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動き出した世界(2)

市場にやって来たユーイたちは、必要な水や食糧を確保しようと店を探していた。ロアは村の子供たちとテーブルゲームを始めた。


「夕飯までには戻っておいでよ」

「おーう!わかってる」


市場には小さな店が何件も立ち並び、この村で一番賑やかな場所だった。3人で移動しているとギルが口を開いた。


「おいユーイ、お前あの女どうする気だよ」

「どうするって前も言ったけど、このまま放っておくわけにもいかないだろう

私たちにだって責任がある」

「それはわかるけどよ。この国の話をする必要がるのかってこと。ロアとミアの時だって」

「彼女は突然この世界に放り込まれたんだよ。少しでも不安を解消してあげないと」


店主たちの客を呼び込む威勢の良い声が市場に溢れていた。時刻は夕時前、晩の支度に買い出しに来ている住民が多かった。黙ったままのイオーレの視線に気づき、ユーイはギルから視線を移した。

足元に風が吹くと、砂を巻き上げて行く。


道中で立ち止まった3人にその空気は少しばかり重かった------


「あの子、似てる」

「…はぁ?何言ってんだお前。似てるって誰に?」


どこか遠くを見ていたユーイの水色の瞳が微かに揺れたようだった。イオーレが再度口を開こうとした時それを阻止するようにユーイが先に声を出した。


「とにかく、均衡が破れた今のこの世界では、いつ危険な目に晒されるかわからない

私たちの街に連れて行けば安全が保障されている」


イオーレの言葉を遮ると、ユーイは再び歩き出し、市場の奥へと向かった。

幼少期より共に過ごしてきた3人。各々が与えられた伝統と家業を継ぐ者同士共に切磋琢磨しあってきた。離れるにも離れることはできない宿命のような関係だった。


「なぁ、似てるって誰に?」

「姫様に・・・。相変わらずギルはそういうの疎いな」

「はぁ?似てねぇって、その辺にいそうな女だったぞ!」

「ちゃんと見てないからだろ」

「だいたい姫は金髪だしあの女黒髪だし」

「つーかなんだよ、じゃぁユーイの奴は姫に似てるからあの女保護したってことか?」

「それだけじゃないとは思うけど…」

「かぁっ!!なんだよそれ、ったく…。あいつまだ姫に未練でもあんのかねぇ」

「…さぁ。どうだろう。何かほかに事情でもあるのかな」


1人先に行ってしまったユーイの後姿を見つめるイオーレとギル。ティステナ国の軍部である証の白い衣類が砂埃で薄汚れたこの村の中では異様に浮いていた。




□□□


コンコンッ

夕刻、古い木製扉を叩く音がサラの部屋に響く。宿は貸し切りで1人ずつ部屋をあてがわれていた。

皆が買い出しから戻ると、サラもミアと別れ部屋でくつろいでいた。部屋の時計を見ると、夕食の時間までにはまだ少しだけあった。


「今いいかな」

「はい」


ユーイの声に慌ててベットから立ち上がり、泥の着いたパンプスを履くと、すぐに扉を開けた。


「ごめんね。せっかく休んでいたのに。これを先に渡しておこうと思って」

「いえ、そんなことないです。買い出しありがとうございました」

「はい」


ユーイは手に持っていた物をサラに渡した。それを受け取り、何か確認するサラ。てっきり食糧かと思っていたが、そのわりには軽かった。そして軽いわりに大きい。サラは首を傾げながら袋の中を確認する。


「えっこれって」

「その格好じゃ目立つし、なにより歩きにくいと思ってね」


手渡された物は上品な布でできた衣類だった。サラサラと肌触りが良く、艶やかな色彩と着心地のよさそうな繊維。そして靴も一緒に用意されていた。


「でっでも私この世界のお金ないですし」

「フフフそんなのいらないよ。もう直夕飯ができるから着替えたらおいで」

「ありがとうございます」


ユーイの優しい笑顔と行為に、あの感覚が宿ったことに気付いたサラ。扉が閉まると、貰った服を握りしめた。顔が火照っていくのがわかる・・・それは以前サラが怜に抱いていた感情に近いものだった。

