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短編集

異世界で冒険者・探索者に、経験値投資

「よーし、やるぞ」

 この日、男は自分の積み上げてきたものを使って打って出た。

 それを博打というなら博打であろう。

 だが、男は全てをそこに賭けた。



 世界に迷宮があらわれ、そこから怪物があふれてきた。

 それらに対抗する為に、人々は迷宮に挑んでいった。

 そうして怪物は倒され、迷宮は攻略されていく。

 しかし、新たな迷宮は常にあらわれ続けている。

 人は、終わりのない消耗戦を強いられていた。



 そんな迷宮の攻略に探索。

 それにまつわる仕事も増えた。

 そんなものの中に、投資というものも発生していた。



 これは、迷宮に挑む探索者への支援から始まった。

 武器や食料などの物資を探索者に提供する。

 その見返りに、迷宮で手に入る魔力の塊である魔石を手にいれる。

 互いに互いを支援し合う行為だ。

 それが今や投資にまで発展している。



 迷宮に挑む迷宮探索者。

 それに資金などを投資して、その見返りを得ていく。

 危険な博打ではある。

 探索者が壊滅したら全てが消える。

 しかし、見返りもそれなりにある。

 それを求めて、投資に走る者もいる。



 冒頭の男もそんな一人である。

 貯めに貯めたものを投資しようとしていた。



 ただし、男が用いるのは金銭ではない。



 ため込んだ資産を抱えて探索者協会へと向かう。

 探索者への投資をするなら、ここに出向かなければならない。

 探索者関係の様々な事を担当してるのがこの協会だからだ。

 当然、探索者への投資も扱っている。

 これから投資しようとしている男、投資男はその窓口へと向かった。



「すいません」

 やってきた探索者協会、その投資窓口。

 そこで受付に声をかける。

「探索者投資をやりたいんですが」

「はい、分かりました」

 受付は慣れた調子で対応をしていく。



 そうして数十分。

 投資に必要な最低限の説明が終わる。

 そのほとんどは事前に調べた事と同じだった。

「以上になりますが、よろしいでしょうか」

「ええ、大丈夫です」

 必要な事は聞いた。

 あとは実際に投資を始めていくだけ。



「それで、何を投資しますか?」

「経験値を」

 投資男は迷わず答えた。



 経験値。

 迷宮があらわれてから知られるようになったものだ。

 人が様々な活動を通じてい得ていくもの。

 これを用いる事で、己の能力を高めていく事が出来る。

 それを投資に使うというのだ。



「それでどのくらいの経験値を?」

「10万はあります」

「なるほど……」

 迷宮探索もせずにため込んだのならば大したものである。

 それだけあれば、そこそこの成長も出来る。

 少なくとも、素人から多少は仕事に慣れたくらいの水準には。

「それで、それをどのように運用しますか?」

「そうですね…………」

 投資男は考えを伝えていく。

 どんな者に投資をしていくのかを。



 まず、基本的には手堅く探索をしてる者達。

 そこに投資をしていく。

 経験値1万点を、期限1年間で。

 返済に際しては、1万5000点で返済すること。

 返済出来ない場合は、上がったレベルや技術・知識などを経験値に還元、そこから返済する。

 死んだ場合は、霊魂を経験値に変換し、返済分を当てる。



 そして、これを誠実に履行するために、奴隷契約に準じた魔術も使っていく。

 そこまで徹底して、探索者への投資はなされる。

 一見、探索者に厳しい条件に見える。

 だが、これくらいしないと踏み倒しの可能性があるのだ。

 どうしてもこうせざるえない事情があった。



 ただ、これだけの条件でも投資を受ける利点もある。

 探索者からすれば、金銭にしろ経験値にしろ、あればあるだけありがたい。

 特に経験値でレベルを上げれば、それだけで探索が有利になる。

 その利点を先に手に入れてから探索すれば、死ぬ可能性が減る。

 そこに命がかかってるともなれば、多少不利な条件でも投資を受ける意義はある。



 普通にやっていたら、一年二年はかけ出し期間を過ごさねばならない。

 その駆け出し期間を短縮し、ある程度迷宮の奥で稼ぐ。

 それが出来るなら、得られる利益も大きくなる。

 返済も無理なく行えるようになる。



 地道にやるよりも楽が出来る。

 その楽は手抜きをするという意味では無い。

 命の危険を減らして楽が出来るという事だ。

 決して世の中を侮ってるわけではない。



 それを投資男は提供していった。

 目立った功績を挙げてるわけではない。

 そこそこの所でそこそこやってる。

 ただし、確実に帰ってくる。

 生き延びていく。

 それが出来る連中に。



 派手な連中は除外していった。

 大口を叩く者。

 危険な挑戦をしようとする者。

 そんな者は投資の対象外にした。

 欲しいのは、活躍ではない。

 確実に投資分が返ってくる事だ。

 無理や無茶をしたらそれが危うくなる。

 だから、堅実にやってる所を選んでいった。



 そんな中堅の探索者に6万ほど融通する。

 上手くいけば、一年以内に9万になって戻って来る。

 これまでの実績を考えれば、それも不可能ではなさそうだった。

 


