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この世界の理(2)

ゴロゴロッドォオオン

大地が避けるような雷の音が響いた。


「キャッ」

「うへぇ~こりゃどっかで落ちたな」

「かなり近かったね」


外がピカピカッと光り、雷の音に思わず叫ぶサラ。テーブルのライトが消え辺りが真っ暗になる。


「停電・・・?」

「まじかよ、災難だな~」

「どうしよう何か明かりを」


窓から外を見ていたイオーレが部屋の中に視線を移すと、暖炉の上に置いてあるロウソクを机の上に置いた。再びテーブルに灯りが宿った。


「しばらくはこれで」

「よかった!ありがとう。・・・ユーイ?」


明かりが灯りユーイの顔を見ると、か細いロウソクの明かりのように儚い表情を浮かべていた。

サラの呼びかけにハッとしたのか直ぐにサラの知るユーイに戻った。


「あ、ごめんよ…その結婚の話が上手く進み式も間近にした頃だった。『予言の書』とそれにまつわる物が盗まれたんだ」

「まつわるもの?あっそれって前話してた『予言の書』専用の紙とペンとインクですか?」

「まあ、そんなところだね。イオ、悪いけど見せてあげてくれないか?」


イオーレはサラとユーイがいる机にやってくると、サラの前に置いてあるグラスの水に手をかざした。


「・・・あの?」

「・・・」

「これは説明するより見てもらう方が早いからね」


すると、グラスの中にある水がイオーレの手の平に吸い込まれていく。イオーレの手の中で具現化された水の塊が、ゆらゆらと空気中に浮かんでいる。そして驚くことに揺らめいていた水の塊は次第に氷へと変化してい。サラはまるで手品でも見ているような感覚だった。


「えっうそ!水が勝手にっどうして?」

「イオは液体を自在に操れるんだよ。これが『滅紫の墨』を作れる一族の能力」

「すごいっどうなってるの・・・」

「僕たちはこの能力を代々先祖から引き継いでいる一族。さっきの君を襲った連中が言ってた参首の騎士っていうのは僕たちの事だよ」

「あれ?…でもだったら『予言の書』は新しく作れるんですか?」

「作れるよ。ただ何百年という歳月を要してしまう。

僕たちが一族から受け継いでいる様に、僕たちもまた、それを自分たちの為ではなく子孫に向けて作っている」

「姫は『予言の書』が盗まれた事に、大変嘆き悲しんだ…そして己を攻めた」


ユーイは次の言葉を出すのを躊躇っている様子だった。

その様子にサラの胸の内がかすかにざわめいた。ユーイが言いにくそうにしていることは明らかで、先ほどイオーレが言っていた「守れなかった」という言葉に結びついている気がしたのだった。


「姫は今深い眠りについている」

「・・・眠ってる?」


ユーイを見かねてか外の様子を見ていたイオーレがぽつりとつぶやいた。

なぜ眠っているのか、とても聞きける雰囲気ではなかった。


「ただ、姫が眠っていることは城の極一部の者しか知らされていない。故に君を襲った連中も、僕らと同行を共にしているのを見て姫だと勘違いしたんだろう。この先ももしかしたらああいう輩がでてくるかもしれない」

「・・・そうだったんですね。ティステナ国同士でも争いがあるんですか?」

「そんなことはないよ。ティステナは平和だ。だからこそ今までだって隣国と穏やかに暮らしてきたんだ。それを破ったのはバッカスの連中だよ」


白いロウソクからゆっくりと重たい蝋が流れていた。隙間風のせいか、ロウソクの明かりは大きく揺れ部屋に作る影も歪に醸し出していた。


「あっでもさっきのイオーレさんみたいな魔法が使えるなら、『予言の書』がなくったってバッカスに勝てるんじゃ」

「僕たち個々の力だけではバッカスの国の力には及ばない」

「とにかく俺たちが今成すべき事はバッカスから『予言の書』を取り戻す。

『予言の書』が姫の手に戻ればこの世界はまた元通りになるんだ…それにこのまま放っておけば、アンタのいる現世だってどうなるかわかんねぇんだ」

「そんな・・・」

「あっそうだサラ、昼間ロアとミアと一緒だったけど何か聞いているかい?」


ユーイは思い出したかのように、サラの顔を見つめた。ユーイが言う『なにか』とは何かよくわからないままサラはあいまいに答えた。


「少しだけ…?」

「そうか…実はあの二人はティステナの出ではないんだ。

半年くらい前、今回の様に手がかりを掴むため3人で旅をしていた時に、たまたま遭遇してね。

身寄りもなさそうだったからティステナに招いたんだ」


サラは昼間のミアの事を思い出した。

(ミアは自分とロアはこの国じゃないって言ってたけど、さっきの男が言っていたディーガルって…どこの国の子なんだろうあのロザリオから不思議な力を使っているみたいだったけど)


