

しかし彼はいつもの無表情面で2人の手を見ていた。すると、次の瞬間サラの手の平ひんやりと冷たさが宿った。


「冷たっ」


すっ、とイオーレが自分の手をサラの顔くらいの高さへ持っていくと

サラの目の前に雪が降りだした。

イオーレの手の平からハラハラと結晶の形をした雪が舞い、サラの手の熱で溶けていく。


「うそ…雪っ?」

「この世界じゃ大した事じゃない、みんな何らかの能力を持っ」

「すごーい」


サラは自分の手の平で起こる奇跡の様な現象に歓喜の声を上げた。


「ああぁっずるい!!!俺も見たいっ!!!」


前方を歩くロアが2人に気付き、慌てた様子でこちらまで走ってきた。

ロアはイオーレの前で足踏みをしながら


「俺も!!俺も」

「ん」

「うぉおおっ冷てぇぇっ」


ロアは両手をイオーレの前に出すと、先ほどより多くの雪が降り出した。

それはまるで手品を見ているような感覚だった。


「コレ食べれる?」

「知らん」


ロアは手に抱えた雪をミアの所へ持っていき半分わけていた。

その様子を見つめながら、2人はまた歩き出した。


「えと、イオーレがインクで」

「イオでいい。みんなそう呼ぶから」

「うっうん。イオがインクでユーイが紙でギルさんが筆だったよね?」

「あぁ。俺も詳しくはそこまで知らないけど、ギルが方向感覚に優れてるのもそこからきてる。

ギルが言うには空間にメモリが見えるって昔から言ってるけど…よくわからない。

気になるなら後で聞いてみれば?」



ゴゴゴゴォオオオ


「うわっ」

「キャッ」

「なんだ!?」


突然の地響きに皆足を止め足に力を入れた。ふらつくサラの腕を握るイオーレ。地響きはどんどんと大きくなっていく。

状況が読み込めず、辺りを見渡すし地響きの強い方を確認すると、崩れた崖の斜面からゴツゴツとした円球の様な物がこちらへ転がって来る。


「なだよ、落石か?」

「いや違う、こちらへ向かってくる所をみると意思がありそうだ」

「じゃゴブリンか?」

「おそらく」


先頭にいたギルとユーイが前方向から加速してくる岩を見つけた。こちらへ向かってくる大きなゴツゴツとした岩は確かに生きている様に思えた。岩に向かいユーイが先日と同じように落雷を落すと激しい光と共に

少し離れた所で岩は止まった。

ギルが近づくと、ダンゴムシのように丸まっていた岩はユーイの技によりその身を表した。


「おいおいなんだよこれ。こんなの初めて見たぞ」

「新種かな?」


ゴゴゴゴゴォォォォオオオ


すると先ほどよりも更に大きな地響きが起こった。岩を静止したことに安堵したのも束の間、再び身を構えた。先ほどとは違い地響きの強さは全方向に及んでいるようだった。

すると今度は全方向から巨大な岩ダンゴムシが現れた。


「ヒィィッ」

「やばいな、これじゃ分が悪い」

「仲間を呼んだのかよ」

「わからないけど、走ろうっ」


最初に現れた岩ダンゴムシの方へ向かい走ると、追いかけてくるようにいこちらへ向かってくる。強固な体を地面に叩きつけるよう転がって来る。叩きつける度、地響きとなり足場が覚束なくなる。


「ねぇっ追いかけてくるよ!ユーイ倒さないの?」

「下手に刺激したらまた仲間を呼びかねないだろう、よくわからない以上逃げるのが先決だよ」

「ええーでもどんどん増えてるし、それに」


足場の悪い道を必死で走るユーイとギルの間にロアがやってくる。緊迫感を持たないロアの視線は後方を見ていた。その先にハッとするユーイ。

後ろにはサラを抱え木から木へ飛び移るイオーレの姿。背後には今に岩ダンゴムシに襲われそうなほどの距離にいた。


「イオッ」


ユーイは走りながら後ろにいるイオーレとサラの身を案じた。次の瞬間イオーレが移った木の枝がギシッと音を立てて折れた。バランスを崩すイオーレの背後で、待ち構えていたかのように岩ダンゴムシは丸めていた体を仰け反らせ、内側にある口の様なものを見せた。背後からする異臭と生暖かな風。イオーレは顔を歪め、空中で身体を反転させ振り返ると手のひらを岩ダンゴムシに向けた。先ほどのサラに雪を見せたように空気中にある水分を集め氷の剣を作り出すことができる。昨夜の雨もあり一撃で捉えられるはずだった。


「・・・ッ!?」


しかしいつも簡単に出るはずの氷の剣は作れず、氷柱の様な小さな針が岩ダンゴムシの口に勢いよく入って行った。


ギュゥゥウウウウ


体を丸め呻きだした岩ダンゴムシ。そのすきにイオーレはサラを抱えたまま再び走り出した。

背後でもだえる岩ダンゴムシの周りを囲むように仲間が止まった。


「さすがイオだな」

「・・・」

「イオ?」

「急ごう」


背後のうめき声にイオーレは一瞥し、すぐに前を向き直す。抱えられているサラは恐怖から声も出せずに目を瞑っていた。

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