 そして残りの4万点。

 この経験値を新人に注ぎ込んでいく。



 危険な賭になる。

 どんな人間なのか全く分からない。

 そんな連中だ。

 そこに投資となると、これはもう博打に等しくなる。



 上手くいけば実入りも大きい。

 だが、失敗する可能性の方が高い。

 新人だからまともな知識も経験もない。

 技術だってない。

 そもそもレベルが低い。

 そんな者に好んで投資する者はいない。



 いるとしたら、よほど余裕の有る富豪か。

 あるいは善意の援助者か。

 さもなくば、万が一に賭けるばくち打ちである。



 それでも投資男は新人に賭けていった。

 その分、条件はきつくして。



 まず、投資条件だが。

 能力やレベルは度外視した。

 新人にそんなもの求められない。

 それよりも、性格や人格などを重視した。



 求めたのは慎重さ。

 迷宮に入るのだから、度胸は必要だ。

 しかし、度胸だけでは困る。

 迷ったら撤退、困ったら撤退、少しでも無理だと思えば撤退。

 まだいけると思ったら撤退、余裕の有るうちに撤退。

 それが出来るような者を選んで投資した。



 理由は簡単である。

 無茶や無理というのは、瞬間的に凄い力を発揮する。

 だが、長くは続かない。

 無理に無理を重ねて無茶をすれば、傷つき疲れて、やがて死ぬ。

 迷宮では特にこの傾向が強い。



 その為、慎重に行動出来る者を選んでいった。

 どうせ経験値で底上げするのだ。

 能力が無くてもかまわない。

 そんなものではどうにもならない性格を重視していった。

 たとてどんなに能力が高くても、慎重さがない者は簡単に潰れる。

 そんな無駄な事をするつもりはなかった。



 そうして見つけた新人探索者達。

 それらに経験値を融通していく。

 全部で4万点。

 これを半年で6万点にして返済する。

 レベル上昇の底上げがあってもかなり厳しい条件だ。

 しかし、返済出来ないほどではない。

 新人探索者達はこれを飲んだ。



 今よりも更に稼ぐためにはレベルを上げねばならない。

 その為に経験値が必要。

 その経験値を稼ぐとなれば、半年でも足りない。

 先んじてそれが手に入るなら、この後の活動が楽になる。

 そう考えての事だ。



 こうして投資男の投資生活が始まった。



 結果から言えば、この投資は上手くいった。

 新人探索者達は、無理なく立ち回り、半年も経たずに経験値6万点を返済。

 そんな新人達に、投資男は回収した6万点の経験値をそのまま再投資。

 半年で8万点の返済を条件とした。



 その3ヶ月後、投資開始から9ヶ月後。

 中堅探索者達は予定より早めに経験値を返済。

 9万点の経験値が返ってきた。

 これもまた中堅達への再投資に回した。

 今度は1年間で12万点での返済とした。



 こうして始まった経験値投資。

 それはかなり上手くいった。

 1年目が終わる頃に、新人達が経験値8万点を返済。

 もちろんこれも再投資。

 返済期限1年間で、返済額12万点で融通した。



 中堅の方も予定より早く、2年目の半ばで12万点を返済。

 より深い階層まで潜入出来る、もっと稼げる所まで成長した。

 そんな彼らに12万点を再投資。

 今度は半年で15万点の返済とした。



 そんな2年目の終わり。

 経験値は合わせて27万点となって返ってきた。



 その経験値のうち7万点を自分で使用。

 レベルを上げて、技術や知識を成長させた。

 残り20万点は投資に用いていく。

 既に中堅から抜け出た者達に10万点。

 新人を越えた新人達に10万点。

 返済期限1年で、15万点ずつ返済するよう求めた。

 これも上手くいき、3年目が10ヶ月も経過した頃に満額返済がされた。



 その間にも、投資男自身の生活が変わった。

 上昇したレベルや能力。

 これをもとに、職場での立場も向上。

 責任も増えたが、給料も増えた。

 それまでは下っ端をまとめるくらいの役目だったのだが。