「説明が最後になってしまったけど、この世界の理ができた時、隣国の鬩ぎ合いを阻止する為に

大きな警備線が引かれている。その警備線上が別名ディーガル地帯に住まう種族がロアとミアだよ。あと空にいくつも島があるだろ?あそこもディーガルが所有するものがよ」

「えっあそこ人が住んでるんですか?」

「もちろんだよ。僕らも行った事があるけど、長閑な場所だよ」

「でもあんなところに住んでいたら、怪鳥や珍獣に襲われるんじゃ」

「あー、ハハハそうだよね。でもディーガルに住む人々は身体能力とは別に特殊な能力があって、ほら、さっき君が見たのもその1つ」

「あっロザリオから出てた魔王みたいな」

「そうそう、だから珍獣たちは本能的にディーガルの島を襲ったりはしないんだ。

それこそバッカスは武力貯蔵庫ではあるけどディーガル族の能力にはかなり警戒を示している」

「ティステナはディーガルとは手を組まないんですか?そんなに強い力があるなら」

「う~んそうだね、本当はそうしたかったんだけどね」

「・・・?」


外ではまだ雷鳴が轟いていた。先ほどより小さいものではあったが、叩き付けていた雨粒はバケツをひっくり返したような大雨となった。


「ディーガル族の能力はもうひとつ、これは全てのディーガル族が持っているかは僕らも定かではないんだけど、古来よりディーガル族は次元を操作できる者がいたんだ。あの2人の持っているロザリオは次元を行き来することができる」

「次元を行き来・・・?」

「あのね、落ち着いて聞いてほしいんだ…」


ユーイの表情が一段と罰が悪そうに変わった。サラはゴクリと唾をのみ込みユーイの声に耳を傾ける。

次元を行き来する術があの2人にあとすれば、帰れるのではないかと期待を持った。


「僕たちとサラが出会ったのはティステナからバッカスに近い警備線付近、つまりディーガル地帯に踏み込むギリギリの場所だった。

ティステナとバッカスの近い場所でなら『予言の書』をロザリオから引っ張り出すといったんだ、ロアが」

「ロアが・・・?」

「僕たちも半信半疑とはいえロアはやる気に満ちていたし、そんなことができるならこの争いが起こる前に区切りをつけることができる。期待も持って見ていたんだけど・・・」

「・・・?」

「どういうわけか君が出てきちゃったんだよ」

「えっ・・・?えぇぇえええ!?」


嘘のような話にサラはイオーレとギルを見るが目を合わそうとしない。


「だから、君がどこの次元から来たか把握できないわけで…」

「まっまさか帰れないってそういう事なの!?」

「ふっ2人の話だと現世には帰してあげれるけど、時代と空間が少しだけがずれと思うって」

「時代?」

「2、300年くらいのずれが予想されるのかな」

「にっ!?」


頭の中がグラリと周り視界がぼやけたサラ。ユーイの言葉に勢いよく立ち上がったせいだけではない。


「2,300年なんて言ったら私確実に浦島太郎じゃない

なにそれ、そんなの聞いてない…

お母さんやお父さんは?怜ちゃんにも2度と会えないのっ!?」


「・・・っ」


気づけばサラの頬に涙が伝っていた。

それに気づきユーイは慌ててハンカチを差し出す。


「ごめんね。急にこんなに色々話してしまって…段階を経てって思ったんだけど

今日の事もあって早めに伝えた方がいいと思ったんだ」

「…ヒクッ・・・」

「君は姫様に似ている。だからこの先も、今日みたいに危険な目にあってしまうかもしれない

『予言の書』が盗まれたことも、姫が眠りに就いて居る事も極一部の関係者しか知らないから」


サラは自分の手で涙を拭が、次から次へ溢れてくる。それは少しだけ今の自分の状況を理解したからこそだった。


「今日はもう遅いから部屋で休もう」


ユーイはサラを支え部屋まで見送った。激しく鳴っていた雷は遠のき、雨音も先ほどより静かになっている。明日は晴れるというイオーレの予測は恐らく的中するのだろう。


「ごめんね・・・」


サラの部屋の扉を開けるユーイ。泣き続けるサラにそれ以上かける言葉が見つからなかった

サラの背中を軽く押し部屋へ入る様促した。ユーイの中でサラの後姿が一瞬姫重なった。その幻影に眉をひそめたユーイ。


「君のことは僕たちが必ず守るから」


そして扉をゆっくりと閉めた・・・





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