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あさごはん

作者: さちたまご

目が覚めたら異世界に転生していた…なんてことはありえるはずがない。

そんな絵空ごとに興味が湧く。私はいつもどおりの無言の部屋を見つめ、

まるで何かに吸い寄せられるかのように台所へと静かに向かった。

 

 清潔な調理器具が汚してくださいと言わんばかりの様子に、また胸が躍る。

シンクが冷めきっている。二日前にインスタで見たダッチベイビーに挑戦しようと

冷蔵庫を未知の森かのように見渡すと、卵と半額のシールが貼ってあるベーコン、

冷凍庫に冷やご飯があった。現実なんてそんなものだ。それから、重くて妙に

活き活きとしたフライパンを弱火で熱し、軽い足取りで私はボウルとお気に入りの

はしを両手に、卵をといた。春を呼ぶ、いや、脂身のある、雨にぬれた桜を連想させる

ピンク色のベーコンを、手先の軽いリズムで、トン、トンと音楽を奏でる。

 フライパンに油をしく。少し入れすぎたかな。でも今日は気にならなかった。

ガスのホオォォーと部屋を包み込む優しい音に安心する。あせるように換気扇を

カチッ、バーンとつけた。ベーコンをパチッ、パチッという音と共にリズムを刻むように

鉄の上で踊らせた。背中が日焼けのように、今度は入学式で女の子と共に笑っている

赤いランドセルを連想させる色へと垢抜けていた。ふんわりとした気泡を描いている

卵をジュュゥゥと音をたててまるでベーコンを優しくタオルで包むように流し込んでいく。

グウゥゥとお腹が鳴る。はしですばやく炒る。一部の卵がトロついている。ばっちりだ。

私は昔から鮮やかに発色して堂々と流れる卵に食欲がそそられ、大好きなことを思い出した。花柄の可愛らしくて金色のふちどりがあって高級感がある皿に盛りつけた。

今日一番の喜びが心地よい。冷やご飯を急いで茶わんに盛り、待ってましたとばかりに私の手がはしをつかみ一口。自分の悩み、考え事から開放された。いつまでもこの時間が

続けばいいのに。あっという間だった。さて、片付けないと。

 


午後一時。冷蔵庫は空っぽ。お弁当を買った。おいしかった。

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