 今はその更に上、小さな係を幾つか統括する立場になった。



 もちろんその間にも投資は続けていく。

 職場での更なる出世を目指すにしても、能力は必要になる。

 その能力を上げるために、経験値が必要になる。

 その経験値を手に入れるには、投資が欠かせない。

 普通にやっていたら、大きなレベルアップなど出来ないのだから。



 そして、そうでもしなければ経験値もまともに稼げない。

 そんな実情が投資男にはあった。



 彼はもともとの能力が低い。

 極端に低いわけではないが、一般より一段劣る。

 レベルアップする事で、ようやく人並みになるくらいだ。

 その為、危険な迷宮探索はほぼ不可能。

 一般的な仕事で経験値を稼ぐしかない。



 だが、能力が低いために、仕事をこなすのも一苦労。

 誰でも出来るような低賃金労働で糊口をしのぎながら経験値を貯めた。

 それでも10万点まで貯めたのだから大したものである。

 もっとも、普通の人間なら5年もあればそれくらいはどうにかなっただろう。

 しかし、投資男はそこまでに10年間かかった。

 以て、彼の能力がどれほどか分かろうというもの。



 だから投資に賭けるしかなかった。

 それで経験値を増やし、レベルを上げ、能力や技術・知識を手に入れる。

 そうして人並み以上の能力を身につけない限り、まともに稼ぐ事も出来ない。



 そして、経験値投資4年目。

 総額30万点に増えた経験値。

 そこから幾らかを己に使う事も考えた投資男だが。

 そこを堪えて全てを投資に回していった。

 既に生活基盤の方は幾らか安泰になった。

 あえて経験値を使ってレベルを上げる必要はない。

 ならば、全てを投資に回し、更に利殖に励んだほうが良い。

 そう考えての事だった。



 ただ、ここに来て投資対象を増やす事にした。

 今まで通り、元中堅や元新人達にも投資はする。

 しかし、それらにはそれぞれ10万点に留めた。

 残り10万点は新人別の新人に投資していく。

 既存の投資先だけでなく、新たな投資対象を増やすためだ。



 投資対象が増えれば、その分だけ儲けの可能性も大きくなる。

 また、一つが駄目になっても、他で稼げる可能性が出て来る。

 その為にも、新たな投資対象を見つける事にした。



 ついでに、新人達の教育を、成長した者達に任せもした。

 その方が危険は減る。

 成長した者達からすれば大きな負担になるけども。

 しかし、これで新人が育てば、大きな戦力になる。

 迷宮探索や攻略に必要な人材が手に入る。



 長い目で見れば、そういう利点もある。

 それを理由に、投資男は新人を元中堅や元新人に押しつけた。

 かなり嫌な顔をされたが、それには気付かないふりをした。



 ただ、最終的にこれはそれなりに評価される事になった。

 手間はかかるが、戦力が手に入るのはありがたいと。



 投資としても申し分ない。

 新人達に投資した分は半年も経たずに回収。

 そのまま再投資をしても問題無く回収。

 一年で何度も経験値の返済を受ける事になった。



 その結果。

 投資経験値30万点。

 それが4年目の終わりには80万点にまで増加していた。



 この80万点のうち、60万点を探索者達に投資。

 そして、20万点を投資男は自分に使った。

 レベルが一気に上がっていく。

 知識や技術も新たに身につけ、あるいは向上させていった。

 その結果、人並み以上の能力を得る事に成功した。



 そして、投資開始5年目。

 記念も兼ねて迷宮探索に挑んでいく。

 今までは能力が低くて挑む事も出来なかった場所。

 15歳で村から出て来て。

 10年間下働きを続けて。

 投資を始めて5年、ようやくそれなりの能力を手に入れた。

投資というか貸し出しというか

金融といって良いのか悩ましい

だが、思いついたので書いてみた





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