けれどそれをどこかで否定しているのは、ユーイの優しさが哀れみからくるものだとわかりきっていたからだ。サラが部屋にある鏡の前で服を合わせていると、ロアの声が宿中に響いた。


「たっだいまぁー!!腹減ったー!!」

「もぉロア遅い」


サラは急いで服を着替えた、そしてもう一度鏡を覗くと-----


「すごい、ぴったり」


それは採寸したかのように服はサラにぴったりだった。淡いペールトーンのカラーとふんわりしたスカートはタイト過ぎず動きやすい。サラは夕食の支度を手伝うため部屋を出た。


「わあっっサラ!すごくかわいい」

「本当だ、よく似合ってる」


食堂へ入ると既に皆が集まり夕食の用意をしていた。つまみ食いをしていたロアがサラを見るなり手が止まり、口からクルミがポロポロとこぼれた。


「すげぇー姫様にそっくりだ」

「さっきミアにも同じこと言われたけど、でもそんな高貴なお方に私なんかが似てるわけないと思うな。うわっ」


ギルはサラに近づき腰を屈めジッとサラを見つめた。5人の中で一番背が高く体格のいいギルに間近で寄られると威圧感がある。


「ん~どうだかなぁ~俺はあんま似てないきがするけどなぁ」

「え、とあの…近」

「うおぁっっと、おぃおぃあぶねぇだろイオ」

「…恐がってるだろ」


イオーレがギルの肩を持ち、そのまま食事が並ぶ椅子まで引いて行った。キッチンからは食欲をそそる香りが漂ってくる。


「さぁ席について食事にしよう」


食卓に並ぶたくさんの料理に驚くサラ。ハムやソーセージ、野菜もフルーツの盛り合わせもとても瑞々しい。見たことのないクルミもサラダに交ざっている。ここの世界に来てからは焚き火での料理しか食べていなかったせいか、今夜宿の人が作ってくれた料理はとても豪勢で華やかな料理だった。ユーイは自分達のことをお姫様の補佐役と言っていたことを思い出したサラ。この料理は町からの歓迎品なのかとサラは考えながら一口料理を口にした。


「おいしい」

「うん。おいしい」

「見掛けない食材だったか上手いか心配だったけどよ!イケるな!」

「とってもおいしいです」

「これ、うまい」


珍しくイオーレが料理の感想を述べていたのに気づいたサラ。イオーレとは、最初サラが目を覚ました時以来あまり話す機会がなかった。イオーレがおいしいと言った物をサラも食べてみた。


「ユーイ、いつこの村をでるの?」

「その事なんだけど、できたらあまり時間をかけたくない。

本当は明日には出たいんだけど…」

「明日はやめといた方いい」

「やはりそうか・・・」

「どうして、明日はやめた方がいいんですか?」

「明日の夜は大雨になる」

「雨・・・?」


サラがこちらの世界に来てから今日までずっと晴天が続いている。この村も、どちらかというと乾燥地で雨など降りそうにもないように思えた。


「というわけで、遅くても明後日の昼までにはここを出発したい

ギル、ここからの最短ルートをまただしといてくれないか」

「あいよ」

「それからイオは引き続天候の予測と後、城へ到着が遅れると伝えといてほしい」

ユーイの指示に頷く2人。夜空は星が見える。本当に明日雨が降るのか、サラには少し信じ難いことだった。再び食事の手を進めると、テーブルの向かい側にいるミアが話しかけた。

「ねぇサラ明日雨が降る前に一緒に村に行こう、いいでしょユーイ?」

「あぁいいよ。ただし人通りの多い所だけだよ」

「ロアも一緒に行こう」

「えーいいよ俺は」

「どうして?一緒に着いて来てよ」


大きな口を開けパンを頬張るロアを説得させるミア。サラは昼間ミアが言っていたことを思い出す。


--------私とロアはこの国の出身じゃないから。


両親の事を聞くと、言いにくそうにしてそれ以上なにも答えてはくれなかった。

2人の姿をみていると、不意に近所に住んでいた兄弟のことを思い出した。兄弟がいない自分にとっていつも隣に誰かが居る事がとても羨ましく、それを知ってか知らずか怜は幼い頃いつもサラの傍にいてくれたのだった。



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